異世界から来た純真無垢な金髪美少女が、何故か俺の家に居候することになったんだが

汐海有真(白木犀)

第一話 バイト終わりに金髪美少女と遭遇したんだが

 バイトを終えた俺は、地元の駅まで帰ってきた。エスカレーターを降りると、真っ黒な空に満月が浮かんでいるのが見えた。その綺麗さに心洗われ、身体を満たす疲弊が淡くなっていくのを感じながら、視線を落とし前を向く。


 ――駅前の広場に、「貴方の家に泊めてください!」と書かれたスケッチブックらしきものを持って立っている、にこにこした美少女がいた。


「えええ……?」


 俺の口から思わず、困惑の声が漏れる。


 暗い世界で鮮やかに浮かび上がっている、三つ編みにされた金色の長髪。髪の結び目で存在感を放っている、二つの大きな紐リボン。真っ白な丈の短いワンピースを着ていて、そこから覗くのは薄手のタイツに包まれたすらりとした脚。


 すれ違う人が思わず振り返ってしまいそうな、華のある少女だった。色素の薄い髪や目鼻立ちから醸し出される異国情緒は、都会の街並みにどこか不釣り合いだった。


 そんな少女が、「貴方の家に泊めてください!」という文言を掲げながら、何だか楽しげに微笑んでいる。どういうことなんだ……?


 道ゆく人々は、一瞬少女を見つめてから、すぐに目を逸らして歩き出す、という動きをしている者が多かった。確かに家出少女感あるし、関わらない方が吉と思っているのだろう。


 俺も若干気になりはするけれど、声を掛けるのはやめておこうと思って、止めていた足を動かし始めた――



「ぐふふ、お嬢ちゃん、泊まるところがないのかな? おじさんの家に泊まるかい?」

「わあ、本当ですか? ありがとうございます〜、とっても助かります!」



 いや待て待て待て、なんかやばそうな会話が聞こえてきたんだけど!


 俺は再び足を止めて、件の少女の方を見る。彼女の近くには、そこそこ歳がいっていそうな小太りのおじさんが立っている。おじさんはにやにやと笑いながら、少女の肩に手を回した。


「おじさんね、一人暮らしなんだ。だから、お嬢ちゃんみたいな可愛い子が来てくれたら、すごく嬉しいよお」

「えええっ、わたくしがいるだけで嬉しいんですか!? えへへ〜、照れますねえ」


「ぐふふ、それじゃあ行こうか。おじさんの家、この辺にあるからね!」

「はあい、れっつごうです! わくわく!」


 そうして、にこやかな少女とやばそうなおじさんが歩き出そうとしたところで、俺は駆け出した。がっと、少女の手を握る。


 少女が驚いたように俺の方を見て、その視線につられたようにおじさんも俺の方を見た。俺は頑張って笑顔を浮かべながら、声を出す。


「キャ、キャサリン! 我が妹のキャサリン! こんなところにいたんだな、探したぞ! 父さんも母さんもお前が家出して悲しんでるよ、さっさと俺たちの家に帰ろう!」


 早口でそう告げながら、俺は不思議そうにしている少女の手を引いて走り出した。


「わ、わあっ」


 少女が驚いたように声を出す。こんな状況なのに、とても可愛らしい声をしているなと何となく考えてしまう。


 振り向くと、ぽかんとした顔のおじさんが少し遠くで、「全然似てない兄妹がいるんだなあ……」と口にしていた。確かにな。

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