第27話 未来の約束

※性的表現がかなりあります。苦手な方はご注意下さい。また、15才以上の閲覧でお願いしますm(__)m






『生き神様と過ごした22年間は、あっという間の時間だ。自分が幸せだったというのは、過ぎ去った後に分かった事だった…。』


だからって、どうしたらいいんだよっ…!


先代贄に言われた事がぐるぐる頭の中を回り、迷いの中、俺はあかりと三回目の儀式に臨んでいた。


「あっ、あかりっ…。」

「んんっ…。真人っ…。」


薄暗い洞窟で、柔いあかりの体を抱き締め、体は彼女をひたすら求めながらも、未来への不安が、その先の行為を躊躇わせていた。


「はぁっ…。ま、真人っ…、どうしたのっ?私、も、もうっ…///」


いつもなら、もうとっくに事に及んでいるのに、なかなか先に進もうとしない俺に、焦れたようにあかりが俺の指に自分の指を絡めて来た。


くうっ…。つ、つれぇっ!


あかりから誘うような可愛い仕草に、体がどうしようもなく反応してしまい、ギリギリで耐えていると…。


「真人…。もしかして、私の事、抱きたくなくなっちゃったっ…?ぐすっ。」

「なっ…!ち、違うよっ!!」


涙を浮かべたあかりに思わぬ事を言われ、即座に否定したが、彼女の不安は拭えなかったらしい。


「もし…、ま、真人がっ、他の女の子の事を好きになっちゃったのなら、その子の事を考えても、いいからっ。だから、今はっ…」

「違うよっ!!そんなわけないだろっ!!

いつもいつも、あかりの事ばっかり、気がおかしくなるぐらい考えてるよっ!!んっ…。」

「んっ…うっ。」


とても辛そうな彼女に皆まで言わせず、唇を奪った。


「ぷはっ。ま、まひ…とっ。なら…っ。ちゃんと…私を見てっ?」

「あかりっ。」


僅かに紫がかった黒い大きな瞳が縋るように俺を見詰めている。


「おねがい…。真人っ…。」


「…!!」


その神秘的な瞳から綺麗な涙がポロッと零れ落ちた時、俺の思考力は崩壊し、彼女を求めるだけの獣になった。


「あかりっ…!あかりぃっ…!」

「あんっ…。まひとっ…!まひとぉっ…!」



         ✽


「ああっ…、真人ーっ…!!」

「うっ…、あかりーっ…!!」

        

ブワァッ!

ドゴォォーーッ!!



あかりと俺の体から2回目の儀式より遥かに強い光が上空へ立ち昇って行ったのは、それから間もなくの事だった。


「ハアッ。ハアッ。そ、そんな…。こんな…事がっ…あるなんてっ…!ううっ…!」

「あかりっ!体辛いなら、無理すんなっ!」


儀式の後の消耗した体で身を起こそうとして、その場に崩れ落ちたあかりに、俺は慌てて声をかけた。


儀式がこんなに彼女の体を酷使すると分かっていても、結局俺は贄としての役割を果たすしかない。


辛そうな彼女が神の力で回復するまでの数分間を俺は遣る瀬無い気持ちになり見守っていた。


「ふうっ…。ごめんなさい。心配をかけて…。ただ、今までに聞いていた生き神様の儀式と大きく違う事が起こったものだから、驚いてしまって…!」


体が回復して、やっと起き上がれるようになったあかりだが、深刻な様子で俺に向き合った。


「生き神の儀式の力は、一回目の儀式が一番強く、それ以降の儀式は弱まっていくと聞いていたのが、

私達の儀式の時には、一回目より、二回目、二回目より三回目と、回数を重ねる毎に強くになっていくという事も驚きなのだけど…。

今回は、私の神の力と真人の気の力自体も強くなっているのを感じるの。」


「えっ。今回の儀式を通して、あかりと俺の力がレベルアップしたって事?」


あかりの発言に、俺は目を見開いて問い掛けると、彼女は頷いた。


「ええ…。今の真人は、さっきまでの真人の気の三割増しの気の力になっているわ。」


「そんなに…!それなら、あかりの体の負担を俺も担うことにはならないのっ?

「いえ、儀式の術を行使する者の負担になるから、それは、ないわ。大丈夫よ、真人?」


勢い込んで質問する俺に、あかりはそう言い、にっこり笑いかけて来たが、俺は笑えなかった。


「大丈夫じゃねーよ…。あかりの負担を担えないのなら、俺は役立たずのままだ…!」


「えっ。どうしてそんな事を言うの!?真人?」


無力感を噛み締めて拳を握る俺を、あかりは驚いたように見た。


「真人は役立たずなんかじゃないわ!

贄の役割を果たしてくれてるし、お祭りを開催してくれて私と精霊達を楽しませてくれた。

初めてのプレゼントだってくれたし、社の人と交流する機会を作って関係をくれたわ。」


「それは、そんな大したことじゃねーよ。儀式に協力しているのは、君を自分だけのものにしたい欲からだし、

お祭りは、小さい頃遊びが得意だった

ってぐらいしか取り柄のない俺が、唯一君にしてあげられる事をやっただけだ。」

「真人に大した事をしたつもりはなくても、私は嬉しかったし、かけがえのないものを沢山貰ったわ!

