第五章 三年前の死

 桜森学園はちょうど下校時刻に差し掛かっているところのようだった。この学園は私立桜森大学が母体となっている学校で、小学部から高等部まで小中高一貫教育を行っている。中等部及び高等部進学の際に一定人数を外部募集する以外は基本的に内部進学であり、系列的にはかなりレベルの高い学校と認識されていた。

 三上友代は、そんな桜森学園の校門の前で榊原たちを待っていた。前回スタジオで会ったときは私服であったが、今はセーラー服を着ていて本当に高校生である事を実感させられる。

「あ、探偵さん」

 友代は榊原たちに気づくと頭を下げる。榊原たちも小さく頭を下げると友代の元へ向かた。

「すみませんね、急にお話を聞きたいなんて」

「いえ、とんでもないです。北町さんの死の真相、私も興味がありますから」

 友代はあくまで丁寧に答えた。

「でも、何で今日になって急に?」

「いえ、他の方々が次々に私の事務所に話を聞きに来られたので、それなら私の方から聞いて回った方が効率いいかと思いましてね。私も忙しいもので」

 暗に声優たちを牽制しているのだが、それを知ってか知らずか、友代はにっこりと答えた。

「そうなんですか。お仕事、大変ですね」

「あなたほどではありませんよ。学業と声優業を両立させるなんて、並大抵の努力ではできないでしょう」

「そんな……私は好きな事をやっているだけです」

 そう言ってから、友代は瑞穂の方を見た。

「そう言えば、この間のスタジオでもいましたけど、あなたは?」

「あ、深町瑞穂です。由衣の中学校時代の友達で、先生の助手をしています」

「あぁ、だからさっき由衣ちゃんから連絡が来たのね」

 由衣、というのが瑞穂の友達らしい。

「さて、こんなところで立ち話もなんですから、どこか落ち着ける場所があればいいんですが……その辺の喫茶店でも入りましょうか」

 榊原がそう切り出すと、友代は不意に手を打って思いがけない提案した。

「だったら演劇部の部室に来ませんか? もう部活は終わって誰もいないので、話すのはもってこいですし」

 これには榊原の方が驚いた様子だった。

「いいんですか? 部外者が入っても?」

「構いません。その方が私も話をしやすいですし」

「ですが……」

「遠慮なさらなくても結構です。どうぞ」

 結局、その言葉に甘える形で、榊原たちは部室棟の演劇部部室に案内された。すでに下校時間が近づいているため、ほとんど誰ともすれ違う事もない。

「こちらです」

 演劇部室の中は小道具だの台本だのでごちゃごちゃしていて足の踏み場もなかった。本棚には歴代の部員たちが演じてきた劇の台本らしきものがびっしり詰まっており、何とも圧倒的な光景である。三人は、どうにか部屋の中にスペースを確保すると、それぞれ腰かけた。

「それで、何をお聞きになりたいんですか?」

 友代に聞かれて、榊原は質問を開始した。

「まず、今回の北町さんの死に関して、あなたが思うところを話してもらいたいのです」

「前にスタジオに来た時にある程度は話したと思いますけど」

「あの時は他の人間もいましたから。あの場では話せなかった事もあったと思いまして」

「そんな、買いかぶりすぎです」

 友代は謙遜気味にそう言う。とはいえ、ここまでは榊原も想定済みである。

「では、質問を変えましょう。北町奈々子さんに関して何か知っている事はありませんか? 同じ声優として、それなりに評判は知っていたはずですが」

「いえ、私もこの業界に入ってまだ日が浅いので、そんなにたいした事は……」

「では、北町奈々子さんに関して何も知らなかったと?」

「そこまでは言っていませんけど……」

 どうも歯切れが悪い。榊原はこの辺に何かあると直感したようだった。

「……ところで、北町さんの経歴に関しては何かご存知ですか?」

「え?」

 唐突な問いに。友代はキョトンとした表情をする。

「知り合いの記者に少し調べてもらいました。卒業したのは桐山高校という高校で、在学しながら声優の専門学校に通っていますね。高校卒業後、大学には行かずに二年前に声優としてデビュー。その後人気声優として開花し、現在に至る」

