第15話 敵か、味方か
「こんちわー! リアちゃん、いる?」
慣れたように扉を開いた赤髪の美青年に見慣れてきた花屋は営業スマイルを向けた。
「ジャックさん、いらっしゃいませ」
嫌な気配を感じ取ったのか、人懐っこい顔をした茶髪の青年が続けざまに扉を開く。
「やっぱりか。お前、店に来すぎ! ……帰れ」
アッシュは、ジャックの背をグイグイと扉の方へ押していく。ジャックは慌てて彼をなだめた。
「ちょっ、ちょっと待って! 今日はね、君にも話があるんだよ、アッシュ」
「え?」
怪訝な顔を隠しもしないアッシュに、ジャックは苦笑いして話を続けた。
「君たちでしょ? クレメンタイン教授が抱えてる問題を解決したのは」
リアとアッシュは互いに目を合わせた。
「大丈夫だよ、そんなに警戒しなくても」
ジャックは肩をすくめて、小さく笑った。
彼はカウンターのそばにある長椅子に腰かけると、「まあ、二人も座って聞いてよ」と着席を促し、二人が座ったのを見届けてから、続きを話し出した。
「この前、学園で会ったね? あの時、教授の様子を見に行っていたんだ」
「どういうこと?」
「彼がハート領に移ったのはもう知ってるよね? それが原因の一つで問題が起きたことも」
アッシュは黙って頷いた。ジャックはリアに視線を移すといつもとは違う、真剣な眼差しで見つめてきた。美しく整った顔で見つめられると騎士服ではなくてもドキドキしてしまうのだとリアは驚く。
「ごめんね、リアちゃん」
突然、謝られて、高鳴っていた鼓動が落ち着きを取り戻す。今の流れでどうしてジャックに謝られるのか、とリアは首を傾げた。
「君がアーネスト侯爵家のご令嬢、ウィステリア嬢だと知っていたんだ」
「「え……?」」
リアだけでなく、アッシュも思わず声を上げる。
「知らないふりしていて、本当にごめん。でも僕は一応、ハートラブル公爵家の護衛騎士だから。いろいろと知ってるよ?」
ジャックは開き直ったように「ね、逆にそうじゃなきゃダメでしょ?」とアッシュに問いかけた。
アッシュは「確かにそうだな。むしろ、知らなかったら、お前は公爵家の護衛騎士として無能ということだ」と言うと、辛辣な言葉を受けたジャックは「ハッキリ言うね……」と渋い顔をした。
そんな二人のやり取りを横目にリアは以前、アッシュから聞いた嫌な予感を思い出していた。
――彼が転移者であり、しかも、自分や……恐らく、異母妹ローズマリーとも同じ世界から来た人物であることを。
ということは――もしかして彼はこの先に起こることを知っているのではないか?
(もしも私が転生者だと知ったら、自由に生きていけるように手助けしてくれるかしら?)
彼は――敵か味方か。今の段階では分からない。
リアは話の続きを待った。
「それと教授の件が、どう関係している?」
アッシュが問いかけると、ジャックは微笑んだ。
「君たちを敵にまわしたくないってことだよ。僕の手の内を明かして、むしろ、君たちに味方についてもらおうと思っているくらい。君たちだって、教授の件、調べたいだろう?」
アッシュは考え込むように口元を手で覆い、視線を床へと落とした。
「ハートラブル公爵家が後ろにいれば、調査もしやすいと思わない?」
確かに、“彼ら”に報復するのなら、ハートラブル公爵家の力は大いに役立つだろう。
アッシュは「まあね」と一言、ジャックに返す。彼はそれだけで満足そうな顔をした。
「リアちゃんはアーネスト領から出たほうがいいと思わない?」
いずれは出るつもりでいたのだが、まだ何の準備もできていない。リアはここで整えてから出たいと思っていた。今の生活を始めてから約1か月。実はとても気に入っている。
(そういえば……ジャックさん、最初の頃からここに居づらいならって誘ってきていたっけ)
元々正体を知られていたのだとリアは確信した。それと同時に自分の“立ち位置”も知っているのではないかという疑念が湧いた。
――『ウィステリア・アーネスト』が、何らかの物語の『悪役令嬢』である、ということを。
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