第09話 抗体ワクチン



「体調はどうですか?」


「全身が痺れている感じだ」


 痛みはないが、痒みのような感じがあって、どうにも落ち着かない。


「そうですか、あとで検査をします。

 この部屋を無菌状態にするため完全隔離をしていましたが、隔離を解除します」


 先生は一度部屋の外へ出て、再び入ってきた時には防護服を着ておらず、はじめて素顔を見た。


「改めまして。

 内科医の人吉ひとよしです。

 足守あしもりさんの医療チームリーダーです。よろしくお願いします」


「俺の今後は先生たち次第のようだから、よろしく頼むよ」


「室内の機器などを取り外します。少し騒がしくなりますが、気にしないでください」



 それほど騒がしくもなく、ベッド周辺の環境がガラリと変わった。


 少しは開放感がある感じになって、気分も落ち着く。


「異世界の病気を警戒していたのか?」


「それもありますが、

 別の世界で生活していた足守さんには、現在の環境に合った抗体を持ってもらう必要があります。

 接種した各種ワクチンの効果が出るのを待っていました」


「そうなんだ。それはありがたいが、それこそ魔法で治せるんじゃないか?」


「魔法で治療をすると身体に抗体ができません。それでは普通の生活ができなくなります」


「なるほど」


 言われて気づいたが、魔法は万能ではないし回復魔法は一時しのぎだ。


 この世界で生きて行くんだから、考え方も変えないといけないな。


「それに、回復魔法は高額です」


「そうなの?」


「はい。回復魔法を使える人はどの現場でも必要とされますから、いつも飛び回っています」


 色々と身体を触れられ、痺れ具合の検査やらでわかったことは……。


 神経麻痺装置の影響が残っているから、まだ拘束具は外せないという結果だった。


 明日まで様子見だそうで、残念だ。



――シュッ。


「人吉先生。点滴の交換に来ました」


「拘束解除が延期になりました。カテーテル交換もお願いします」


「はーい。わかりましたぁ」


 部屋に入って来たのは、俺より年下と思える女性の看護師で、はじめて見る人だった。


「足守さん。点滴の交換をしますねー」


「了解した」


「まだ若いって聞いてたけど、見た目よりお年なの?」


「なぜだ?」


「だって、しゃべり方がヘンだもん」


「いつ死んでもおかしくない世界に居たら、少しは変にもなるんじゃないか?」


「あっははー。

 もしかして、ここが平和で安全な世界だと勘違いしてますぅ~?」


 看護師は手慣れたもので、話しをしながらテキパキと仕事をしている。


「そうだったな。まだ実感がないんだ。ここの外を知らない」


「尿道カテーテルを交換しますねー。

 いままでは麻痺してたからわからなかったかもだけど、結構痛いから我慢してねー」


「痛みには慣れているから平気だ」


 下半身に経験したことのない、よくわからない刺激が来た。


「うおッ」


 待てよ? 尿道カテーテル?


 俺はこの女性に下半身丸出しの状態を晒しているのか?


「痛ぇ」


「は~い。すぐ終わりますから、我慢してくださいねー」


 怪我や切り傷なんかには慣れていたが、何だコレ!


 こんな痛みは経験したことがない。


「はーい。終わりましたよ~」


「ハァハァ……」


「拘束が外れればカテーテルも必要なくなるから、早く解除されるといいね」


「なぁ。名前を教えてくれないか?」


「なんです? ナンパです? 間に合ってるので結構です」


「違うわ。いつかチャンスがあれば、この痛みをアンタにも味あわせてやろうと思ってな」


「あっははー。

 バカなんですか~? そんなことは起きませんよ~だ」


 くそう。無抵抗なのをいいことに、とんだ辱めを受けたもんだ。


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