 どうやら、先程の島原のデータらしい。

「それが何か? 私には……」

「ただし」

 榊原は友代の言葉を遮るように言った。

「桐山高校は転入となっています。転入前の高校は……桜森学園高等部。この学校です」

 その瞬間、友代の顔色が変わった。

「今日はその件でも話を聞きたいと思いましてね。何か心当たりはありますか?」

「それは……」

「……実は、もう一つ気になっていたんですよ。あなたがなぜ、我々をこの部室に案内したのか。随分強引に誘ったようにも見えたのですが……この部室に何かあるのでは?」

 友代はしばらく黙り込んでしまった。榊原はそんな友代をじっと見つめながら回答を待つ。

 やがて、五分程度経過した辺りで、友代は小さくため息をついた。

「さすが探偵さんですね。やっぱり、私じゃ隠し通すのは無理みたいです」

「隠し通す、というと?」

「少し待ってください」

 友代は立ち上がると、本棚にある大量の台本から一冊を取り出して、榊原に渡した。

「どうぞ」

 それは、かつて演劇部が演じた劇の台本のようだった。表紙の日付を見るに公演はどうやら三年前の七月。内容は恋哀物か何かのようである。

「これは?」

「見ればわかります。最初のページを見てください」

 促されるままにページをめくる。そこには部員の配役や役職が書かれていたが、そこに見過ごせない文字があるのを榊原は見て取っていた。


『「暁の恋人たち」配役一覧

 演出……木霊山子

 監督……羽牟レッド

 助監督……市川団十郎

 照明責任……梶李ドミノ

 道具責任……シェイク槍

 

 主演……北町奈々子

 助演……玉木カローナ

 助演……諫早ハンス』


「北町奈々子?」

 榊原が顔を上げると、友代は頷いた。

「北町さん……いえ、北町先輩がかつて主演し、そして先輩にとって最後の舞台となった劇の台本です」

「彼女は、ここの演劇部所属だったんですか」

 思わぬ事実に呻く榊原に、友代は今度こそ真実の言葉を述べた。

「私、中学生の頃にこの学校の文化祭で先輩のその劇を見て感動したんです。それが、私が役者を志したきっかけになっています」

「どうしてこれを隠そうとしたんですか? しかも、隠そうとした割には我々をこの部室に案内し、しかも少し抵抗しただけであっさりと秘密をばらしている。あなたの狙いがわかりません」

 榊原の問いに対し、友代は首を振りながら答えた。

「仕方がなかったんです。生前の北町先輩が、絶対にこの台本の事だけは誰にも話すなって言っていたものですから」

「北町さん本人が、ですか?」

 友代は黙って頷いた。

「先輩が言うなと言った以上、私にはその言葉を守る義務があります。だから、この台本の事はもちろん、私が北町先輩の演劇部における後輩だって事も北町先輩以外の人は誰も知りません。でも、私から自発的に言うのは駄目でも、探偵さんが勝手に暴いたから仕方なく言うのは問題ないはずです。だから、こうして回りくどい事をさせてもらいました。申し訳ありません」

 友代は小さく頭を下げた。

「それは構いませんが、なぜ北町さんの言いつけを破るような事を?」

「……私も、北町先輩が自殺しただなんて信じていないからです」

 その言葉を、友代ははっきりと言った。

「探偵さんも、その可能性を考えているんですよね。だから、あんなにしつこく捜査をしている」

「……ご想像にお任せします。ですが、あなたがそう思う根拠は知りたいですね」

 榊原の言葉に、友代はこう言った。

「先輩は、多少の事で折れる人じゃありません。だから、最初から自殺じゃない可能性は疑っていました。でも、状況的に自殺しかありえなくて、私にも何が何だかわからなくて……。その真相がわかるなら、私はどんな事でもします」

「他の人たちはどう思っていると思いますか?」

 友代は少しためらった後、はっきり言った。

「北町先輩の事を知っている人間なら、多少なりとも疑っているとは思います。だから、探偵さんが調べ始めて、みんなも色々探りを入れているみたいです。私にも、何人かから探りを入れてくれないかって言われたりしていました」

「だろうね」

 事務所にやって来た二人の事を思い出しながら言う。

「さっきの話だと、北町さんはこの台本の劇を演じた直後に転校しています。その理由はわかりますか?」

「……私は知りません。当時はまだ中学生だったので。先輩も、それだけは教えてくれませんでした」

 どうやら、その時に何かがあったようである。

「この台本は借りても?」

「構いません。持って行って、調査に役立ててください」

 一方、瑞穂は台本に興味津々だった。

「あの、失礼ですけど、この台本に書かれている方々、ずいぶん個性的な名前ですね」

 瑞穂が台本を覗き込みながら聞く。それに対し、友代は苦笑して種を明かした。

「あぁ、それは芸名なんです。演劇部だから部活をやるときは自分で付けた芸名を名乗ろうっていうのがうちの部の伝統なんです。私もここでは『夏色オレンジ』という芸名で活動しています。でも、北町先輩は芸名を名乗るのが嫌いでした。せっかくなんだから本名でやりたいって。だから、その中で北町先輩だけは本名なんです」

