【魔力0のTS変態幼女エルフ。マジで魔力ないけど百合の花園を覗きたい! あっ、でもできればお腹かお胸を触らせて!】

メガ氷水

魔力0のTS変態幼女エルフ


「ほんと、女子の身体って一番腹が興奮できるよなぁ」


 聖母のように優しい木漏れ日が広がる森林。

 ポタポタとお腹を伝って落ちる雫を払う幼女、ライカの言葉に湖は答えることなく揺蕩う水面を煌かせた。


「縦に線が入っていたり、少しぷにっとしていたり、揺れたり、小さな穴がチラリズムしていたり。顔を埋めたいとか他にも色々あるけど。なぁ、そうは思わないか?」


 ライカは自分の性癖を淡々と語りながら振り返る。

 そこには10人ほどの野盗と思しき男たちが、ライカを囲い込むように立っていた。

 男たちは一瞬目を丸くすると、満場一致で思わずといった感じに叫んだ。


「「「「「何言ってんだ、この露出エルフ!?」」」」」


 自分への戒めのひとつとして語ったライカは、ちらと盗賊たちの奥。

 転生した自分の現姉である姉、両手両足をきつく縛られ、助けを呼べぬよう猿轡を噛まされ雑に転がされたレイラへ目を向ける。

 美しい容姿をしたレイラの肌や服は所々傷ついており、見るからに暴行の跡が目立った。

 明らかに表情を歪ませるライカを前に、男たちが下卑た口笛を吹く。


「なんだこいつ……。だが純正エルフであることに変わりねぇ」


 分かっているな、と男たちは目でコンタクトを取る。

 どうやら人攫いの常習犯らしい。

 男たちは手慣れた足運びと、絶対に逃がさない陣形で、じりじりとだがライカと距離を詰めて行く。

 しかしライカに焦りの表情は無かった。

 むしろふつふつと沸き立つ怒りを、群青色の瞳に秘めて男たちの方へとぶつけていた。


「行けッ者共!」


 リーダーと思しき、無精髭を伸ばしに伸ばした傲慢不遜そうな男の号令で、子分の男たちは飛び出した。

 その目は既に、敗北を疑わない愉悦色ひとつに染まっていた。

 なにせ相手はエルフ、それも子どもだ。接近戦に持ち込めばこっちのもの。

 いくら森による地の利があるとはいえ、この状況では生かせない。

 数も有利。


 さらにこの湖近辺では、他のエルフが来ないことも確認済み。

 森から出さえすれば、脱走者に厳しいエルフは絶対に追ってこない。

 男たちの立てた計画に一分の狂いもなかった。

 幼女エルフを売ればどれほどの利益が生まれるのか。

 その前に少し、その柔肌を蹂躙してやるのも面白そうだ。

 涎を垂らし、低俗極まる妄想をしていた男たちは一瞬にして理解する。

 目の前にいるライカは、自分たちが手を出していい存在ではなかったことに。


 空気を鳴らす振動が伝い、湖面を激烈に叩く音が木霊する。

 湖からは五メートルほどの派手な飛沫があがり、数秒後には雨のように降り注いだ。

 ぷかぷかと吹き出る泡と一緒に湖から浮かんだのは、ライカを掴んだ男のひとり。


 続けて二、三、四人とライカに飛び掛かった順から男たちは水面へ無造作に転がっていく。

 リーダーの男は広がる現実に言葉を紡げないのか口をパクパクと動かすだけだった。

 それは目の前の光景を一緒に見ていた姉のレイラも同じ。

 むしろレイラこそ真に疑問を持った。

 

