👼👼👼👼👼👼

夫と子供が亡くなり、一ヶ月経った。


直後、葬儀やら何やらで忙しくしていたためか、何も感じずにいられた気がする。


全てが終わってから、悲しみや深い喪失感を感じるようになった。


何の目的も希望も無いが、悲しみや喪失感を忘れるため仕事に打ち込むようになり、気付けばワーカホリック状態だった。


周囲は事情を知っているため、察しているのか特に何も言わない。


ある日、珈琲を飲んで一息ついていると、さゆりに声をかけられた。


「ごめんなさい、あの…」


さゆりは、自分の差し出したお札に効き目が無かった事を詫びてきた。

その謝り方がとても真摯で真心感じるものだったので、謝られている真美の方が逆に申し訳ない気持ちになったくらいだ。

それに、お札のせいではなく真美の過失なのである。

真美は正直にそう告げた。さゆりの、お札のせいではないのだと。


それでもさゆりは悲痛な顔を変えず、こう言った。

「そう…でも、やっぱり私のせいだわ。別のお札を渡しておくべきだった。」


「別のお札…?」


「ええ。真美さんに渡したお札は、悪い霊的存在から自分や家族を守るものだけれど、悪しき霊的存在そのものを破滅させ消滅させるものを渡すべきだった…」


「どうして…どうしてそれをくれなかったの?!」


思わず激昂した真美に、さゆりは申し訳なさそうに言った。


「とても高価なものなの…だから、私の経済力ではとても…」


「私が出すわ。」


真美はきっぱりと言った。

夫と子供の命を奪ったあいつへ復讐するためなら、どれだけ高額であろうと構わない。


「…良いの?」


さゆりの三白眼気味の目が一瞬光った気がしたが、その後すぐ心配そうな顔に変わった。

しかし今の真美には、そんなさゆりのこれまで見せたことの無い、それも一瞬の表情を気にする余裕は無い。



「お願い、お金に糸目はつけない…そのお札を買わせて!」


真美は縋るように頼んだ。




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