第10話 お誘い

 「くそぅ、二試合とも初動死は聞いてないってぇー!」

 

 水無瀬さんの荒々しい声がサーバー内に響く。

 2試合目、3試合目と初動から敵に被せられてしまい二回とも20位という結果で終わってしまった。

 まあランドマーク争いは多々あることだし、初動で武器が取れなくて死ぬなんてことはザラにある。

 これで負けてしまうのは仕方のないことだ。

 

 俺はミュートを解除し、三人を慰めに行く。

 

 「お疲れ様です。正直、初動ファイトはどの武器が取れるかによって変わってきますし、敵の物資状況次第では負けてしまうのも仕方のない場面も多々あります。まだまだ期間はありますし、ランドマークも譲らずに明日も勝負をしかけていきましょう」

 「そうですけど……悔しいです……」


 水無瀬さんの配信を見ると、ちょうど負けてしまった初動ファイトが映し出されている。

 水無瀬さんの持っている武器はQ3030という単発式のマークスマンライフル。

 中盤でのファイトや漁夫などでは頻繁に使われ、ダメージも一発52ダメージと高い。しかしMRなので単発打ちしかできないため、初動ファイトでは不利になる武器。

 それでも正確撃ち合て、敵を一人ダウンまで持って行くがその後に来たカバーの敵にやられてしまい、後の二人は補欠として入ってる4KAGIに倒された。

 

 彼はコーチ枠として入ってるため縛りとして、最弱武器であるピストルのカテゴリー武器しか使えないのだが、運が良かったのかピストルの中で一番強く4KAGIの得意武器のサンセットという武器を拾っており、それで二人を倒していた。


 あいつ、やってくれたな。


 「風葉さんとnullさんも、サンセットを持った4KAGI相手なら仕方ないです。あいつ、ランクマでも良く握ってますから」

 「うへぇ、そうなんだ」

 「通りで全弾当てて来たわけだ……」


 二人は納得したそうな声を上げた。

 4KAGIはよくネタに走る事がある。

 それこそ最弱武器二丁でソロマスター目指したりとか俺とG4Siinとランクマを回している時もよくサンセットを握って1パーティ壊滅させたりしている。

 このサンセットという武器、当たれば強いのだが単発武器だし、ピストルだからスコープは2倍までしかつけれないし、一発撃った後の反動はデカいしで何も良い所が無いのだ。

 それに、ダメージも47ダメ―ジと他のMRなどと比べれば劣っていて遠距離を狙うのはとても難しい。

 ヘッドに当たれば95ダメージが出るものの、近距離戦では頭を狙う余裕もないしSMGなどで正確に胴体に当てた方が強い。


 だから、この武器を愛銃だのなんだの言う奴は4KAGIぐらいなのだ。


 「とりあえず今日の課題と言いますか、改善すべき点としては初動ファイトについてですかね。後降りなど仕方のない部分もありますが、降りてる時点で敵のパーティ数が分かるのならば有利なポジションに降りてそのまま一枚ダウンさせて人数有利を獲得したり、武器の湧き場所などをおさえておくのも大事です。明日はそこら辺を意識してやってみましょうか」

 「Adaさんは分かりやすくまとめてくれるから、ほんと良いね~」

 「Adaさんって、ほんとにコーチング初めてですか……!?」

 

 風葉さんとnullさんが賞賛の声を上げる。

 俺は二人の言葉を聞き、高揚感に包まれていたがなぜか水無瀬さんはなにも言わずにミュートにしている。

 一瞬トイレにでも言っているのかなと思いつつも配信を見てみると、そこには俺の話を真剣に聞く5分前の彼女の姿が映し出されていた。

 何か作業をしているわけでもなく、ただ一点を見つめ俺の言葉に対して相槌を打つ彼女。

 しかし、配信を見て行くと視聴者に対して「今ミュート中なんだけどさ、Adaさんってこの後予定あるかな?」と少し震え気味の声で視聴者に呼びかけていた。

 

 一瞬何か俺にがあるのかと思ったが、ただ単に大会について話したいだけかもしれない。

 俺はあまり気にせずに話を続け、時刻は9時を回った。

 カスタムの本配信も終わりを迎え、次第に配信を終わる人が増え始めた。

 風葉さんとnullさんも自分の配信を切ったようで、二人はこの後も予定があるらしくサーバーから抜けて行った。

 他のサーバーも大体の人が落ちていて、残っているとしてもコーチとメンバー二人などバラバラだった。

 

 俺と水無瀬さん、二人だけが残ったサーバー。

 なんだろう、抜けても良いのだけど水無瀬さんはさっき俺の予定を気にしていた。

 何かあるのだろうかと謎に期待してしまっている自分もいるし。


 「あ、あのAdaさん!」


 急に水無瀬さんの声がした。

 その声は誰かに告白する時の様に、少しつまった感じのする声だった。

 謎な緊張感、変な空気のせいで鼓動が急激に激しくなるのが分かる。

  

 「は、はい」

 「この後ってその、お時間ありますか……?」

 

 「ぜ、全然大丈夫ですけど」

 「じゃあ、その、ちょっとお話しませんか?」


 俺は彼女の誘いに震えた声で返事をした。

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