デート(ただし相手は妹と妹の友達な後輩とする)2


 さっき食べたいと言っていた肉屋で美味しいコロッケを買って、咲ちゃんとひまりにあげる。すると肉屋の主人がひょいひょいっと手招きするので、二人に「そのへんのベンチで食べてて」と離れさせる。


「兄ちゃんも大変だな」

「まあ、そうですね」


 俺も最近娘がかまって盛りでさあ、と同情するような表情で肩をとんとん叩いてくる。……二人共、娘ではないんだけどなあ。


「まあ、そりゃあそうだろうが、ウチの娘が俺に対するみたいな態度とよく似てるのさ。……懐いてるって感じか?」


 がはは、と肉屋さんは笑う。確かに別に悪い気はしない。嫌われているわけではないどころか、好かれている方であるということなのだから。嫌われてたら一緒に出かけようとなんかしないかもしれないけども。

 もし嫌われてたら切腹も辞さない考えだからな。


「まあ、妹ちゃんが言ってたみたいな考えもってるやついねえから、これからも安心して買い物してきな!なんなら、疲れた心を癒やすオアシスみたいなものだぞ?お前らは!」


 また鷹揚に笑って背中を叩く。……超いい人なんだよな。この人。だからこの肉屋に通うのは止められねえんだよ。よし、今度また夕食の肉を買いに来よう。


 と、目を離していたが、二人はどうしてるかな、とスタリが座ったベンチを見てみると、二人が駄菓子屋さんの店主のおばあちゃんと話しているのがわかった。

 肉屋さんにお礼を言い、二人の方に行くと、まるで孫とおばあちゃんの会話のようなものを繰り広げていた。


「おばあちゃん、最近は大丈夫?」

「うん。大丈夫さ。こんなおばあを心配してくれるなんて、優しい子たちだねえ」

「いやいや!おばあちゃんが元気なくなったら、きっと商店街のみなさんも心配しますよ!」

 

 そこだけほのぼのした空気が漂っている。こころなしかゆったりと時間が流れているかのように錯覚するほどだ。しばらく眺めてようかな……


「あ!お兄ちゃん!」


 見つかってしまった……ひまりの探索力舐めてたかも。「私にはお兄ちゃんレーダーが付いてるから!」という言葉は嘘ではなかったのだろう。すごい。

 でも、それよりすごいのも見てしまっていた。実は、俺が肉屋さんのもとを離れた瞬間からこっちを捕捉してじっと見つめる瞳もあったのだ。咲ちゃん、すごい。


「さ、話もそこそこに、帰り始めようか」

「えー!まだぜんぜん時間あるじゃん!」

「……お兄さん、駄目ですか?」


 ひまりはテンション高めに、咲ちゃんは目をうるませ上目遣い気味に言ってくる。……くっ!先輩先輩言ってたくせに突然その呼び方はずるいだろ……!


「くっ……!わかった。カフェかなんか寄って帰るぞ」


 やったー!と、無邪気に喜ぶ二人。……本当に中三受験後か?

 駄菓子屋さんにもお礼を言って立ち去ろうとすると、二人はポケットに沢山駄菓子を詰め込まれていた。さすがおばあちゃん。二人も遠慮こそするが、それが効かないことを悟るやいなや、しっかりと笑顔でお礼していた。


 商店街の一角にあるカフェは、昼間こそ人で溢れているが、今のような夕方の時間帯は、早朝と並び人が少ないらしい。なんでも、この時間の買い物終わりの主婦たちは既に急いでご飯を作らないといけないか、作っている途中であるため、よる余裕がないらしいのだ。独身の人たちは、多くの会社がまだ勤務時間であることもあり少ないしな。

 というわけで随分空いているカフェの中に入り、スムーズに席に座る。メニューを渡せば、二人はキラキラした目でそれを見つめる。


「おいおい、カフェの一つでそんなに目輝かせなくてもいいんじゃねえか?」

「えー!だって初めてきたんだもん!」

「私も初めて来ました」

「ん?ひまりはともかく、咲ちゃんは好んで来るくらいだと思ったんだけど……」

「カフェ、高いじゃないですか。中学生にはちょっときついです……」

「そーだ、そーだ!」


 それでも、このあたりの中高生の遊び場の中に一つにあるのだから、友達と来たことくらい……


「……お兄ちゃん、なんか考えた?ものすごく不快な気持ちになっちゃった……!」

「私も、物凄く……!」


 あ、まずい!二人が女の子が出してはいけないオーラをまとい始めた!あ、そうか!二人は頭が良すぎてクラスで浮いて……


「店員さーん!スペシャルジャンボパフェくださーい!」

「私はプレミアムハンバーグ定食の大盛りとポテト下さい」

「お前らは俺を破産させる気か!」


 てか咲ちゃんは昼あれだけ食って、コロッケ食べて、まだ食うのか!