「へぇ。どんな話なんですか?」

「話自体はありきたりなラブロマンスです。でも、先輩はそれを素晴らしい技術で演じ切りました。あの舞台は、先輩があってこその舞台だったと思っています」

 そこまで言われると、瑞穂も一度その舞台とやらを見てみたくなってきた。が、榊原はそんな事が気にならないのか、そのまま質問に戻っていく。

「改めてお聞きしたい。あなたと北町さんとはどんな関係だったんですか?」

 その問いに対し、今度は友代も素直に答えた。

「……歳の離れた姉妹みたいな関係、ですかね」

「姉妹、ですか」

「はい。私、初めて先輩の演劇を見たときに、感動して先輩に会いに行ったんです。そこで、将来絶対にこの演劇部に入るって宣言したんです。今思うと恥ずかしい事なんですけど……先輩は微笑んでくれました」

「それで、あなたは必死になってこの学校に入った」

「同時に役者についても興味を持って、声優としてデビューする事ができました。そこでひょんなことから北町先輩に出会ったんです。北町先輩も私に気が付いて、そこから付き合いが始まりました。あくまで周りには秘密にして。こういう事は、あまり公にしない方がいいと思ったんです。新米の私が北町先輩と仲良くしていたら、他の声優の方々がねたんで将来にも響くかもしれないって。だから私、先輩の部屋には一度も行った事がありません。この気持ち、わかりますか?」

「わかります」

 本当にわかっているかどうかはわからないが、榊原は相槌を打って先を促す。

「私、先輩が頑張っていたこの作品を受け継ぎたかった。だから、荒切監督に必死に頼み込んだんです。向こうも私の意気込みをわかってくれたのか、私はあの作品にかかわる事ができるようになりました」

「そうだったんですか……」

 つまり、友代は北町と何らつながりがないどころか、あのメンバーの中では一番仲が良かった人間だという事になるのだろう。

「改めてお聞きします。あの夜……つまり、十二月五日の夜、あなたはどこで何をしていたんですか?」

 榊原の問いに対し、友代は首を振った。

「あの日は収録がなかったので学校に行って、部活に参加した後は自宅に帰っていました。家族が証人ですけど、確かそれは証明にはならないんでしたよね」

「捜査上はそうなります」

「……ただ、その夜先輩と少し電話で話はしました」

 その言葉に、榊原は緊張した様子を見せる。

「時間は?」

「午前一時くらいだったと思います。向こうから電話をかけてきたんです」

「どんな内容でしたか?」

 友代は少し考えるような仕草を見せたが、

「何だったら、お聞きになりますか?」

 と、予想外の言葉を告げた。

「お聞きにって……録音してあるんですか?」

「はい。先輩に言われて日頃から通話は録音するようにしてあるんです。ストーカーなんかが起きたときに証拠になるからって。普通だったら少ししたら消すんですけど、先輩との最後の電話になってしまったので、消さずに残してあるんです」

 自身もストーカー被害を受けて今のマンションに引っ越している北町らしい助言ではあった。もちろん、榊原としても聞く事に異論はなかった。

「ぜひ、聞きたいですね」

「では」

 友代は携帯電話を操作すると、榊原に差し出した。すると、録音した音声が流れだしてくる。


『はい』

『あ、友代ちゃん。私、奈々子よ』

『先輩! どうしたんですか、こんな時間に?』

『ちょっと話がしたくて。今、大丈夫だった?』

『大丈夫です。ちょうど部屋で本を読んでいたところなので』

『そうなの。私も本を読んでいたところ。ねぇ、今少し話せないかな?』

『ええ、構いませんけど、何かあったんですか?』

『ちょっとね……最近、またあのストーカーが出てきたみたいなの』

『え、大変じゃないですか!』

『本当に、どこでこの場所をかぎつけてきたのか』

『例の二年前の人ですか?』

『多分そう。でも、このままだと埒が明かないから、今晩辺り決着をつけるつもり』

『何するんですか?』

『多分、あいつは今日も私を見張っているだろうから、今度はこっちからあいつの正体を暴いてやろうと思っているの』

『え、そんな、危なくないですか?』

『大丈夫、顔を確認するだけだから。それに一人じゃないのよ。実はこの後、人と会う約束をしていて、その人にも事情を話して協力してもらうつもりだから』

『こんな夜遅くにですか?』

『この間、私の部屋に忘れ物をして、それを取りに来るんだって。……ごめん、誰かに話を聞いてもらいたかったの。一人じゃ心細くて。もう切るね。おやすみなさい』

『あ、先輩!』


 それで通話は終わりだった。

「これは……」

「お聞きの通りです。先輩……最近また例のストーカーに悩まされていたみたいなんです」

 顔を伏せる友代に対し、榊原の表情は厳しいものだった。

「なぜこの通話を警察に提出しなかったんですか? もし提出されていれば、自殺という判断が覆ったかもしれないのに」

 確かに、通話内容からは自殺をにおわせる会話はあまり感じられない上に、第三者の存在を感じさせる会話まである。これならいかに密室だったとはいえ、警察も多少なり捜査をしたはずだ。だが、友代は首を振った。

「どうしていいのかわからなくなって。先輩と最後に会話したのが私だってわかったら疑われると思って……。それに、先輩との最後の会話を、他の誰にも聞かれたくないって気持ちもあって、いつの間にかタイミングを逃してしまったんです」