 ——ライカは魔力を持たないはずなのに、っと。


 傲慢不遜なリーダーはようやく状況を理解できたのか、先ほどとは見る影もなくわなわなと狼狽気味に吠える。


「まさか闘気ッ!? いやバカな!」


 エルフは基本、魔法使いや知識のエキスパート。

 短絡的な思考を苦手とし、寿命こそ長いものの虚弱体質な者が多い。

 それはこの世界の常識であり、当然エルフ間の中でも常識だ。

 だというのに拳。

 こともあろうに眼前で無双するエルフの幼女は、自分よりも遥かに身体が強い大の男たちを殴り飛ばしているのだ。

 自身の身体が隅々まで露わになるのを隠そうともせず。


「ッ!」


 ライカへと飛び掛かった男たちが全滅する。

 残ったのはリーダー格の元傲慢不遜な態度をしていた男。

 それと、その隣に並び立つは魔法使い風の黒い外套を着た、顔が見えない程深々とフードを被った人物。


「……役立たずが。エルフのクソガキ一匹捕まえられないのかよ」


 外套の人物は低い男の声で、心底失望したといった風に息を吐きだした。


「ま、待ってくれ! 俺がやる! 俺がやるからッ! 見捨てねぇでくれよ! あんたの力があれば!」


 すると突然、リーダー格の男は顔を青ざめて外套の人物に縋りつく。

 外套の人物はもうひとつため息をつくと、無慈悲に袖を振ってリーダー格の男を振りほどいた。

 外套の人物がどんな目をリーダー格の男に向けているのかは定かじゃない。

 しかし少なくとも侮蔑色が強いのは確かだろう。

 言葉の意味を推し測ったライカは黒いフードを被った人物を問い詰める。


「馬鹿だから直球で聞くけど、お前が今回の黒幕か?」


 ライカの質問に外套の人物は答えることなく、ローブの中から自分の右腕を出した。

 手のひらに浮かぶは、縦に五十センチはある細長い形状の粗く削れた紫色の水晶。

 水晶は物理現象を無視して浮遊しており、その内側からは瘴気とでも表現すべき、毒々しい黒い光が漏れ出ていた。


 その時である。

 ズンッ、ズンッ、と鈍い地鳴りが響き渡る。

 応じるように水晶はより一段と回転を速め、闇色の光線をまき散らす。


「誰が待つか!」


 先手必勝とばかりにライカは踏み出し、外套の人物へと肉薄する。


「……っち、蛮族はどっちだッ!」


 外套の人物は懐から球体の形をした物を取り出した。

 地面へ向けて投げつけると、周囲一帯を覆い尽くす無機質な光が炸裂する。

 一瞬でも腕で目を覆ったライカが再び瞼を開く頃には、もう外套の人物は姿を消していた。


「逃げやがった……。けど」


 目を細くして外套の人物がいなくなった場所を数秒間見つめた後、ライカは残ったリーダー格の男へと目標を定めた。

 来る。絶望の具現化が。乱心の形をしたものが。

 リーダー格の男は「ひぃ」と情けの無い声を漏らし、汗を大量に浮かべた。

 一歩、また一歩と後ずさり、指がレイラの肌に触れた瞬間、その顔を地獄の餓鬼を思わす醜悪なものへと染め上げた。


「ク、クソエルフゥゥゥ! お、俺に近づいてみろ! こいつがどうなっても良いのか!」


 男はレイラの髪を掴み引っ張り上げると、その美術館に展示されているどの絵画に勝るとも劣らぬ首にナイフを突き立てたのだ。

 ライカが近づくたび、光るナイフをちらつかせた。

 この行動こそ、最悪な一手であったと気づかずに。


「おい、見えねぇのかッ! 動くなって言ってんだろォ!」


 男は目の前の幼女の行動に戸惑った。

 なんせ右に、左に、揺れるようにステップを踏み始めたのだから。

 直後、男の感覚で一瞬だった。

 ライカは地面に付けた足へグッと力を込め、大地を蹴る。

 バネのような瞬発力をプラスした圧倒的加速。

 一瞬にリーダー格の男の間合いに入り込んだライカは、そのみぞおち目がけて十全に抉り込む。


「ごっはっ!」


 エルフの、それも幼女が放つとは到底思えない破壊力。

 つっかえることのないその一撃は膨大な衝撃を生み出す。

 レイラから手を離した男は後方まで吹っ飛んでいく。

 一瞬にして意識を刈り取られた男は、無念の表情を浮かべたまま崩れ落ちていった。

 ようやく一息付いたライカはレイラの近くで片膝をつく。


「無事? ねえさん」


 ライカはレイラの拘束を無理やり引きちぎる。

 無論、魔法では無い。

 腕力に物を言わせた力業だ。

 瞳と口を驚きに染め上げ、声も出ないといったレイラにライカは手を差し伸べる。

 手を小刻みに震わせて、恐る恐るといった様子でレイラはライカの手を掴み取る。

 それからレイラは当然の疑問を口にする。


「ライカ……魔法、使えるの? 魔力無いのに」


「魔法じゃないよ、これ」


「嘘ッ! だって水の泡とか出てた!」


「あぁ……、それ含めて、説明するから。立てる?」


「大丈夫。けどライカ、そろそろ服着よ?」


 そうだった、と気づいたライカはそそくさと服を着用し始める。

 最後に逃げた男を気にかけながらも、湖に浮かぶ男たちを縄でふんじばった後、ライカはぽつりぽつりと語りだした。


「まずおれが女の子の百合とお腹は最高だよねって目覚めたところからなんだけど」


「……ライカ?」


 これはそう、ライカの人生が劇的に変わり始めた8年前の出来事である。

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