第5話再会

友永有紀子と会わなくなってから三十年近くが過ぎた。時代は平成が過ぎ令和となった。恥ずかしながら僕は四十をとうに過ぎているがいまだに独身であった。何人か女性とつきあえたりしたんだけど、結婚までにはいたらなかった。


その年の冬、僕は大阪は南港にあるインテックス大阪にきていた。友人で漫画家の岸野がそこで開催されるイベントにサークル参加するというのだ。久しぶりに彼に会うために僕はそのイベント会場に来ていた。いわゆるコミケのようなイベントだ。


寒い日であったが会場はそこに集まる人たちの熱気でかなりの暑さであった。じんわりと汗がにじむほどだった。僕はまず岸野のサークルに行き、彼の新作と既刊を何冊か購入した。

「ありがとう、吉野。これが終わったら飲みにいこうぜ」

岸野はプロの漫画家だが、気さくで人付き合いがいい。

「いいな、難波にでもいこうか」

僕は答える。

久しぶりに岸野と思い出話やアニメや漫画の話をしたい。プロの彼の話はめちゃくちゃ面白いのだ。話題にでてくる人の名前が豪華なんだよな。

「なあ吉野、むこうのゲームのコーナーで懐かしいのがいたぜ。ちょっとよってみたらどうだ」

岸野は言う。僕は彼に差し入れの冷たいペットボトルのお茶を渡す。彼はサンキューと答える。

「懐かしいのってなんだよ」

僕は言う。

「いってみればわかるさ」

ふふっと彼は意味深な笑みを浮かべる。


まあ時間もあるし、岸野が言うサークルをのぞいてみるか。

そこはアマチュアのゲームデザイナーがそれぞれ熱意と愛情をこめてつくりあげたゲームを売っていた。

中にはコスプレした女の子が売り子をしているサークルもあった。眼帯にセーラー服の少女は岸野の漫画に登場するキャラだ。そのキャラのコスプレをしている女性もいた。

ゲームとアニメが好きな僕はそれらを見ているだけでもテンションがあがって楽しい。

岸野が言っていたサークルによる前にノベルゲームを一つ買ってしまった。


さてその岸野が言っていたサークルである。そのサークルは昔懐かしいドット絵のキャラのアクションゲームを売っていた。

デモ画面を見るとアマチュアが作ったとは思えないほどキャラがよく動くゲームだった。

かわいい女の子がいろいろなステージを飛んだり走ったりして、実に楽しそうなゲームだ。せっかくだし一つ買おうかな。


僕はそのロムを一つとり、売り子の女の子にわたす。まだ高校生くらいだろうか、かなり若い。艶のある黒髪が印象的だ。

「これ一つもらえますか?」

僕は言う。

しかし、岸野がいう懐かしいってなんだったのか。ここはどう見ても普通のゲームサークルじゃないか。

なになに、サークル名はスノウフレンドか。

「あ、ありがとうございます」

その少女は僕からお金をうけとり、ゲームのロムを渡す。

「あっママ、遅いじゃないの」

ちらりとその少女はそのサークルのテーブルに近づく女性を見る。

「ごめんごめん有理子ゆりこ。トイレ混んでてね」

その黒髪の美人は言う。


その女性はその少女にとてもよく似ていた。黒く長い髪が魅力的だ。それに長い手足が印象的だ。きれいに切り揃えられた前髪にアーモンドを思わせる瞳。

美人だなとぼんやりと思っていたけどその女性は僕の顔を見て大きな瞳をさらに大きくする。そして僕も思い出した。

「もしかして吉野君?」

「と、友永なのか?」

僕たちはほぼ同時に言った。


あの友永有紀子がゲームを自作し、インテックス大阪のイベントにサークル参加していたなんて。

僕たちは約三十年ふりに本当に偶然に再会した。

僕たちはそこでラインとツイッターのIDを交換した。

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