第21話 五体投地はわかりやすい表現
スキル《下級魔法の素養》は、ゴブリンメイジに進化した後、次のスキルを作るときに悩みながらいろいろいじっていたら覚えてしまったものだ。
不意の魔素量減少に驚いたが、通常のスキル形成とは違い、使用魔素はそれほどではなかったのが救いだった。
そして、これのおかげでスキルの範囲をギリギリ全身に広げることができるようになった。一つ上の段階のスキルが作れることで、考えていた候補の一つが思い浮かんだ。
《堅固》
全身の皮膚の強度を強化するというものだ。最初はレベルが低いからか倍率はそれほどではないが、それでも防御力は上がる。これを鍛えていけば、象に踏まれても大丈夫な硬さを手に入れるらしい。ほどちゃん曰く。
だがこのスキルは作るのに一人ではイメージがしにくいという欠点があった。こういったことはたびたびあるらしい。
それで今回のゴブリンチーフ戦を活用することにしたのだ。
俺はゴブリンチーフを目の前にして、《下級魔法の素養》により魔素をいじくって、皮膚の硬さを拡張し、全身が固くなるようにイメージする。
急に眼を閉じて何かをし始めた俺に対して、ゴブリンチーフはこん棒を振り上げて頭を割らんばかりに振り下ろした。
何も構えていない俺の頭に直撃する。
ゴン、と重い音がし、衝撃が走る。痛みは多少あった。だがそれだけだ。
まだイメージが足りない、イメージだ。全身を守る。守る。守る。皮膚を固く、硬く、堅く。
何度も、何度も振り下ろしがきてそのたびにイメージを強くする。一人では難しいダメージから守るためのイメージがその能力ともに急速に作られていくのを感じる。
「スキル《堅固Ⅰ》が形成されました」
スキル形成による魔素現象が起きるが、ゴブリンメイジになったことで問題ない。少しくらっと来たくらいだ。
ほどちゃんからの宣言で、俺は目を開けてスキルを発動する。振り下ろされたこん棒は堅いものにぶつかったかのように少し高い音を立てながらはじかれた。
「終わりだ」
用は済んだ。残るのは後始末だけだ。
その場で高く跳躍し、体を回転させる。そして手をまっすぐに伸ばして、進化した《鋭利Ⅴ》を爪から腕全体にかけていく。さらにスキル《堅固Ⅰ》をかける。
今、俺の腕は一本の硬い剣になった。
真下には呆然とした表情のゴブリンチーフが見えた。すまんな。
剣をまっすぐに振り下ろす。スキル《頑強》によって正確に振り下ろされたその刃は、肉を断ち、脳を断ち、骨を断った。
ゴブリンチーフの体は半分となり、しばらくその場にとどまったのちに内臓がぼとりぼとりと落ちていく。
最後には左右が前後に崩れるように倒れた。
沈黙が流れる。
ゴブリン達は信じられないのか、呆然とした表情でゴブリンチーフの亡骸を見ていた。
俺は周囲の雰囲気を気にせずにゴブリンチーフの持っていたこん棒を拾い、地面に突き刺すように立たせた。
「さあ選べ!」
周囲に声をとどろかせる、ゴブリン達はびくりとしてこちらを見た。
「俺に従うか! 俺に挑むか!」
ゴブリン達はしばらく呆然した後に、一人、また一人と五体投地をしていった。
「条件を満たしました。ゴブリンチーフへと進化しますか?」
「ゴブリンチーフへの進化条件は従える人数か。これ体格は変わる?」
敵のゴブリンチーフみたいな体格になるのはちょっとごめんだ。
「体格は微増します。リーダー系統への進化による能力増強の度合いは、それまでの進化に依存します」
「それ、メイジ系で進化したら魔素の伸びはいい?」
「ウォーリア系と比較して上昇率は上です」
ふーむ。というかあのゴブリンチーフはウォーリアからの進化だったか。
「じゃあ進化する」
宣言とともに、体の中の魔素が熱くなり、器が広くなる。
まぁ、前回のゴブリンリーダーの時と間隔は変わらないな。
だが、いまだにウォーリアよりは小さいな。10センチくらいの差だろうか? 先ほどのチーフと比べるとさらに小さい。だが、威容は変わった。
進化が終わると体が伸びて、背格好はゴブリンと比べるとまっすぐ立つようになった。顔も触るとよりはっきりとした顔つきになっているのがわかる。
周囲のゴブリン達を見ると俺を見る目が変わっていた。尊厳と畏怖が含まれるような目になった。
名実ともにここのトップになったようだ。
「まずは一つだな」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。