第5話 映画館デート1 ※森住麻利恵視点

 今日は、直人と約束していたデートの日。これから二人で一緒に映画を見に行く。緊張する。彼と約束した時間の5分前から、私は自宅の玄関で待機していた。そこの扉を出て、すぐ近くにある家まで行ってインターホンを押せば、彼が出てくるはず。


 時計を見ると、あと4分。最初の挨拶は、なんと言うべきだろうか。自然体で、まずはおはようと言うべきだろうか。緊張する。噛んで、変な感じにならないか心配になる。彼とのデートは何度か経験があるけれど、毎回緊張してしまう。いつまで経っても慣れない。


 時計を見ると、あと3分。私の今日の服装は、どうだろう。これで良かったのか。しかし、他に良さそうな服を持っていない。今日のために新しい服を買っておくべきだったかな。前も、この服で彼とデ、デートに行ったような記憶がある。


 頭の中で考える言葉でも、デートと思い浮かべるだけで恥ずかしくなってしまう。そして、約束の時間が迫ってくるにつれて緊張感が増していく。やばいな。彼と映画を見るなんて最高で嬉しいはずなのに、緊張がどんどん大きくなっていく。やばい。


 時計を見ると、あと2分。もうそろそろ行くべきか。でも、ちょっと早いかな。約束した時間に遅れるわけにはいかないが、早く行き過ぎるのもダメだろう。だから、時間ピッタリを狙って会いに行く。


 そして、ようやく約束した時間の1分前。私は、靴を履いて玄関を出た。その足で、彼の家に向かう。すぐに到着した。数十秒ぐらい早いけれど、押してしまおう。覚悟を決めて、私は目の前にあるインターホンを押した。


「どちら様ですか?」


 しばらくして、インターホンから彼の声が聞こえてきた。


「ま、麻利恵です」

「あ! 麻利恵、来たんだね。すぐ行くから、待ってて」

「急がなくても大丈夫」

「わかった!」


 最初に出した声は緊張しすぎて、少し詰まってしまった。変に思われていないだろうか。序盤から失敗してしまったと、少し気落ちする。優しい彼ならば、こんなこと何も気にしていないだろうとは思うが。


「ごめんね、待った?」

「いや、約束の時間ピッタリだよ。私が、ちょっと早く来ちゃった」

「そう? なら早速、行こっか」

「う、うん」


 普段の学生服とは違う、私服の直人が家から出てきた。男の子らしい高級感があるスタイリッシュで素敵な洋服だった。オシャレな直人は、いつも見たことない新しい洋服でデートに来てくれた。今日の服装も、とても素敵だと思った。


 そして、その首元には私がプレゼントしたネックレスが光っていた。


「えっと、その格好、とても素敵だね」

「ありがとう! この洋服、とても気に入っているんだ。特に、麻利恵がプレゼントしてくれた、このネックレスがお気に入りなんだよね」


 ああ……やっぱり、好きだなぁ。


 直人を見て、改めてそんな気持ちを抱いた。心の底から湧き上がってくる嬉しさを感じると同時に、それを上手く表現できない自分に悲しくなってくる。


「麻利恵とデートするときは、絶対につけて来ようと思ってたんだ。ほら」

「ッ!」


 そう言って、彼は胸元からネックレスを取り出した。その瞬間に、チラッと見える肌が刺激的すぎる。


「ダメだよ、直人! そんな、道の真ん中で男の子が肌を見せたら……」

「大丈夫だって、これぐらい。それに麻利恵の他に、誰も居ないからさ」

「……いや、でも」


 直人はスキが多すぎるよ。無防備にも程があると思う。私以外の女の子の前でも、こんなことをしているんじゃないかと不安になってしまう。ピュアな直人は、それを無自覚でやっている。だから、危機感が薄い。女性を相手にそんなことをやったら、襲われてしまうのに!


 私だから襲えないだけ。もしも私が経験豊富な女だったら、きっと今頃は……。


 いやいや、そんな妄想で直人を汚したくない。せっかく今日は、彼と二人で楽しくデートするというのに。


「麻利恵?」

「え?」

「上映時間までは、まだ余裕あるけど。上映前に売店でパンフレットとか見たいからさ、ちょっと急ごうよ」

「う、うん……。でも、この手」


 私は、いつの間にか直人に手を握られていた。そして、彼に引かれて歩いている。その感触を堪能しながら、戸惑う。


 一緒に並んで歩くだけじゃなく、手まで握っていいの!?


「ほらほら、行こう」


 私の問いかけに、直人は答えなかった。そのまま手を繋いで、二人で駅に向かう。やっぱり、何度経験しても彼とのデートには慣れそうにない。

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