第17話 赤い狂星(5)




 ラーシャに妙な術を掛けられた静羅は、その日熱を出して倒れた。


 翌日には下がっていたのだが、心配性の和哉が許してくれず、学校を休む羽目になった。


 和哉も学校を休むと言ったのだが、これには静羅が誠心誠意を込めて説得し、和哉には学校に行ってもらった。


 まさか静羅が休むからといって、和哉にまで学校を休ませるわけにはいかない。


 それではまた親戚連中にいいだけ責められてしまうだろう。


 これで静羅もなかなか大変なのである。


「寝てる必要もねえか」


 身体はすっかり良くなっていた。


 寝てるのも邪魔くさいので起き上がる。


 昼食はさっき摂った。


 病欠の生徒の昼食はちゃんと出されるのである。


 それを食べないと和哉にバレるので、そこまではきちんと休んでいたのだ。


「それよりここ半年ほど穏やかな生活が続いてるなあ。中学を卒業する辺りから、あれ、ご無沙汰してるし」


 小首を傾げて考える。


 静羅が地元を離れたからだろうか。


 もしかして静羅の行方を掴んでいない?


「確かめるとしたら今が絶好の機会だけど、今までは夜だったからな。果たして昼にひとりだからって仕掛けてくるか?」


 確証はない。


 でも、ラーシャの件もあるし疑問は片付けておくべきだろう。


 仕掛けやすいように人気のないところへ行けばいいか。


 それで仕掛けてきたら様子を見ていたということだ。


「となると早く動かないとな。和哉が戻ってくるまでには部屋にいないとならないし」


 今日は6時間目までだからH/Rも入れて大体16時くらいか。


 役員にでもなっていたら、もうすこし遅かったかもしれないけど、転校してきたこともあって役職にはついてないし。


 部活もやっていないから。


 学生やってて役職を持たないのは小学3年生以来だと、いつだったか和哉が苦笑していた。


 そのことは悪いなとは思っていたのだが。


 和哉が生徒総長をやってきたのは静羅のとばっちりだったので。


 静羅が素直にやっていれば、和哉は悪くても副生徒総長くらいで済んでいたのだろう。


 和哉の実力的に役職を受け持たないということはないだろうから。


「さっさとするか」


 服を着替えて慌てて窓に近付いた。


 さすがに玄関から堂々とは出られない。


 学校を休んでいる身だし。


 見付かったらコトだ。


 このとき、静羅は思いもしなかった。


 このお忍びが自分の運命を変えることになると。


 運命の出逢い。


 そう呼ぶべきときが近付いている。


 静羅が自分の運命と出逢うときが。





「補導されるかと思ったけど、思ったほど注目されないな。俺って童顔のはずなのに」


 自分で認めるのは腹が立つが、そうなのだから仕方がない。


 和哉と並ぶと必ず年下に見られるし。


 街中を歩いていてふと気付く。


 自分は異質なのだと。


「今思えばラーヤ・ラーシャだけなんだ。俺に関連がある行動を見せたのって。人間じゃないと仮定して、だけどな」


 人間離れしている静羅に似ている行動を見せたラーヤ・ラーシャ。


 静羅を行方不明のだれかじゃないかと疑っていた。


 それは行方不明のだれかが静羅と似ている現実を意味する。


 確かめておくべきだったのかもしれない。


 それはだれのことだと。


 静羅とだれが似ているのだと。


 そこにしか静羅の出生に関する手掛かりがないのだとしたら……。


「俺。自分の出生の手掛かりを掴み損ねたのか?」


 和哉には感謝している。


 あの地獄のような苦しみから解放してくれたのだから。


 そのことを恨みはしない。


 でも、そのために確認する機会を逸してしまった。


 そのことを今になって悔やんでいる。


「暗殺者も出てくるんだったら、さっさと出てこいってんだ」


 物騒な科白を吐きながら静羅は街を歩く。


 ひとつの出逢いに向けて。

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