第2話 幼馴染達との模擬戦

 学園内の模擬戦場に着いた僕たちはお互いに向き合う。

アストルはその大柄な体躯に似合う自前の大剣を構え、僕は貸出用のショートソードを構える。アイリスも自前のワンドを懐に構えた。


「ここまで来て今更だけどさ、本当に今から手合わせ・・・っていうか模擬戦するの?」

「寧ろここまできてやらないのか?」

「いや、僕は引きずられてきただけなんだけど・・・」

「やろ・・・。折角だし・・・ね?」

「うへぇ~」


 この模擬戦場には特殊な結界が張ってあり、敗北を宣言するか致命傷と判断されるだけの攻撃を喰らうと外に弾き出される。勿論それまでに負った怪我なんかも全て結界に入る前の状態に戻される。

 五天魔の【アスティア】様が作ったそうだ。

実戦も見越しての事だから痛みも当然あるし怪我もする。

だけど結界の外に出れば元に戻るって事で作った時は大層周囲に驚かれたんだとか。


「じゃあとりあえず一人になるまでやるか。何時も通りにな!お前ら手ぇ抜くなよ!」

「ん!・・・久しぶりの手合わせだし・・・全力で行く・・よ!」

「二人相手に手を抜く余裕なんて僕には無いよ!?」

「よっしゃ!んじゃあ・・・いくぜぇ!!」


 そう叫ぶや否やアストルが地を蹴ってジンに迫る。

それなりの重装備をしているのにそれを感じさせない速度が出ている。


「おぅらぁ!ばしり!」

「いきなり!?」


剣技地走り。発言し、持っている剣を投げることにより超低空で回転しながら相手を襲う技。しかも避けても持ち主の元へ戻っていく。回転しているのに柄が丁度手のひらに収まるように・・・。


「あっぶな!」

「チャアアアアアアアアジ!!」

「グフェッ!!!」


 高速回転して足元に迫り来る大剣をジャンプしてかわした所に走り込んできたアストルがそのまま突撃してきた。避け様も無い僕はまともにショルダータックルを喰らい吹き飛ぶ。


「まだまだぁ!ざん!!」


 剣技飛斬。発言しながら剣を振るとその剣線が剣と同等の切れ味を持ったまま衝撃波のように飛んでいく。無論当たったら死ぬか部位が無くなる。そんな技を手元に大剣が戻ってくるや否や打ち出すアストル。


