第6話 最後の日のはずだった…

翌日は新宿で会う事にした。

待ち合わせ場所に行くと彼女が待っていた。


「ごめん。電車が少し遅れてて!」

「大丈夫だよ。ちゃんとメールくれてたし、私…待つの嫌いじゃないし。」

そう彼女は笑って答えてくれた。


彼女は僕の腕を組んで

「行こ♪」

と僕を促した。


不意に

「ちっ!」

そんな声が後ろから聞こえた。

ナンパ目的の男達の妙な視線を感じた。

彼女はとても可愛いからやはり目立つ存在だったようだ。

そんな彼女と腕を組んで歩ける…

女性経験のない僕には何とも言えない優越感があった。


その後は優越感どころか彼女の柔らかい膨らみを腕に感じてしまって

妙に緊張しながら新宿御苑で少し散歩をした。

とても穏やかな時間だった…


それから簡単に食事をして、カラオケ店に行った。

一通り彼女が歌い終わった後、僕は再度彼女に尋ねた。


「明日…彼は帰って来るんだよね?」

「…うん…」

笑顔だった彼女は暗い表情になった。


「もう一度聞くけど、一番良いのは、君が自分のご両親の元に帰る事だと思うよ?

 彼が居ないのだからチャンスじゃない!」


僕がそう言うと、彼女は困ったような表情で

「親には…頼れないよ…

 専門学校辞めた時点で…半分勘当されているようなものだし…」


「でも、親なんだよ?怒られるかもしれないけど…

 許してくれると思うよ?」


「…そういう親じゃないの…」

僕には分からない家庭環境だったのかもしれない…

そう思い、僕はこれ以上は踏み込まなかった。


「じゃあ、昨日の提案!

 僕がお金を出すからビジネスホテルで暫く過ごすのはどうなの?

 少なくとも暴力を振るわれる心配はないんだよ?」


「そうだけど…昨日も言ったように…

 常に暴力を振るわれているわけじゃないから…」

それから彼女は黙ってしまった。


僕たちはカラオケ店を出て、帰る事にした。

またいつものように駅で無言の時間が一時間以上続いた。

結局彼女は僕に何をして欲しいのか…僕には理解できなかった。


「昨日も言ったように…今の状況じゃ…僕に出来る事は何もないよ?

 君は…僕に助けて欲しいんじゃなかったの?

 夏美ちゃんが勇気を振り絞って動いてくれないと…

 僕は君に対してLoveにはなれないよ…」

そう言ったが、彼女は無言だった。


彼女の雰囲気に後ろ髪を引かれる思いではあったが、

僕はそのまま電車に乗り込んだ。

電車のドアが閉まると、彼女は僕に控えめにバイバイと手を振った。


このまま…もう会う事はないんだろうな…

…凄く短い間だったけど…

本当に可愛い子で…こんな出会いじゃなかったら…

そう残念に思いつつも、今後の彼女の無事を祈る事しか

その時の僕には出来なかった。


翌日、いつもの変わらない退屈な日常が始まった。

僕はいつも通り業務を終えると、

携帯にショートメッセージが届いていた事に気づいた。

メッセージを確認すると


『『 駅で待ってる 』』

その一言が1時間前に届いていた。


今日彼氏が戻って来たんじゃなかったのか?

彼女の家の駅からここまで2時間もあるんだぞ?

更に1時間前に着いているなんて…

どうして?


僕は急いで駅まで走った。

会社から駅まで20分あるのだが、僕は息絶え絶えで走った。


駅に着くと彼女が寒そうにしつつも待ってくれていた。

僕は

「はぁはぁはぁ…夏美ちゃん!!!」

そう大きな声を上げて夏美ちゃんに近づいた。


すると彼女は僕に抱きついてきた。

「え?え?え?」

僕が戸惑っていると、彼女は舌を出して

「来ちゃった♪」

小悪魔のような可愛い表情で僕に笑いかけた。













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