第65話 季節限定アンサー(12)

 ミキミ・ピブック(17歳、紫色のショートカット、ボーイッシュ系アイドル)にも、色々あった。

 まあまあ売れたが、先が短そうな新人声優ユニットに所属していると、色々と考えた。

 胸部装甲が急成長を始め、巨乳系アイドルとしても注目度が上がり始めると、更に色々と考えた。

 サラサとの契約をどう更新しようかと考える回数が増えた頃に、色々な勧誘がサンダーサボテンズに迫り始めた。

 自分の急成長する胸部装甲の所為かと思ったが、単に悪党どもが「知名度の割に、ガードの薄そうな芸能人グループ」に欲望の眼を向けただけだった。

「組織に収入源に」

「お頭のハーレムに」

「骨までしゃぶろう」

「アイドルに余す所なしですぞ」

「信者獲得の、広告塔に最適なのじゃあ〜」

「俺専用の、ご奉仕メイドさんにしたいです!」

 と、

 オーナーであるサラサが「国家公認忍者」であるというリスクを差し引いても、サンダーサボテンズを入手して飼おうとする悪党どもが寄って来た。

 エリカリエとトモトは、サラサにトラブル解決を任せた。

 ミキミは、サラサを待たずに、独断で避難した。

 海を見ながら逃避行をしようと、電車網で各地をランダムに転々として追手を引き離すうちに、チーバーの南部に来てしまった。

 来てから分かったが、追手を引き離したのではなく、追手を放つ勧誘者の中で、最も悪質な者が本拠地にしている地方だった。

 逃げるつもりが、まんまと罠に嵌っていた。

 ダメ元でサンダーサボテンズのファンに救援を求めたら、意外と多くのファンが集まった。

 地元青年団の武装漁船艦隊に護られ、敵方も傘下の武装漁船や海賊船を掻き集めて、一大海戦が幕を開けるのかと思いきや。

 もうすぐ梅雨だから、他の事で勝負を決めようという方向で、手打ちになった。

 手打ち式は動画で配信され、競技の内容も公表された。

 そこで手打ちにする流れが、最初から仕組まれていたかのような、成り行きだった。




【ダックリバー海園ホテル ラウンジ】


 という事が昨晩行われた事実を知らずに、サラサが観光旅行の一団をバスで引き連れながら、助けに来たとか言い出した。

 見事なまでの、すれ違いだった。

 救出対象が、宿泊先のラウンジで、逆にミキミがサラサ達を待ち受けていた。

 目的は達成され、新しい次の厄介事が待ち受けていた。

「サラサは、ミキミが既に奴隷用の檻に入れられて、露出度満点の状態で待機しているとばかり。失望したぞい。オーナーを無視して、勝手に話を進めるとは、配慮が足りぬぞ」

「三日も既読スルーしているくせに、オーナーを気取るな!」

 サラサはミキミに面と向かって罵倒され、背後からユーシアの『話が違うじゃねえか、ポンコツ忍者』という視線に射抜かれ、なんとか誤魔化して動画配信のネタにしようと修正を図る。

「で、慣れないダンジョン踏破に命を賭けるか? サンダーサボテンズとして参加するなら、バッチリと動画配信してあげよう」

「参加しないと、一生モノの厄介が降りかかるでしょ、参加するしかないでしょ、他に選択肢、有る?!?!」

 ミキミはキレ気味に、参加チームの希望賞品を指差す。

 『ダンジョン踏破王 マジ・コマチ杯』公式ホームページには、既に参加を表明したチームと、優勝した場合に希望する賞品が書かれている。



ダックリバー警備団

 サンダーサボテンズの保護

 サンダーサボテンズへの勧誘・誘拐・迷惑行為に対し、ダックリバー警備団が保護措置を保障する。


タテヤマ青年団

 サンダーサボテンズのメンバー推薦枠

 推薦された者は、以後三年間のメンバー活動を保証される。


エイティ島選抜隊

 サンダーサボテンズと三回デート出来る権利

 デートは最低でも六時間保証。

 トイレで中断された時間は、ロスタイムとして計上される。


エイティ島特戦隊

 サンダーサボテンズと、お見合いする権利

 高級ホテルを一週間借り切り、互いの一族総出で、お見合いを見守ります。


エイティ島海賊隊

 サンダーサボテンズと、無人島で二週間暮らす権利

 男らしさをアピールす為、無人島でサンダーサボテンズを念入りに、お世話しまくります。


エイティ島むふふ隊

 サンダーサボテンズの使用済み下着を、三年間独占使用権

 


