第9話 効率化の真髄

 巨大隕石が完全に崩壊した後に残るのは破壊し尽くされた世界・・・と思いきや空間に一切の損害は無く、先程と同じ様に只々彼方迄白い空間が続いているだけだった。

 その結果にも驚かされるが、何より潰されたカイル師匠の姿が見当たらない。

最悪の想像が頭を過る。


「おいこら糞魔王!見本だっつってんのにありゃデカすぎんだろうが!!無効だ無効!」

「うわっほぉい!!?」


 飛び上がったよ。いきなり目の前にカイル師匠が現れたんだから。


「ふふん。何と言おうが気を抜いた貴様が悪い!これで我の448勝427敗だ!」

「ぐっ・・こんの野郎・・・。さっき『もう何度同じようなやり取りをしてきた事か』とか言ってた癖にしっかり覚えてんじゃねぇか!!」

「フハハハ!前回の雪辱を晴らしてやったわ!フハハハハハハ!!」

「え!?え?カイル師匠今どこから・・・?僕てっきり」


 勝ち誇り高笑いをしているマディラ師匠と納得いっていない様子のカイル師匠。

だが僕の頭は混乱しっぱなしだ。


「ん?あぁ、さっきも言ったがこの空間に死の概念はねぇんだ」

「あ!そういえばそんな事言ってました!」

「だから今みたいに確実に死んじまってもこうしてすぐに復活するんだよ」

「故に決して真の決着はつかねども、現実では不可能だった全力をお互いに出せるという訳だな。我らが現実世界で同じ事をしたら星が壊れてしまう。痛みも無いのでどちらかが一度消滅する迄を一旦の決着扱いにしているのだ。先程は小僧の手前途中で止めてしまったがな」


 そういえば僕が此処に来た時も言い合いしながら戦いつつ途中で止めてたな。


「さってと、どうだ坊主?今ので何かわかった事はあるか?」

「『見て学べる事も多くある』と我は言ったな?さぁ小僧の考えを述べてみよ」


 促され考える。二人は技名の発声も詠唱も呪文の詠唱もしていなかった。今迄の常識を捨てて熟考する。

 二人は僕の答えを聞く迄何も言うつもりがないのか黙って見下ろしている。

カイル師匠は飛斬を出す時気合を入れて叫んでいた。マディラ師匠も掛け声を出しながら魔法を使っていた。恐らくこれが鍵というやつだ。だとすればそこから導き出せる答えは・・・。


「・・・技名の破棄、詠唱の破棄を効率的に考えるならば・・”無詠唱”ですか?」

「おっ!?」

「フハハ!素晴らしいぞ小僧!!世の常識に縛られずそこに辿りついたか」

「声に出すのは頭の中でも良い。技名や詠唱を思い浮かべ脳内で発すれば結果として技は発動するのではないかと愚考しました」


 これが僕の答えだった。マディラ師匠が先程言っていた”鍵と意識の改革”を僕なりに考えてみた。

 まず鍵とは声に出す事。そして意識の改革とはその名の通り今迄の常識に囚われない事。

 この二つを合わせて考えた時、どういった理屈かはわからないが僕の中で無詠唱という答えが生まれた。

 即ち詠唱を声に出すという当たり前を意識の改革により脳内で補完させ、技名を発するという鍵をそれに合わせる。そうすることによって全ての条件は整い技が発生するのだと考えたんだ。


「良い良い。ただ知識として口頭で教わる事と間違っていても己でしっかりと考えた答えとでは、結果その後の呑み込み方が大きく違う。これからも思考は止めずに精進するが良い」

「そして採点だが、その答えは50点だ!」

「え?50点ですか!?」

「うむ。恐らく鍵の考え方は間違っておらんが、意識の改革が一足飛びしすぎたな」

「でも良く自力でそこまで辿りついたもんだ!誇っていいぜ坊主」

「でも50点じゃ学園でも赤点ですよ・・・」

「何を言うか。我らが無詠唱という考えに至るまで十年以上は有したぞ」

「じ、十年ですか!?」


 これには心底驚いた。正直今迄の戦いや考え方を見ているとこの天才二人には不可能は無いんじゃないかと思っていたからだ。


「左様。色々と突き詰めた結果無詠唱が実現出来ればそれが最高効率だと思ったのだが、”声に出す”という一点においては改良する事が出来んかった」

「だから考え方を変えたんだよ。声に出すことが絶対条件ならそれがんじゃないかって」

「はい?」


 また突拍子もない事を言い出した。さぁ師匠!説明お願いします!!


「いいか?技を出すには発声が絶対条件だ。これは覆す事が出来なかった。だからっていう実験をしてみたらこれが大成功だったんだよ」

「な・・そんな事が可能なんですか!?」

「可能も何もさっきの戦い見てただろ?あれが答えだ」


 不正解だった部分のピースが完全に思いもよらない内容だった為思わず動揺してしまったが、言われてみればさっき目の前で見せて貰っていた。


「意識の中の当たり前である”技を出すには技名の発声が必要”というものを、”技を出すには発声が必要”という風に置き換えたのだ。少々考え方を変えるのに苦労したが結果は上々であった」

「んで、俺は『飛斬』を出す為の鍵を『オラ』にした」

「ふぇ?」

「我はフレアバーストの詠唱と発動条件を『ほれ』に詰め込んだな。おかげでノータイムで魔法が打てる様になったから何も知らぬ者が見れば無詠唱にしか見えぬであろう。これが効率化の真髄である」


 トンデモ発言が飛び出した。声を出す事は変えられないから発動させるための技名を掛け声に変えたぁ!?

 いや実際に目の前で見せられたから疑う余地は無いんだけどさ・・・。

やっぱ天才って凄いんだなぁ~・・・アハハ。


「さて、じゃあ構えろ坊主」

「え゙」

「口で教えるのは一旦終わりだ。そろそろ坊主が気絶してから一時間位経つし、今から模擬戦をして反省会したら今日はここまでにしておこう」

「模擬・・・戦?」

「そうさな。長い事小僧を此処に拘束する訳にもいくまい。我とカイル、それぞれ一体一で戦い、今日の決算といこう」

「やっぱ身体に教えんのが一番手っ取り早ぇ!全力で来い坊主!まずは俺からだ!!」

「えぇえぇえええええええ!!!??」


 カイル師匠が剣を構えるや否や僕を襲ってきた。歴史上最強生物との模擬戦って・・・・・聞いてないよぉ~~~~!!!

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