 榊原は唸った。声優などという仕事をしているので忘れがちであるが、彼女はまだ高校一年生の少女なのだ。大人の判断を求めるのはやや酷である。

 と、そこで瑞穂がおずおずと手を上げた。

「あの先生、いくつか彼女に質問していいですか?」

「ん? あぁ、構わないよ」

 榊原は軽く咳払いすると、こんな質問をした。

「ええっと、まず確認なんですけど、お二人は互いの携帯電話の番号を教えていたんですか?」

「はい。その位だったら問題ありませんから」

「でも、だったら何で最初に北町さんは名乗りを上げているんですか? 番号が電話帳に登録されているんだったら、名乗るまでもなく誰がかけてきたかは明白だと思うんですけど」

 言われて榊原も不思議そうな顔をした。榊原にくっついているうちに、瑞穂もだんだん面白いところに着眼できるようになってきているようだった。そして瑞穂はさらに続ける。

「それに私、あの部屋を調べているときに北町さんの携帯電話も調べているんです。でも、あの携帯電話には事件前後の時間帯に怪しい履歴は一切ありませんでした。もちろん、午前一時に電話したはずのこの通話の記録もです。これは、なぜですか?」

 それに対し、友代はシンプルに答えた。

「その質問の答えは単純です。この通話は北町先輩の携帯電話じゃなくて、部屋にあった固定電話からかけられたものだからです」

「固定電話? そんなのあったっけ?」

 瑞穂が首を捻ると、榊原が助太刀をする。

「確か、リビングに旧式のコード式固定電話があったはずだ」

「どんなものかは知りませんけど、実家から持ってきた固定電話を使っているという話は以前聞いた事があります。さすがに私も先輩の固定電話の番号は登録していません。この電話を受けた時の番号がどう見ても携帯電話のものじゃなかったし、先輩が電話の中で部屋の中にいるって言っていたから、多分固定電話で電話しているんだってその場で想像できました」

 そう言って、友代は問題の履歴を見せる。確かにその番号は携帯電話のものではなく固定電話のものだった。

「あの旧式固定電話じゃ、その場で履歴を特定するのは無理だな。警察が彼女との通話の存在に気付かなかったのもある意味当然か」

 榊原はそう言ってとりあえず納得すると、話を先に進めた。

「あなたが北町さんの死を自殺でないと考える根拠の一つは、この通話からですか?」

「はい。先輩はどう考えても自殺するような態度には見えませんでしたから」

「これを聞く限り……二年前のストーカーが最近になって再び北町さんを付け回していたという事になりますね」

「はい。私もこの時話を聞くまで初耳だったんですけど」

 と、瑞穂が榊原に耳打ちした。

「誰も北町さんがまたストーカー被害に遭っていたなんて言っていませんでしたよね」

「被害者が意図的に隠していたのか、あるいは知っているにもかかわらずとぼけている人間がいるのか……この辺は今後の調査次第だな」

「それに、電話の内容だと北町さんは事件当日の夜に誰かと会うつもりだったみたいですね。結局マンションには誰も入った形跡はありませんけど」

「それが誰なのか……一歩前進ではあるが、またわけがわからなくなった感じだな」

 二人は唸り声を上げる。と、友代が不安そうに聞いてきた。

「どうですか? 何か役に立ちますか?」

 榊原はしばらく目をつぶって黙っていたが、

「……その音声データを頂けますか?」

「それは構いませんけど……」

「大丈夫です。私は一度引き受けた仕事は絶対に最後まで諦めません。北町さんの死の真相、必ず明らかにしてみせます」

 榊原は決然とした表情でそう言ったのだった。


「二年前のストーカー、まだ諦めていなかったんですね。しかも北町さんは、そのストーカーに対抗しようとしていた」

 校門を出ながら、瑞穂はそう呟いていた。

「あの通話が本当なら、そうなるな。それと、この通話で服を着替えていなかった理由に説明がついた。誰かに会う約束をしているのにパジャマ姿というのはまずいだろうからな」

「誰に会う予定だったんでしょうか?」

「まぁ、その人物が結局来なかった可能性もある。仮に来たとしたらそいつは十中八九犯人だとは思うが、この電話内容からではその相手が誰なのかはわからない。それに、瑞穂ちゃんが言ったように実際にその人物がマンションの中に入った形跡がないのは事実だ」

 榊原はそう言って考え込んだ。

「これからどうしますか?」

「まずは、問題の転校時の事情を調べる必要がある。そこに何かあるのかもしれない。とはいえ、学校に聞いたところで答えてくれそうにもないが」

「でしょうね」

 こういう名門校ではどうしてもその手の不祥事には口が堅くなってしまうものである。

「警察にでも聞いてみますか?」

「それが一番かもしれないが、警察沙汰になっていなかったらその手も使えない。もしかしたら、内々ですべてを片付けている可能性もある。私もここ数年の間に起こった事件を思い返してはいるが、今のところそれらしい事件は思い当たらない」

