第4話 年頃の女の子

喫茶店


それは年頃の少女が集まる場所だ。

可憐な衣装に身を包み、流行の話や恋話に花を咲かせる。


だが、そこに似つかわしくない二人の姿。

燃え盛るような赤髪と、煌めくような銀髪。


「たまには甘い物もいいよね」

 

レベッカはケーキを口に運ぶと、幸せそうな表情を浮かべる。

白髪の少女は、目の前のケーキを不思議そうに眺めていた。


「…食べないの?」

「…お金…ない」

 

平坦な声で返すと、自分の前に置かれたショートケーキを眺める。

それを見て、レベッカは微笑む。


「いいよ、奢ってあげる」

「…奢る?」

「食べていいって事」

「…食べ方…わからない」

「あたしの真似してみなよ」


そう言うとフォークをスポンジに突き刺す。

そして口に運んだ。


銀髪の少女はそれを見て、同じ動作を繰り返す。

口の周りにクリームをつけながら、静かに笑みを浮かべた。


「…おいしい」

「…はは」


まるで初めて食べたような言い方なのだ。


「魔物を狩ってるのに、どうしてお金がないのかしら?」

「…いつも落とす」

「…ああ」


その言葉を聞いて納得する。

レベッカが知る限り、彼女は外に出ると必ず死んでいるのだ。


このガラス細工のように美しい少女には、明らかに欠けているものがあった。


「…痛くないの?」


それは恐怖や痛みといったものだ。

必ず備わっている生存本能、それが彼女からは感じられないのだ。


そんな問いかけに対して、首を傾げる。


「…痛いって何?」

「…そうだと思ったよ」


薄々感じていた事を改めて認識させられる。

彼女には様々な感情が欠けているのだ。


「これが甘いってわかる?」


レベッカはケーキを指差す。

だが、再び首を傾げた。


「…わからない」

「そっか、じゃあこれから覚えればいいよ」

 

赤髪の少女は、そう言って笑うのだった。


「…これが甘い…」


ケーキを頬張りながら呟く。


「そうそう、美味しいでしょ?」


レベッカの言葉に小さく頷いた。

 

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