第3話 犬氏復活

改がゲーム実況部の存在に気づき、はや1カ月が経とうとしていた。

結局改はゲーム実況部に入ることなくこの事は秘密にすると宇佐美会長と約束をした。


改「(もうすぐゴールデンウィークか・・・・・・)」


改は昼休みの間、窓の外を見ながら休みの間何をして時間を潰そうか考えていた。


水鳥「お前何ボーッとしているんだ?」


水鳥に呼ばれて改は振り返った。水鳥の手にはスマホを持っていた。


改「あ、水鳥か。何見てんだ?」


水鳥「今、「フリーゲ」の実況動画を見ているんだよ。おとといから「フリーゲ」で「アニマルファイター」の視聴者参加型対戦をやっているんだよ。」


改「あぁ、そうか。」


改がゲーム廃人のきっかけになったゲーム。そのタイトルを聞いただけで改はイラつきを覚えた。


水鳥「それにしても「ミャー子」。あまりゲームは得意ではないのかな?」


改はミャー子の名前を聞いて水鳥に情報を聞いた。


改「どういうことだ?ゲームが得意ではないって?」


水鳥「いや、それが負け続けているんだよ。負けるたびにトップの「豪樹」に煽られるしちょっとかわいそうになってくるよな。」


改は都の席を眺めていた。そういえばここ最近都は学校を休んでいる。もしかして負けたくないから自分の家で特訓でもしているだろうか?


改「(まさか・・・・・・な・・・・・・)」


水鳥「どうした、何猫柳さんの机見てんの?」


改「いや、ずっと学校休んでいるから。」


水鳥「心配しているの?でもまだ3日だけだし風邪が長引いただけじゃないの?」


改「そうだといいけど」


改は都のことが心配になってきた。


授業が終わり帰ろうとすると、宇佐美会長に呼び止められた。


改「宇佐美会長?」


真里佳「突然ゴメンね。猫柳さん見ていない?」


改「今日は休みですよ。って言いますか3日ほど休んでいますが・・・・・・」


真里佳「そっか、大丈夫かな?」


改「大丈夫とは?」


真里佳「アニマルファイターで豪樹がミャー子を煽るプレイをしているところが多くてね。3本先取の勝負に必ず2対1で豪樹くんが勝っているのよ。おそらくわざと1本取らせて3本目でコテンパンにやって相手の心を折るやり方だろうね。」


改「ゲーマーとしては最低だな・・・・・・」


改は豪樹のそのプレイスタイルが許せなかった。


真里佳「休んだ理由はやっぱりソロで特訓しているのかしらね。」


改「・・・・・・。(確かにあり得るかも・・・・・・)」


真里佳「今日これから猫柳さんの住むホテルに向かおうと思うんだけど、今から生徒会の会議があってね・・・・・・」


?「マリー、はよ生徒会室戻らないと会議始まってまうで。」


突然後ろから元気な関西弁が聞こえてきた。勉が後ろを振り返ると女子生徒が2人いた。声をかけてきた女性はグレーの髪のポニーテールを左肩にかけている人。生徒会副会長の「津田 紅葉(つだ もみじ)」。目つきが鋭く昔は不良だったのではないかと学校で噂になっていた。

もう一人の人は紫色のボブカットで目つきはたれ目で物静かな感じの生徒会書記の「鈴川 麗(すずかわ うらら)」だった。


紅葉「何やマリー、生徒会以外の男と話してるなんて珍しいやんけ。」


麗「ホントだ。」


真里佳「ごめん、紅葉ちゃん。すぐ終わるから先に生徒会室に行ってくれない?」


紅葉「うん、分かったわ。」


麗「ほかの役員には私たちからうまく言っておくわ。だからごゆっくり~」


2人は真里佳をからかいつつ、その場を去った。


真里佳「もう、すぐからかうんだから・・・・・・。」


改「仲いいじゃないすか。」


真里佳「まあ家も近いしあの子たちはワタシがヴィーチューバーだって知っているのよ。」


改「え、バラしちゃっていいんですか!?」


真里佳「昔、3人で活動していたのよ。2人は裏方での参加だったから表では出ていないのよ。」


改「そうなんすね、宇佐美会長にもそんな過去が。」


真里佳「そうだ、犬神くん。今日はこの後予定ない?」


改「そうっスね。このまま帰って勉強しようと思ってたんですけど。」


真里佳「じゃあお願いがあるんだけど、猫柳さんの様子を見に行ってもらえないかな?一応連絡を取っておくわ。」


改「え、俺男ですけど大丈夫ですか?」


真里佳「女性陣はみんな予定あるし、辰浪(たつなみ)くんは女性に対してあまりデリカシーがないから行かせられないのよね。」


改「辰浪って2年生ヴィーチューバーですよね。あともう1人。」


真里佳「そうそう、あの時はいなかったけどね。じゃあ猫柳さんのこと後よろしくね~」


真里佳はそう言い残し、生徒会室に向かって行った。


改「(・・・・・・勢いでOKしちゃったけど場所が分からない。)」


しかし改も都のことが心配だったので近くにあるビジネスホテルをしらみつぶしに探した。夕方6時、ようやく都が泊まっているホテルを見つけることができた。


改「(やっていることはストーカーと変わりないけどフリーゲに関わった俺にも責任がある。それに、猫柳が心配なのはほんとうのことだしね・・・・・・)」


ホテルスタッフに部屋の番号を聞いて改は部屋の前のドアに到着した。軽くノックをしたが返事がしない。


改「返事がしない・・・・・・留守か?」


なら時間を開けてまた行くかと思い、ドアノブを開けてみる。しかしドアが開いた。


改「これ、ドラマのシチュエーションでいうとこの殺されているパターン・・・・・・」


改はそっとドアを開けた。そしてリビングへと入っていった。カーテンは完全に占めていて電気は薄暗い。テレビはつけっぱなしで画面には「アニマルファイター」のゲーム画面が映し出されていた。机には大量のカップラーメンとエナジードリンクの空が散乱していた。その様子を見ていた改は昔の嫌な記憶が蘇り、記憶を忘れようと頭を横にブルブルと振った。