「先生が思い出せないんだったら、本当にそうなっている可能性もありますね」

 実際、榊原の事件に関する記憶はかなりのものである。新聞の三面記事でさえある程度なら覚えており、気になった事件はスクラップするなどしているのだ。元捜査一課刑事だけあって、そういう小さな事件の事も気にかけるようにするのが習慣らしい。

 それでも思い出せないとすれば、新聞報道がなされていない可能性さえある。

「じゃあ、どうするつもりなんですか?」

「まぁ、何とかする」

 そう榊原が呟いた時だった。不意に榊原の携帯が鳴った。

「誰ですか?」

「土田だな」

 榊原そう言うと電話に出た。

「私だ」

『あぁ、榊原さん。お疲れ様です。捜査の方、進んでいますか?』

 相手は相変わらずのんびりした口調で言った。

「まぁまぁだな。それにしても、急に何の用だ?」

『いえ、僕じゃないんです。実は、昨日の話をしたら興味を持った人がいましてね。今、代わります』

 土田は思わせぶりな事を言うと、誰かに電話を渡したようだった。その相手が電話口に出る。

『やぁ、榊原氏、お久しぶりですな』

 その特徴的で低い喋り方に、榊原は顔をしかめた。

「島原、土田と二人に連絡を取った時点で大方あんたが出てくる事は予想できていたが……やはり出てきたか、尾崎」

『ご名答。榊原氏の活躍、今でも時折拝見させてもらっていますよ』

「ふん、その嫌味節だけは健在だな」

 その様子に、瑞穂が心配そうに尋ねる。

「あの、その方は……」

「例の国民中央新聞遊撃隊三人組最後の一人、尾崎純也。ある意味三人の中で一番の曲者だ。入社から社会部一筋で遊撃隊では三人のリーダー格。下手をすればそこら辺の刑事よりも頭の回る厄介者で、自身もいくつかの事件で警察を出し抜いて真相をスクープしてきた、まさに国民中央新聞の切り札だ。島原や土田よりもはるかにたちが悪い。正直、私もかなり苦手な相手だ」

 榊原にここまで言わせるとなると、その尾崎という記者はよほどの変わり者という事なのだろう。というより、普段から殺人犯相手に一切ひるむことがない榊原が自分から苦手と言った相手など初めてだった。

「それで、社会部のあんたがなんでわざわざ私に連絡をしてきた?」

『いやぁ、どうも島原氏や土田氏の話だと、北町奈々子の一件が何やらきな臭く見えてきましてね。社会部の記者として、こうしてくっついておくのもいいかと思った次第ですよ』

「ふん、白々しいな」

『……ま、冗談はさておき、本題に入りましょうかね。榊原氏、あなたが今調べているマンションに関してです。実は、私が今調べている案件に関して聞きたい事があるのですよ』

「六一二号室の石渡美津子の件か? だが、それは政治部の管轄だろう。現状では石渡美津子は行方不明で、社会部がしゃしゃり出てくる余地はないはず。第一、その件は土田の管轄だったはずだ」