 サンダーサボテンズは、娯楽都市アキュハヴァーラでは微妙な認知度の新人声優ユニットだが、地方では「清純派お嬢様美少女・ロリかわ系美少女・ボーイッシュ型巨乳美少女が揃った、将来有望なアイドルユニット」として、偏った人気を獲得していた。


 各参加チームのデータを何度も再読した上で、ユーシアが口を出す。

「タテヤマ青年団に勝たせるように仕向けるのが、現実的かな。リーダーが、サンダーサボテンズに向いているビジュアルだし」

 ユーシアは、バトル競技なのに水着グラビアをプロフィールに掲載するレイ・ペガス(十七歳、銀色の長髪&黒い瞳、悪役令嬢路線の魔法騎士)のメンヘラぶりに感銘を受けながら、妥協策を見出す。

 サンダーサボテンズの三人は、味のある顔でユーシアの口出しに、応える。

エリカリエ「その人、旧メンバーなの」

トモト「悪役令嬢路線を貫く事で、事務所と揉めて揉めて」

ミキミ「意趣返しに、トンデモナイ御人を、新メンバーに捩じ込む気なの」


 誰を?

 とユーシアが問う前に。


 『ダンジョン踏破王 マジ・コマチ杯』の主催者にして、ここチーバー南部の権力者が、側近を引き連れて姿を見せた。

 ダックリバー海園ホテルの正面玄関前の車寄せに、黒塗りの装甲車を前後三台ずつ守らせながら、ピッカピカのリムジンがアポなしで到着する。

 黒塗りの装甲車から、武鎧で武装した九人の騎士と、重武装の魔法使いが三人出て来て安全圏を確保すると、リムジンから豪奢な魔法ドレスで身を固めた中年美女が、嬉しそうな笑顔でホテルにステップしてくる。

 正確には、ホテルのラウンジにいるラフィーの方向へと、まっしぐら。

 直線上にあった玄関やラウンジの敷居や柱、壁を有り余った魔力で消滅させながら、ラフィーの方へと近付いてくる。

 お供の騎士や魔法使いは、この主人が人に害を及ぼさぬように、人払いを先んじて行っている。

 ギレアンヌは、災難を恐れて速攻で壁の中に身を隠して逃げた。

「逃げなくていいのよ」

 ラフィーが苦笑して、一同を安心させようとする。

「友達ですから」

 ラフィーの友達と聞いても、安心出来ないレベルの圧迫感に、一同は包まれている。


 コノ国最高位の魔法使い『十二大魔導師』の一人

 チーバー地方永代魔導大隊指揮官

 地元では『ソガ姐』で呼称され

 敵対するエイティ島付近の海賊からは『笑う魔女王』と迷惑がられる。

 ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチ(外見年齢五十歳、灰色のツインテール&漆黒の瞳、強力な魔女)が、挨拶出来る距離に入る。

 

「ラフィー、我が領地(嘘)に来てくれるなんて、縁起が良い事」

 邪魔なら生物・非生物を問わずに魔力で消滅させようとするが、好意を向けている相手には慈悲深くて親身になる中年魔女は、ラフィーを寿いで挨拶する。

「娘と一緒に、観光旅行よ。シーズンオフなら、空いていて快適かと思って」

 ユーシアは、全てをラフィーに任せて、リップと一緒に物陰に隠れようとしたが、リップに足を踏まれて留まった。

 ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチは、視界に入ったリップに対し、好意的な笑顔で接近する。

「あらあら〜、ラフィーそっくり。この子も将来、大物の心を射止めそうね。この美姫生産機〜」

 ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチがラフィーを冷やかし、リップの隣のメイド服姿の美少年に意識を向ける。

 ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチに視線を向けられて、ユーシアの瞳がちりちりと燃えてしまう。

 ユーシアは全力で、この難物に『反応しない』事を選ぶ。

 ゴールドスクリーマーに変身しても、勝てる保証が見出せないと、ユーシアの戦闘勘が告げている。

(絶対に、戦ってはいけない)

 葛藤してそう判断する輩には飽きているので、ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチは気にしない。

「アイオライトの忍び? ふむ、御令嬢の護衛か?」

 緊張するユーシアに代わり、ラフィーが応える。

「娘の恋人よ」

「ほう〜?」

 ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチが、リップとユーシアを並べて、視界の中で意識する。

 お節介にも、友人の娘の恋愛運勢を、占いで観ようとする。

 ユーシアは全身全霊を観られて探られている感触に耐え、リップは平然を保つ。

「う〜〜〜〜〜〜〜む」

 ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチは、二人を見分して、判断に悩む。

「うう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜むむ」

 人差し指を一本立てると、ユーシアの頸に隠れていたエリアス・アークを、引き寄せる。

「シーラ・イリアス、聞いているね? この二人に、我は関与しない。それで良いな?」

 エリアス・アークの口から、シーラ・イリアスの声が伝達される。

『恩を売れば、返してくれる子達よ』

「極力、関わりたくないのじゃ。この小僧を始末しようとすると、何故か我が死ぬ未来しか見えぬ」

 ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチが、ユーシアから一歩下がる。

 自分から下がる主人を見て、側近達が驚愕する。

 ユーシアの方は、ゴールドスクリーマーの戦力査定までされたのだと悟り、身動きが取れなくなる。

 ユーシアに、同化しているクロウが直接コメントしてくる。

『怖かろうよ。100%のパワー出力でないと、倒せない相手に出会すのは。だが、慣れろ』

 廃棄聖剣たちの束は、ユーシアに本当の事を教えてやる。

『世界には、このレベルの強敵が、稀に存在する』

 本当の事を言われても、ユーシアは慰められない。

 ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチのような存在と戦う可能性は、恐ろしくて仕方がないし、ゴールドスクリーマーの力を100%使う事も、怖い。

 怖いが、覚悟は決め始めた。

 ユーシアは伏せていた顔を上げ、ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチと目を合わせる。

「お初にお目に掛かります、コマチ様。

 ユーシア・アイオライトです。

 サンダーサボテンズを助ける仕事を、担いました。

 『ダンジョン踏破王 マジ・コマチ杯』に、七番目のチームとしての参加を、お願いします」

 ユーシアの直視に、ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチは片眉を少し顰めただけで済ませた。

「…お主らを参加させる条件は、一つ。

 一つ、我と約束せよ。

 サンダーサボテンズを同行させなさい。彼女達が全員退場した場合は、チームも敗退とする」

 ユーシアは、返答に詰まって固まった。

 ダンジョン踏破競技は、一チーム十人で運営の出してくるモンスターと連戦する事になる。

 十人のうち三人が非戦闘員では、ハンデが大きい。

 しかも、彼女達は、途中で負傷退場する可能性が大きい。

 彼女達だけでチームを作らせて、早々に敗退させて離脱させる小細工が、最初から封じられた。

 返答できないユーシアに、ソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチは、笑って説明する。

「これは、お主達自身への、保険じゃ。この競技は、プレイヤー殺しも起こり得る。サンダーサボテンズが入っていれば、それを防げようぞ」

 リップがチームに同行する事を視野に入れた上での、親切だった。

「…ご配慮、ありがとうございます」

「勿論、サンダーサボテンズは、最優先で守り切りなさい。何せ、近い将来」

 マジ・コマチの周辺が、昂る感情に合わせてカーニバルな空間になっってしまう。

「このソガリアン・ドーラドーラ・エル・アンパン・マジ・コマチの率いる、アイドルユニットですからね」

 ソガ姐は、絶好調な高笑いをしながら、話を進めきった。

 ユーシアの脳裏から、タテヤマ青年団に勝たせるように仕向けようという算段も、消えた。

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