きっと誰もが「魅」せられる

 日本全国において「鬼」の登場するお祭りは数多あれど、「鬼の魂を天に還す踊りを踊る」というお祭りは、なかなかに珍しいのではないでしょうか。本作は、そんな岡山の独特なお祭り「うらじゃ」をテーマにし、物語へと巧みに落とし込んだ作品です。
 その土地ならではの要素を見事に活かしたコンセプト、文章の綺麗さ、岡山の瑞々しい情景描写、そして読了後の胸に残る、何とも言えない切なさと暖かさ。
 それら数多くの魅力に加え、私が特に目を見張ったのは、「対比」を軸としたその美しいストーリーラインです。
 主人公・ミコトの失った過去である「ウララ」の存在と、彼へ未来を指し示す「津田」の存在。そして物語冒頭と結末における、ミコトの地元岡山に対する印象の変化。
 それらのコントラストによって、ひと夏の不思議な出来事を通して成長する主人公の姿を上手く描いておられる構成は、まさに圧巻です。
 きっと誰もが「魅」せられる、そんな素敵なお話でした。

(「ご当地短編小説」4選/文=あをにまる)

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