「ぎゃああああああ初っ端から飛ばし過ぎいいいいいい」

「って言いながら今まで一度も当たった事ないだろーがクソッタレ!」

「嬉々として友人を仕留めようとしてくるから此処は嫌いなんだ!命が軽いんだよマジで!命はもっと尊いものだろーが!大事にしようよ!」

「ぜってぇに卒業までには当ててみせるぜ!おら飛斬!飛斬!飛斬!」

「ぬあああああああこんのサイコパスがあああああああ!!」


 獲物を見つけた肉食獣の様な笑みを浮かべたまま追い打ちの飛斬をぶっぱなしてくる親友。

それをなんとか既で避けるジン。その戦い?を少し遠くで見ていたアイリスが動く。


「我が身を風に・・・フロート」


 二人の・・・的当て?追いかけっこ?に巻き込まれないようにアイリスは5メートル程浮かぶ。


「荒ぶる原初の炎よ・・その大いなる猛りを現世に現せ・・・我が身に宿るマナを触媒とし・・今ここに猛威を奮え」

「やっべぇ!遊んでたらアイリスが詠唱終わらせやがった!」

「言ったなぁ!今お前完全に僕で遊んでるって言ったなぁ!?」

「フレアバースト!」


 飛斬を避けるのに必死こいてたらアイリスの中級火魔法の詠唱が終わっていた。

フレアバーストは直径3メートル程の炎の塊を数個隕石のように落とす魔法だ。

本来であれば無作為に数個落とす魔法なのだがアイリスが使うとそれはまるで違う性能を誇る。

 只でさえ無からあんな馬鹿でかい炎の塊を出すのだって難しいのにアイリスはそれを一度に数十個出せる。おまけにそれら全てがしてくる。


「相変わらずの大規模魔法だなぁ!羨ましいぜ飛斬!飛斬!」

「喋りながらこのデスボール打ち落とすとは余裕ですなぁアストルさん!」

「余裕も何も撃ち落とさないと当たるまで追ってくるじゃんあれ」

「うおおおおおおお死ぬ死ぬ死ぬ!!!!」

「当たれー・・・死なないから死んじゃえー・・・!」

「親友の一人がおっそろしい事言いながら殺しに来てるー!!だから此処嫌いなんだよ!!僕の親友二人を返せーー!!」

「むぅ~・・・当たらない・・数増やす。荒ぶる原初の炎よ・・」

「お~いジン!追加がくるぞぉ~!」

「正気じゃねぇぞコンチクショウ!!!」


 いつもはゆっくり話しながらも僕を常に立てる様な発言をしてくるアイリスもここでは僕を殺しに来るサイコパスの一人に早変わりする。

なんでサイコパスかって?アイリスも笑いながらバカスカ魔法打ってくるからだよ!


「飛斬!飛斬!飛斬!・・・飽きてきた。空走そらばしり!」

「飽きたの一言でこの隕石の中技変えんのぉ!?」

「フレアバースト!」

「追加はこのままじゃ無理!我が身を強靭に!肉体強化!」


 流石にホーミング死の玉のおかわりはこのままでは無理だと判断してすぐさま肉体強化を施す。

 この魔法は使用する自身のマナの量によって効果値が変わる。しかし単純にマナをつぎ込めば強くなるという訳ではなく、自身の身体能力に合った量のマナを使わないと意味がない。

少なければ効果は薄いし多ければ制御できずに自爆する。

 だからアイリスが使っても元々の身体能力が低いので殆ど意味がなく、アストルが使ってもマナが少ない為効果が薄い。分水嶺ギリギリを求めて来る非常にピーキーな魔法だ。

 因みに僕が使うと大体身体能力が3倍程になるが、そんな状態の僕と笑いながら剣戟交わせるアストルは本当に化物だと思う・・・。

 あぁ・・・空走りでブーメランみたいになってる大剣がどんどんデスボールを粉砕してるよ。


「おらおらぁアイリス!こんなもんじゃ俺もジンもなんてことねぇぞぉ!」

「余計なこと言うなサイコパス!サイコパスがまた数を増やすかもしれんだろうが!」

「・・・冥府より来たれ煉獄の炎・・・・」

「それみたことかぁ!しかも余計にたちが悪い魔法だこれぇっ!!」

「いいぞいいぞぉ!上級魔法もドンとこいだぁ!」

「頭湧いてんのかお前ぇええええ!」

「ハッハッハ!前から思ってたけどジンって模擬戦になると口悪くなるよなぁ」

「死ぬことはなくても死ぬ恐怖にさらされれば人間こうもなるわ!痛いものは痛いし怖いものは怖いんだよ!飛斬飛斬飛ざあああああん!!!!」 


 大剣でブーメラン遊びをしているサイコパスその一の狂気の発言にツッコミを入れながらホーミング死の玉に向かって飛斬を放つ。

残念ながらアストル程の膂力も武器も無い僕には一撃で砕く事はできない。

二撃三撃と入れて漸く壊せる程度だ。

 これが主席と次席の差でもある。彼らにとっては軽い手合わせというルールの中での全力であるが僕にとっては全力も全力である。


「おっ!詠唱が終わるみたいだぞ」

「もうどうにでもなりやがれええええええええ!!」

「・・・以上を持って炎に命ずる・・視界を焼き尽くせ・・・ヘルバーン!」

「オラオラオラオラオラオラアアアアアアアアアア!!!!」

「我が身を守れ!ウォーターシールドォオオオオオオオオ!!!!」


 サイコパスその二が放ったのは上級火魔法ヘルバーン。

この魔法はその発言の通り自身の視界に映る全てを炎で包み焼き尽くす。

 サイコパスその一は大剣を凄まじい勢いでぶん回して炎をかき消している。

僕はホーミング死の玉にかかりっきりだったためまともな詠唱時間を得られず急遽水魔法のウォーターシールドを展開する。

 シールドって知ってる?盾の事だよ。知ってるよね?ははは。視界全てを焼き尽くす広範囲の火魔法に対して盾出してどうすんのって話だよ。


 ジュッ・・・っという音と共に僕は焼けた。

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