第33話 運命の星(2)
それが静羅である。
静羅を発見した両親は静羅が酷く衰弱しているのを見てすぐに病院へと運んだ。
ここからちょっとややこしいのだが、病院に連れていかれた静羅はすぐに特殊な体質の持ち主だとハッキリした。
そのせいで高樹家が絡んだ研究所に引き渡されてしまったのである。
ろくに回復もしない内に。
そのことを知った両親は発見者の権利と、高樹家の当主としての権力をフルに活用して研究所を訪れた。
そこで見たのは薬づけになって辛うじて生を繋いでいる静羅だった。
多種多様の薬が注入されたカプセルの中から、静羅は3人の方を見ていた。
そのとき和哉が泣いた。
まるで静羅のことを案じるように大声で。
その声に誘われるように母親が歩き、まだ小さな和哉の手と静羅の手がカプセル越しに触れたとき、カプセルは粉々に砕けた。
母親はとっさに和哉を両腕で庇い、硝子の破片の上に落下しそうになった静羅は和之が抱き止めた。
このとき高樹和之は心底から怒ったという。
穏やかな人柄で滅多に人を責めることをしないと言われていた和之が、人目も憚らず叱責の声を投げたのは、これが初めてだったのだと後に伝え聞いた。
和哉は静羅に向かって手を伸ばし、あどけない声で笑っていたらしい。
その姿を見た両親は静羅を引き取ることを決意する。
そうして静羅は現在に至るわけである。
考えてみればこれもおかしな話だ。
和哉と静羅の手が触れただけでカプセルが砕けた。
これは後に色んな人から聞いたから確かである。
そんなことあり得るだろうか?
これもふたりが神だったとするなら、別段不思議なことではないのかもしれない。
「どちらにしてもあいつらが動くのを待つしかないか。今夜はおじやかあ。暑いのに嫌だなあ」
呟きながら静羅は事態が動くのを待っていた。
それが和哉との決別になるとも知らずに。
湘南高校についての情報を集め、高校のシステムについても情報を集めた紫瑠たちは、静羅の言っていた言葉の意味を掴んでいた。
紫瑠たちの外見では紫瑠は高校3年生が限度で、柘那は大人びた高校1年として通らないこともないだろうが、普通なら高校2年生、志岐が高校1年といった感じだった。
そして静羅は高校1年生。
同級生にならなければ意味がないのに、傍にいることができるのは志岐と無理をして柘那のふたりだけだった。
その代わり寮に入れば静羅の傍に居られるのは紫瑠ということになる。
静羅は最上学年棟に住んでいるので。
柘那は女子寮になるから問題外だし。
転校生にならざるを得ない紫瑠たちは静羅の待つ湘南高校へと足を踏み入れた。
「ここに兄者が」
「その呼び方は避けた方が宜しいかと。王子」
「志岐のその呼び方もやめた方が無難だと思うぞ、俺は」
紫瑠に言われ志岐が顔を赤く染める。
今日は転校初日で入寮の日でもあった。
その関係上柘那は女子寮の方に行っている。
3人は従兄妹という設定にして同じ「松村」を名乗っていた。
これは適当に選んだ名字である。
地上では名字というものが必要なのだと知って。
紫瑠は調べた通り高校3年に柘那と志岐が高校1年として転入する。
そのときに裏工作を行って柘那と志岐は静羅のクラスになるように仕向けた。
これはかなり裏の技を使ったのだが。
クラスには定人数というものがあるらしく、本来なら柘那と志岐はクラスに入れないはずだった。
だが、紫瑠たちが手を加えふたりほど転校してもらった。
静羅がそれに気付いているかどうかは知らないが。
転校するためにはまず入寮手続きとやらを済ませなければならない。
そのため門に手を掛けようとすると背後から声が掛かった。
「済まないが通してくれないか?」
よく通る声だった。
誘われて振り返る。
そこには黒髪に黒い瞳の少年が立っていた。
年齢は17、8といったところだろうか。
人間でいうなら高校2年生くらいである。
しかし波立つ気が普通ではなかった。
紫瑠が瞬時にして険しい顔付きになる。
志岐も王子を護れるように態勢を変えた。
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