とても感謝しているのに、そんな風に言わないでっ?真人!」


「あかりっ…!」


哀しそうな瞳で、自虐的な俺を叱る彼女を前に、俺も気持ちを抑えきれなかった。

「でも俺はっ!!

本当は俺は君を助けたいんだっ!!


島の皆の為に、君一人が犠牲になってるこの状況を変えたいっ!


普通の女の子みたいに自由にやりたい事をやって、暮らさせてあげたいっ!」


「ま、真人っ…!」


思い切り喚く俺に、あかりは目を見開いていた。


「だけど、ダメなんだっ…!いろんな状況があって、それが適わない。

先代贄にも不可能だったんだっ。


俺に出来るのは命を縮めると分かっていながら儀式を手伝うことだけっ。

それしか出来ないんだよっ…。う、ううっ…。」


その場に膝を付き、俺は嗚咽を漏らした。


惚れた女の子を救ってやれない自分の無力さが、心底情けなく、悔しかった。


「真人…。そんな事を思ってくれていたのね…?

だから、儀式の時様子がおかしかったの…。」


「…!!あかっ…」


優しい声と共に肩に温かい手の温もりを感じ、俺はビクッと体を震わせた。


「真人、心配してくれるのは嬉しいけど、私は充分幸せよ?


生き神の役割も、寿命を縮めて儀式に励む事も、小さい頃から当然のように言い聞かされていた事だけど、正直とても怖いと思っていたわ。

けど、真人に会ってから、私にとって、生き神の役割も儀式もまるで違うものに変わったの。

私の仕事は、真人や、他のたくさん大事な人を守る為のもので、自ら望んでやりたい事だって誇りをもって言える。


例え他の女の子のような暮らしが出来なかったとしても、私は自分を不幸だなんて思わないわ。」


「あ、あかりぃっ…。」


「普通の人より早く寿命が来てしまうことは、怖くないわけではないけれど…。


私が死ぬ時には真人と真人との間に出来た次の後継者の女の子に最後を看取ってもらえるのは、安心だわ。


先代生き神様である母様の死に顔はとてもお美しかったわ。


綺麗な姿のまま真人の記憶に残れるなら、それも悪くないかななんて思うのよ?

ねっ。真人っ。」


そう言って、涙を浮かべながらこちらをいたずらっぽくこちらを見た。


「うっ。ううっ、あ、あかりっ。」


こちらを気遣うあかりの優しさに、尊さに、俺は涙が止まらなかった。


「そ、それでも、俺は、あかりと一緒に過ごして…共に老いていきたいよぅっ…。あ、あかりなら、き、きっと、おばあちゃんになっても…可愛いよっ。」


ダメな俺は泣きながら駄々っ子のように首を振るばかりだった。


「一緒に老いていけなくて、ごめんなさい…真人。私は真人の方が心配だわ。」


「あかりのせいじゃなっ…。…!」


涙を落として謝って来るあかりに否定しようとすると、間近に彼女の顔が迫っていた。

「んぅっ…。」

「んんっ…。」


彼女からの口づけは涙の味がした。


唇と唇が離れると、間近で見るあかりは涙の珠を散らしながら、今までで一番美しい笑顔を浮かべていた。


「真人。あなたを…贄として愛しているわ。」


「あ、あかりぃっ…!!!」


感極まった俺は彼女の柔らかく温かい体をぎゅっと抱きしめた。


腕の中の彼女は更に俺に優しい言葉をかけてくる。


「真人。だから、私が死んだ後もちゃんと生きてね?


次の生き神、新しい贄を真人が見守ってくれる未来を私は夢見ているの。


ちょうど私、真人を見守って下さる先代贄様のように…。


そんな希望を思い描くのは、自分勝手かしら…?」


「あ、あかりっ…。そ、そんなこと、ねえよっ…。」


鼻水も垂れ流しながら、俺はぶんぶん首を振った。


そうだ。俺はあかりの為じゃない。あかりがいなくなった後、自分が辛いから、あかりに命を縮めて欲しくなかったんだ。


でも、彼女は大人で、全てを受け入れて、その先の未来まで見据えて希望を持っていた。


その為に、俺が出来る事まで拒む事なんて出来ない。


「やっ。約束するっ。君がいなくなっても、自ら命を絶ったり自暴自棄になったりしない。

最後まで、君との間にこれから出来る子供を守るよっ。うっ。うっ。」


「あ、ありがとうっ。真人っ。」


俺達は、固く抱き合ってしばらくそのまま泣き続けたのだった…。







*あとがき*


次話にて、第3章終了になります。ここまで読んで頂きまして、フォローや、応援、評価下さって本当にありがとうございました。

m(_ _)m


今後ともどうかよろしくお願いします。

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