『いやですねぇ、私が盟友・土田氏のネタをかっさらうような真似はしませんよ。もちろん、島原氏のネタも、です。私が聞きたいのは、五一二号室の住人に関してなんです』

「五一二号室?」

 いきなり出てきた部屋番号に、榊原も戸惑う。瑞穂は慌てて昨日の聞き込み結果を書き込んだ手帳を見た。

「えっと、確かフランス人商社マンの部屋です。ほら、本国と日本を行ったり来たりしていて、三ヶ月前からフランスに行ったっきりで部屋そのものは留守になっていた……」

「あぁ、あの部屋か」

 榊原も思い出したようだ。

『さすがは榊原氏。ちゃんと聞き込みをしているようですな』

「だが、それがどうした? あんた、何を追ってる? あんたが出ているからにはそれなりに大きな事件なんだろうが……」

『それを私に言えと?』

「言わなきゃ私も正しい情報を教えられない。それに、元からそのつもりで電話してきているんだろう。私が何の見返りもなしに情報を吐くとはあんたも思っていまい」

『……まぁ、腹の探り合いはこの辺にしておきましょうかね。私が調べているのは、声優の自殺事件でも政治家の汚職事件でもなく、ある麻薬密輸事件です』

「麻薬?」

 またして予想外な話に、榊原は眉をひそめた。

『まぁ、詳しい話は直接会ってという事にしましょうや。電話でする話題でもないでしょう』

「私としてはあんたには会いたくないんだがな」

『つれませんねぇ。とはいえ、会わないわけにはいかないでしょう』

「……どこだ?」

『上野公園近くの「アルファ」という喫茶店、覚えていますか? そこで落ち合いましょう。私がおごりますのでご安心を』

「わかった」

『では、お待ちしています』

 電話が切れる。振り返ると、瑞穂が疲れ切った顔をしていた。

「私たち、声優の自殺事件を調べていたんですよね。なのに政治家の汚職が出てきたと思ったら、今度は麻薬密輸ですか。もう、何が何だか……」

「言うな。私も同じ気持ちだ。この事件、どこまで大きくなっていくんだ」

「とにかく、行くしかありませんね」

「今度は上野か……何だろう、今日一日で東京をあちこち移動しているような気がするんだがな」

「世田谷のマンションから品川の事務所、練馬の桜森学園を経て、次が上野ですからね。まさに探偵冥利に尽きます」

「それは皮肉かね?」

「まさか。でも、さすがにこれで今日は最後じゃないですか?」

「そう思いたいね。そして、その今日最後の相手が尾崎だというのは何とも不運だ」

「……よっぽど嫌いなんですね」

「現役時代、あいつにはろくな目にあわされた事が一度もない」

 本当に心底嫌いらしい。島原や土田に出会った時でさえこんな反応ではなかった。

「電車で行きますか?」

「いや、もう乗り継ぐのに疲れた。タクシーで行こう」

 そう言うと、榊原は手を挙げて手近なタクシーを止めた。

「あいつと会う前に無駄な労力を使いたくない」

「……どんな人なのか、逆に少し興味が出てきたんですけど」

 瑞穂の言葉に、しかし榊原は答える事はなかった。


 そんなわけで上野公園である。もうすっかり日も暮れて博物館などの施設は閉まっているのだが、相変わらず人通りは多い。

「東京というのは、どこからこんなに人が湧いて出てくるんだろうね」

「さぁ。それで、そのアルファっていう喫茶店は?」

「こっちだ。尾崎と話すときに何度か利用した喫茶店だ。もっとも、行くのはもう何年ぶりになるか」

 上野公園を抜け、様々な店が軒を連ねている辺りの一角。そこに『アルファ』という喫茶店はひっそりと建っていた。

「思ったより小さいですね」

「一種の穴場だ。記者やライターがよく使っていて、情報交換なんかをよくしている」

 そう言うと、榊原は店のドアを開けて中に入った。

「いらっしゃい」

 店のカウンターからマスターと思しき男性が声をかける。

「榊原だ。連れが来ているはずなんだが……」

「あぁ、伺っています。その奥の席です」

 マスターに言われるままに一番奥の席に行くと、そこにはすでに先客がいてすました表情でコーヒーを飲んでいた。

「お早いですな」

「あんたほどじゃない、尾崎」

 男……国民中央新聞社会部記者・尾崎純也は、榊原の言葉に小さく笑って応じた。服装こそTPOをわきまえてかちゃんとスーツを着ているが、その雰囲気はどう見てもまともな会社員のそれとは違う。目つきは狐のように鋭く、痩身というかどこか痩せすぎとも取れるその体からは、どこか油断ならないオーラを発しているのが瑞穂にもよくわかった。

「まぁ、どうぞ。お好きなものを注文してください」

「……コーヒーだ」

「私はレモンティーで」

 ウェイトレスに注文すると、尾崎は興味深げに瑞穂の方を見つめた。

「へぇ、彼女が例のお弟子さんですかな。島原氏や土田氏から話は聞いていましたが、いやいや榊原氏もなかなかで」

「減らず口はそこまでにしておけ。そんな事を言うために私をここに呼んだわけじゃないだろう」

「……ごもっとも。では、早速本題に入りましょうか」

 尾崎はそう言うと、不意に声を潜めた。

「シャルル・アベール商会……英語圏ではチャールズ・アルバート商会と呼ばれていますが、ご存知ですか?」

「フランス語読みはわからんが、英語読みの方なら知っている。欧米を中心に展開し、近年日本にも進出してきた貿易企業だったか。確か、支店が渋谷にできたと話題になったはずだ」

「さすがは榊原氏。事件だけではなく経済方面にもお詳しいようで」

「御託はいい。要点だけを言え」

 榊原の言葉に尾崎は肩をすくめた。

「このシャルル・アベール商会は現在アメリカを拠点にはしていますが、本社はパリにあるフランス系の貿易会社です。フランス国内でもなかなかの実績を残している企業ではありますが、実はこの会社がフランスの闇社会と組んで麻薬売買に手を出しているという噂が国民中央新聞パリ支局から入ったんですよ」

 尾崎はそう言いながら解説を続ける。

「シャルル・アベール商会は貿易会社というだけあって世界中と取引していますが、その中で近年南米諸国との取引をするようになったんです。リークによると、その南米諸国で取引した麻薬を使って各地の支社を通じた麻薬売買を行っているという事です。もちろん、この日本に対しても」