改「(・・・・・・くっ、ゲーマー時代の俺を見ているみたいだ。あまり思い出したくないな・・・・・・)ところで猫柳はどこに?」


改は辺りを見回してみた。しかし都の姿が見当たらない。


改「鍵も掛けずに出かけたのか?無用心にも程があるだろ。」


改は帰ろうとすると洗面台の方に明かりが付いていることに気づいた。


改「洗面台・・・・・・まさか風呂場で自殺とかしていないだろうな・・・・・・」


改は洗面所に入り確認した。明かりがついている場所はお風呂場だった。勉はドアをノックして入っているかどうか確認した。


改「返事はない、やっぱり考えすぎか・・・・・・」


改はまたもや帰ろうとしたが蛇口からお湯が溢れている音が聞こえた。


改「普通なら蛇口閉めるよな・・・・・・やっぱり事件か!!」


改はお風呂のドアを開けた。やはり蛇口からお湯が溢れていた。湯舟を見るとぐったりとした状態で湯舟に入っていた都を発見した。


改「猫柳さん!!」


改は都の腕を確認した。切り傷や出血がないため自殺ではないことにホッとしていた。


改「体が熱い・・・・・・もしかしてのぼせたのか?」


都は気づいたのかゆっくりと寝ぼけまなこをこすりながら目を覚ました。


都「ん~誰?」


改「猫柳さん、大丈夫?」


都「あ、犬神く・・・・・・ん・・・・・・?」


改「宇佐美会長に頼まれて様子を見に来たんだけど大丈夫か?」


都「え、あっ・・・・・・」


都は今この状況を理解した。一糸まとわぬ姿で恥ずかしさのあまり顔を真っ赤にしていた。


改「やっぱり顔が赤いぞ、のぼせているなら早く水分を・・・・・・」


都「キャッ~!!!エッチ!!!!」


都は大声のあまりカッスカッスになった声で叫んだと同時に強烈な右ビンタを改におみまいした。


改「ブッ!!」


ビンタを食らった改は吹っ飛ばされ壁に激突して気を失った。


都「あ、意識が・・・・・・」


都も突然湯舟から上がったせいか、のぼせてその場に倒れてしまった。


数分後・・・・・・


都はゆっくりと目を開けた。明るいリビングの照明が眩しく目を細めた。


都「眩しっ・・・・・・」


都はソファで寝かされていた。起き上がると体にはバスタオルが巻かれていた。


都「あれ、お風呂から上がった後そのまま寝ちゃったんだっけ? ・・・・・・ひゃん!!」


?「コラ、記憶を改ざんするな。」


都の首元に冷たいものが当たり奇妙な悲鳴を上げた。振り返ると左頬が赤く腫れていた改がスポーツドリンクを持っていた。


都「犬神くん?その頬どうしたの?」


改「お前にやられたんだよ。急に叩きやがって。」


都「あ、思い出した。 あれは犬神くんが悪いわよ!男性にアタシの裸を見られたのだから。」


改「それは・・・・・・確かに俺が悪い。」


都「でも・・・・・・あのままだったらあたしも死んでいたかもしれないし・・・・・・今回は許してあげる。」


都は改にスポーツドリンクを受け取ると一口飲んだ。


改「あの大量のエナジードリンク。もしかして寝ずにずっとゲームしていたのか?」


都「・・・・・・あたし、ゲームがうまくなりたいの。」


改「うん、それって猿渡の影響だろ。」


都「まあね。豪樹くんがガチゲーマーなのは知っていたけどまるであたしのことを弄んでいるみたいだった。」


改「俺もそう思う。ああいうゲーマーは腹が立ってしょうがない!」


都「だから練習して見返してやろうと思っても全然進歩しないしリベンジしても結果は同じだし、寝ずに特訓していたの。」


改「でもそのせいで猫柳さんはお風呂で死にかけていた。いくら勝とうと思っても猫柳さんが死んだらミャー子ファンは悲しむぞ。」


都「そうだね。ごめんね、犬神くんにも迷惑かけて。あたしはもう大丈夫だから帰ってニャン♡」


都は笑顔でいつも配信でやっているにゃんにゃんポーズ(両手を猫の手にしているポーズ)をしていた。しかし改はその作り笑いに違和感を覚えていた。


改「・・・・・・お前、自分を偽るなよ。」


都「え?」


改「だから、無理にミャー子にならなくてもいいから。俺といるときは猫柳都として相談しろよ。本当は勝ちたいんだろ。豪樹に。」


都は握りこぶしを握り締めた。


都「うん、勝ちたい!」


改「分かった、あまり乗りたくはなかったけど俺もアイツのプレイスタイルが許せないからな。一肌脱ぐよ。」


都「え、何するの?」


改「一応こう見えて元アニマルファイター世界一位「犬氏」とは俺のことだよ。これから猫柳さんに手ほどきを教える。」


都「え・・・・・・え~!!!!」


第3話(完)

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