リョウマの容態 5/8

 今日は入院しているリョウマのお見舞いにきた。

 院内で騒がしくするのは、他の人の迷惑になるので、リョウマが好きそうなアニメやマンガを持参し、他には果物を準備してきた。


 リョウマは個室に入院していた。

 リョウマのお母さんから事前に病室を聞いていたので、僕らはそっと扉を開けて、中へ入る。


「リョウマぁ。どうだぁ、調子はよぉ」


 ケンイチがニヤついて入室。

 続いて、「てゅふっ!」とヘイタが吹き出し、アニメグッズが満載の袋を両手に入っていく。


「人に見られても大丈夫なアニメ持ってきましたぞい。僕達の泣く頃に、だったら見ても平気でありますなぁ。てゅっふ!」


 後から入った僕は、ヘイタの陰から出て、果物を近くのテーブルに置く。


「おぉ。んだよ。きたんだ」


 なんて言うけど、リョウマは力なく笑っていた。


 リョウマの両足は包帯でぐるぐる巻き。

 顔や腕に傷は残っていて、病院服の隙間からは包帯が見えていた。


「悪いな。いま、苦しいから、笑えなくてさ」

「気にすんな」

「ヘイタ。DVDのセッティングを」

「了解っふ!」


 テレビを観やすい位置に持っていき、僕らはアニメ鑑賞をする。

 一度、観たことがあるやつだから、話しながらアニメを見ていた。


 途中、リョウマは「ありがとな」とお礼を言ってくるが、照れくさいのでみんなはスルーする。


 *


 アニメを観終わった後、いつでも見られるように、手の届く場所へリモコンとDVDを置いた。


「なあ、リョウマ」

「ん?」

「言いたくなかったら、別にいいんだけどさ」


 ケンイチが別の方を向いて、聞く。


「何か、……あったんか?」

「はっ。なんだよ、急に」

「お前が急に飛び降りるからだよぉ」


 続けて、ヘイタが笑いながら聞く。


「誰かにイジメられてるとか。何でもいいから、話してよ。僕ら、……友達……じゃん?」


 改めて口にすると、小恥ずかしい。

 すると、リョウマは「あー」と声を発し、天井を見つめていた。


 僕らは待った。


 リョウマは視線を泳がせて、始めは何も言わなかった。

 けど、辛抱強く僕らが待っていると、やがて閉ざされていた口が開く。


「実はさ……」

「うん」

「俺、……その」

「気軽に言えよ。ま、気軽ってのも変な話だけどな」


 ケンイチが笑う。


「実は、俺女子と付き合ってたんだ」


 それを聞いた途端、僕らは頭が真っ白になった。


 嫉妬?

 違う。


 僕らは女の子に縁がない。

 だから、掛けてあげる言葉が一つだって浮かばなかった。


「う? うん。うん。……そうね」


 これが精いっぱい。


「だ、誰とぉ、付き合ってたんだよぉ。てゅふふふ」

「はは。惚気話聞いちゃいますかぁ? ええ?」


 リョウマは神妙な顔つきで、答えた。


「後藤、……と」


 僕はベッドの脚に自分の足をぶつけた。

 ケンイチは理由もなくヘイタの頭を叩き、ヘイタはクシャミをした。


「え? ん? どっち?」

「あの、後藤か? 1組の?」

「……うん。その後藤」

「ど、どど、どっちよ?」

だ」

「おぉッッッふ」


 変な声が漏れた。

 よりにもよって、後藤姉妹である。

 どっちか片方ではなく、どちらも、ときたもんだ。


「じゃあ、何か? 二股か?」

「違うよ。どっちも、ついてきたっていうか」


 歯切れが悪かった。


「げ、現代社会で姉妹婚みたいな事やってんな」


 妹と結婚したら、もれなく姉が付いてきます。とか、そういうのだ。

 古代の日本ではあったらしいが、現代となったら話は別。

 普通は二股とかで軽蔑されるが、リョウマはそういう事をするタイプじゃないのは、僕らが分かっている。


 だって、ハイレグの食い込みを見て、一緒に喜んでる気色悪い同盟関係だもん。


「最初の頃は、普通だったんだ。意外と可愛いんだな、って思ってて。けど、段々とカンナちゃんがおかしくなって、いきなりアノンちゃんが怒り出したりして」


 リョウマの目には、涙が滲んでいた。


「やっぱり、無理だって。別れようって言ったけど。聞いてくれなくて」


 リョウマは病院服の上をはだけていく。

 男のストリップなんて見たくはないが、事情が違った。


 露出した胸や腹には、落ちた時以外の痕があったのだ。


「……なんだ、それ」


 痕の一つを指し、


「これはアノンちゃんに切られた傷」


 もう一つの痣を指す。


「これがカンナちゃんに殴られた痕」


 リョウマは泣きながら僕らに打ち明けた。


「俺、……どうすりゃいいんだよ。このままじゃ、殺されるって」


 リョウマは『メンヘラ』と『ヤンデレ』の姉妹に挟まれて、僕らには打ち明けずに生活をしていたのだった。

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