「渋谷の支店を通じて、日本の裏社会に麻薬が流れていると?」

「日本側の取引相手は古参の暴力団ではなく、割と新興の暴力団に多いようですな。古い連中はすでに独自の入手経路を持っていて手が出せないので、ルート開拓に忙しい新興暴力団を相手に選んだというところでしょうか」

「それで、問題の五一二号室に住んでいるフランス人が、そのシャルル・アベール商会の社員だったとでも言うつもりか?」

「言うつもりなんですけどねぇ」

 尾崎はからかうように言うが、榊原の厳しい表情を見て真顔に戻った。

「ミシェル・ロラン。英語読みではマイケル・ローレンツ。それが、あの五一二号室の住人です。場所によって名前の読み方を使い分けていますが、日本ではフランス語読みを使っている事が多い。昨年までシャルル・アベール商会の南米・コロンビア支店に在籍。今年になって進出したばかりの東京支店に異動し、パリ本社との連絡役をこなしているとか」

「コロンビア……うさん臭いにもほどがあるな。麻薬となれば一番に名前が挙がる国だぞ」

 一九九三年までコロンビアに存在していたコカイン密造組織の事は記憶に新しい。この組織自体はなくなったとはいえ、各地に存在するコロンビアの麻薬組織は今も衰えていないはずである。

「で、あんたはミシェルを追っていると?」

「まぁ、そういう事ですな。それで、うちのパリ支局やコロンビア支局、それにアメリカ支局なんかと共同で色々調べてはいるんですが、どうも関係機関側もこの件に関して極秘捜査を行っているらしいのです。日本からは厚生労働省の麻薬対策課と、警視庁の組織犯罪対策部、それに東京地検特捜部の合同チームが作られていて、シャルル・アベール商会東京支社及び関係者の自宅などが捜査対象になっています。もちろん、本社との連絡役のミシェルの自宅……あのマンションも、です」

「捜査員が見張っているのか?」

 だとするなら事件当夜の事が聞けるかもしれないと思ったのだが、尾崎は首を振った。

「ところが、捜査当局がミシェルやミシェルのマンションの存在を掴んだのはつい最近……具体的には十二月中旬の事のようでしてね。要するに、北町氏が亡くなった十二月上旬には捜査当局はまだそこまでたどり着けていなかったわけです。聞くだけ無駄でしょうな」

「世の中そううまくはいかないか……」

 榊原はため息をつくと、ジッと尾崎を睨んだ。

「で、私に何を求める?」

「相手は世界展開する多国籍企業です。捜査機関側もかなり慎重になっていますが、我々独自の情報によれば、近いうちに各捜査機関同時の大規模強制捜査が実施される見込みです。世界で一斉に捜査に踏み込むことで、これを機にシャルル・アベール商会を一斉摘発する心づもりのようですな。今は、その調整に追われているようで」

「……なるほどな。有名な多国籍企業に対する全世界の捜査機関による一斉摘発ともなれば、これ以上のスクープはないか」

「我々としては強制捜査実行と同時に、他社に先駆けて大々的にスクープを打つつもりでしてな。ただ、それだけにもう少し情報がほしい。そこで、榊原氏にその情報を探ってもらいたいのですよ。北町氏の捜査のためにあのマンションに出入りしている榊原氏なら、そっちの捜査のふりをしてこっそり情報を探る事も訳はないと思いましてな」

「随分気軽に言ってくれるな」

「とんでもない。榊原氏の腕を信用しての事ですよ」

 尾崎は大げさなリアクションで言ったが、目は笑っていない。

「で、どうしますか? 見返りに今榊原氏が調べている何かを調べるくらいの事は私もしますが」

「……なら、条件を出そう」

 榊原は一呼吸おいてそう告げると、持っていた例の台本を取り出して尾崎の前に置いた。

「これは?」

「私たちの調べている北町奈々子が高校時代に在籍していた演劇部の台本だ。主演は北町本人だが、この直後に北町は他校へ転校。その台本自体も絶対に公表しないようにわざわざ後輩に念を押し、現在に至っている。私は、この転校に何かあったと考えている」