 注文が終わった後、ひまりは拗ねたようにテーブルに突っ伏す。


「いや、友だちもいるんだよ?でもさ、私と咲ちゃんってセットじゃん?」


 そして、若干気まずそうに目をそらす咲ちゃん。目をさまよわせた後、ため息を吐いて、顔を赤くしながら話し出す。


「私がカフェでなにか食べちゃうと高くなっちゃって、他のところに遊びに行くお金がなくなっちゃうので、みんながカフェは避けてくれてた……っていうか……うう、忘れて下さい」


 恥ずかしそうに手で真っ赤な顔を覆う咲ちゃん。……マジで意外だ。大食いはデフォルトだったのか。というか、食ったものはどこに付いてるの?全然お腹も出てないし、失礼だがとある部位も小さいし、何処に……?


「ま、まあ事情はわかった。しょうがない。伝票を見るのが怖いがしょうがない。……というか、大食いなんて隠さなくてもいいんじゃないか?全然食べない女の子よりも、沢山美味しそうに食べる女の子の方が、俺は好きだがなあ」


 俺が少しぼやくようにつぶやくと、ひまりからデコピンが飛んできた。


「咲ちゃんを口説かない!」


 別に口説いたつもりは無いんだけどなあ。美味しそうに食べてくれるのはお前もだし。そう言うと、ひまりは顔を真っ赤にさせながら、「妹も口説くの!?やっぱお兄ちゃんは私達二人を攻略しようと……?うごご……」とうなり出す。なにが攻略だ。滅多なこと言うんじゃない。


 そこからしばらく雑談していると、店員さんが料理を運んできた。……のだが、俺たち三人は、正直その大きさに圧倒されていた。山脈みたいなものが、目の前に形成されているのだ。


「大きすぎない……?」

「うん……食べきれるかなあ……」


 ひまりが頼んだスペシャルジャンボパフェは、

 カレー皿に乗って出てきた。そして、その上に山脈を築いている。さながらアルプス山脈だ。九州でブラックモンブランというアイスを食べたが、そのパッケージのようである。……つまり、本物のような巨大さというわけだ。


「……あとで手伝って」


 ひまりは覚悟を決めた表情で食べ始める。それを咲ちゃんはゴクリと真剣な表情で見つめる。そして、ぱああっと表情を輝かせたひまりは、とんでもないスピードで食べ始めた。どうやら美味しいらしい。



 プレミアムハンバーグ定食とポテトはもう咲ちゃんひまりの方には置けなかったため、咲ちゃんは俺と同じ側の隣の席に移動し、食べていた。ハンバーグが2つあったので、半分くれたが物凄く美味しかった。今まで食べたどのハンバーグよりも。

 それも咲ちゃんの前には無力で、美味しそうな、幸せそうな顔をして、ものの数分で平らげてしまった。その頃にはひまりは甘い物食べ過ぎでダウンしており、パフェの残りも咲ちゃんが食べた。ぺろりと食べ終わり、「美味しかったです!」なんて言っている様子には戦慄した。俺だけじゃない。ひまりも、店員さんもである。


 ただ良かったのは、あのパフェがチャレンジメニューで、二人までの人数で、時間内に食べた組はパフェの分のお代が無料であったことだ。ちなみに、あの美味しいハンバーグの定食とポテトは、あわせて1500円ほどと、かなり良心的な値段だった。通うことになるかもしれない。


「ふんふーん!せんぱーい!良いものもらっちゃいました!」


 それから店を出た俺たちは帰り道を歩いているのだが、咲ちゃんはチャレンジメニューの商品だったフルーツを持って上機嫌にスキップしていた。

 ……まだ食べられるのか?恐ろしい。焼肉の時に怒ったのはなんでなんだよ。正解だったじゃないか。


「まあ、美味しかったならいいけど」

「もちろん!すっごく美味しかったですよ!……本当にありがとうございます!楽しかったですよ!」

「それなら俺も嬉しいな」


 もうすっかり日も落ち、暗くなりかけた道を歩く。……ああ、そうだ。もう一度、言っておかないと。


「咲ちゃん。本当に合格おめでとう。これからも、後輩として仲良くしてくれるか?」


 それを聞いて立ち止まった咲ちゃんは、振り向き、じっとこちらを見つめてくる。……何だ?悪いことしてしまったか?

 俺がおろおろしているのを見てか、くすっと笑って咲ちゃんは言う。


「仲良くしてくれるか?じゃ無いでしょ!仲良くしよう、ですよ!先輩!」


 にこっと笑って、これだから先輩はー、とおどけて見せる咲ちゃんに、敵わないなあ、と思いつつ、少し先にいるその小さな背中を追いかけた。


 ……パフェを食べすぎてダウンしたままの妹の手を引きながら。

 なんだか、一瞬で雰囲気が崩れてしまったが、なんだか俺たちらしいな、とも思うのだった。

 

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