第56話 一と六

「僕が……負けるとはな」


 呆然と、鷹峰は天井を見上げている。

 その表情は悔しそうというより、どこか晴れやかに見えた。

 鷹峰が敗北し、周囲の黒服たちがざわめきだす。


「やめておけ」


 鷹峰が黒服たちを制す。


「……ここから真っすぐ行った先に扉がある。扉を入った先には大部屋がある。大部屋のにある4つの扉の内、一番大きな扉の先に社長室はある」


「わかった。

――ありがとう」


 一言礼を言って、俺は廊下を走り出した。



 --- 



 社長室の扉の前で立ち止まる。


「……」

「……」


 2人の黒服が扉のすぐ側に金剛力士像の如く威圧感を放って立っている。


――わかる。


 この2人は別格。恐らく、俺や鷹峰より遥かに格上。

 だが2人は俺の前に立ちふさがろうとはしなかった。無言で、後ろで手を組み、ただ突っ立っている。


「通っていいってことか?」


「……」

「……」


 黒服たちは返事しない。目すら合わせない。

 俺は2人を無視し、扉をノックする。


「入れ」


 重い、男の声が中から響いてきた。

 俺は扉を開き、中に入る。


「……すばるん……」


 中には2人いた。

 まず正面の執務机に手を組んで座る白髪の男。この男が六道先輩の父親、六道グループの社長だろう。

 そして六道先輩もその目の前に居る。

 俺は六道先輩の隣に行く。


「すばるん……その怪我」


「大丈夫です。こんな傷、かるなちゃまの動画見れば治ります」


「どういう理屈!?」


 俺は社長の方を向く。


「このタイミング……晴楽をここへ呼んだのはお前か? ――いや、外の2人か」


 社長は呆れたような顔をする。


「それで? 何用かな。少年」


「……六道先輩のVチューバー活動を認めてもらいに来ました」


「君のような部外者が口を挟む問題ではない。即刻立ち去れ。さもなくば学校に連絡するぞ」


「部外者じゃなくて、今日俺は……えーっと、コンサルタント? 相談役? アドバイザー? えーっと、なんて言うんだろ……まぁいいや。あなたのサポーターとして来ました」


 ずっと無表情だった社長の眉がピクリと動く。

 俺はスマホを操作し、ある画面を見せた。

 社長は俺のスマホの画面を読み上げる。


「“エグゼドライブコラボ実績”……」


「はい。近年エグゼドライブがコラボをした企業、さらにはコラボしたことで生じた利益の一覧です」


「え!? すばるん、そんな情報どこで……」


「麗歌に頼んだ」


 社長は再び俺に視線を合わせる。


「例外は多少あるが、95%以上が営業実績を上げている」


「その通り。つまり、俺が言いたいのはこういうことです。――六道晴楽より、七絆ヒセキの方が利用価値がある」


 社長は利益主義。より利益の高い選択肢を取る。

 ならば話は簡単だ。七絆ヒセキの方が六道晴楽より利益を生み出すと教えてやればいい。


「七絆ヒセキとウチをコラボさせれば大きな利益を見込める。そう言いたいのだな?」


「はい。六道先輩は六道グループのすばらしさを幼い時から見ています。六道先輩ならば六道グループの良い部分を的確に宣伝できるでしょう。七絆ヒセキのネームバリューを乗せて宣伝すれば六道グループの売り上げは間違いなく上がります。すでに、エグゼドライブからコラボの許可は貰ってます。後は六道先輩次第ですが……」


「ぜんっぜんやるよ! だってボク、六道のホテル大好きだもん! 宣伝するのはまったくもって一切問題ないよ!!」


 社長は数秒黙り込み、


「……駄目だな」


 と、声を発した。


「いま、頭の中で計算した。六道晴楽を利用するのと七絆ヒセキを利用するの、どちらが利益を生み出すか。私の中では僅かに六道晴楽が勝った」


「……その程度の差なら、娘の自由にしてやってくれねぇのか……!」


「まだ理由はある。Vチューバー……動画配信者というものは諸刃の剣だ。確かに彼らが広告塔として有益なのは認めよう。だが、未だ世間では配信者に対する不信感というモノがある。彼らの迷惑行為はまだ増えている始末だ。動画配信者を起用すればブランドに傷がつきかねない。それほどのリスクを犯してまで起用する価値が七絆ヒセキにはない」


「それは一部の馬鹿がやってることだろ! ちゃんと真面目に、しっかりとルールを守って配信している人が大多数だ!」


「一部だろうが関係ない。幾万という商品の1つに虫が入っていただけでその商品すべてが、もしくはその商品の開発元、その品々すべてが影響を被る。……それと同じだよ」


 父親の物言いに我慢できなくなったのか、

 今度は六道先輩が前に出る。


「だったらそんなリスク全部を凌駕するぐらいの利益を出すって約束する!」


「確実性のない言葉に乗る気はない。根拠を持ってこい。七絆ヒセキがそれだけの利益を出せるという根拠を。話はそれからだ」


 ダメだ。足りない。


「着眼点は悪くなかったぞ、少年」


 俺のやり方は間違ってはいなかった。実際、社長はちゃんと話を聞いてくれていた。

 その上で足りなかった。

 もっと、なにかが必要だった……社長が納得するだけの……なにかが。


「失礼します」


 扉をノックして入ってきたのは、ミルキーさんだった。


「ミルキーちゃん!?」


「ミルキーさん……」


 ミルキーさんは手に書類の束を持っており、格好もスーツで、きっちりしている。


「……金剛」


「お久しぶりです。社長」


「何の用だ? もしや、ようやく我が元に……」


「いいえ。今日は六道グループの金剛としてでもなく、セイちゃんの使用人のミルキーとして来たわけでもありません。今日は――」


 ミルキーさんは書類の表を俺たちに見せる。

 そこには、のサインがあった。



「一娯壱恵の代理人として参りました」




 ――――――――――

【あとがき】

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