「それを調べろと?」

「新聞記事に心当たりがない以上、警察沙汰にせずに極秘に処理された案件かもしれない。が、あんたならそれでも調べられるだろう?」

「もちろんです」

 尾崎はいともあっさりと即答した。それだけの実力があると自覚しているのは確からしい。

「だったら、それが条件だ。その条件を受けるというなら、あんたの要求を呑もう」

「なるほど、これは随分な条件ですな」

 が、そう言いながらも尾崎はどこか嬉しそうな表情をする。

「だが、このくらいでないと私としても面白くない。いいでしょう、その条件を受ける事にしましょう」

「時間はどれくらいかかる?」

「そうですな。明日にでもお会いしましょうか。時間はまたご連絡をします」

 何と、尾崎は一日で榊原の頼みを調べきると豪語したのである。瑞穂はもはや呆れるばかりだったが、榊原はといえばそれが当然と言わんばかりの表情をしている。

「わかった。言っておくが、その約束が守られない限り、私もあんたの頼みなかったものとして扱うぞ」

「結構です。私が約束を破るなどあり得ませんからな。では、早速忙しくなったので私はこれで。料金はマスターに私へのつけだと言えば結構ですから」

 そう言うと、何かを話しかける間もなく尾崎は店から風のように出ていった。後には苦々しい表情の榊原と呆気にとられた表情の瑞穂が残る。

「何なんですか、あの人?」

「まぁ、ああいうやつだ。刑事の間でも苦手にしている人間は多い。その隙に付け込んでスクープをかっさらっていくとんでもないやつではあるが」

「たちが悪いですねぇ」

「瑞穂ちゃんも同じ感想を持ったか。ただし、その調査力だけは折り紙付きだ。その点に関しては信用して構わない。もっとも、積極的に使いたいとも思わないが」

「同感です」

 店を出ると、すでに空は暗くなっていた。ちなみに、マスターに尾崎の言葉を伝えると、ちゃんとつけにしてくれた。その辺はちゃんと律儀な男だったらしい。

「さて、さすがに今日はこの辺で捜査は終わりだな。北町奈々子の台本の件は尾崎の調査待ちにするとして……明日はどうするか」

 と、その時榊原の携帯が鳴った。

「え、まさか尾崎さんがもう調べ終えたとかじゃないですよね」

「……そうじゃないと言い切れないのがあいつの怖いところではあるんだが」

 榊原が恐る恐る画面を見ると、そこには土田の文字があった。通話ボタンを押す。

「はい」

『どうも。無事に尾崎君とは出会えたようですね』

 のんびりした口調といい、どうやら土田本人のようだった。

「何の用だ? こっちはそろそろ今日の調査を終える算段なんだが」

『実は、例の石渡美津子の件で進展がありましたので、お知らせしておこうかと』

「あぁ、あの件ね」

 実のところ、すっかり保留状態の六一二号室の件である。

「しかしなぜ私に知らせる?」

『必ず榊原さんが興味を持つと、島原君が言うものでしてね。まぁ、一つ聞いてください』

 意味ありげに言われて、榊原も聞く気になったようだった。

『十二月四日、石渡美津子は有休前日で同窓生数名と居酒屋で飲んでいます。この話はしましたね』

「あぁ。それが?」

『気になったので、念のためにその時の居酒屋に行ったメンバーを調べてみたんですよ。いやぁ、居酒屋の店員に聞いたりして大変だったんですが、そしたら、興味深い名前が出てきました』

「興味深い名前?」

 どこか上の空で聞いていた榊原だったが、次の瞬間、その表情が一気に緊張したものに変わった。

『人数は石渡美津子を含めて全部で五人。全員が店の常連で居酒屋の店主も顔と名前を知っていたらしいんですけど、その中に声優の夕凪哀がいたそうです』

 榊原と瑞穂は思わず互いの顔を見合わせた。

「それは間違いないのか?」

『もちろんです。いやぁ、島原君から北町奈々子の一件を聞いていてよかったですよ。どうやら、石渡美津子と夕凪哀は大学時代のゼミの同窓生らしいですね』

 夕凪哀。言わずと知れたあの問題のアニメの主人公であるジャンヌ・スカーレット役の声優である。今まで主役という以外にこれといって特徴がなかった彼女が、突然調査上に出てきた瞬間だった。

 しかも、土田の話はそれだけで終わらなかった。

『しかもですよ。店主の話だと、石渡美津子と夕凪哀は他の三人がまだ飲み続けている中、一足先に一緒に帰って行ったというんです。他のメンバー三人はそのまま居酒屋で朝まで飲んでいたそうで、これは居酒屋の店員によって確認されています。これ、かなり臭いませんかね』

「……」

 それから数分ほど補足情報を聞き出すと、榊原は電話を切った。

「あの日、夕凪哀さんは石渡美津子さんと一緒に帰っていた……」

「確か、最初に話を聞いた際に、彼女は収録後に家に帰って寝たと言っていたはずだ。だが、実際は石渡美津子たち同窓生と一緒に居酒屋で飲んでいた」

「っていうか、北町さんは出演者をあのマンションの部屋に招いていたんですよね。つまり、夕凪哀さんもあのマンションに行った事がある。だったら、石渡美津子と夕凪哀さんがあのマンションで出会っていても、おかしくないって事じゃないですか?」

「こんなところでつながってくるとは……」

 どうやら、本腰を入れて六一二号室の謎に取り組む必要があるようである。

「明日何を調べるかが決まったようだな」

「じゃあ……」

「夕凪哀に話を聞きに行く。まずはそれからだ」

 夕闇に包まれた上野公園で、榊原ははっきりと宣言したのだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る