第22話 girlfriend and ex-girlfriend talk
※この話は真依の一人称になっています。
「佳澄さん、もう少し寝ます?」
葵を佳澄さんと見送った後、十分睡眠が取れたとも言えないので、私は佳澄さんにそう勧めた。
私は葵がいないベッドに戻っても淋しくなりそうなので、このまま溜まっている洗濯をするつもりだった。
「どうしようかな。もう体がこの時間に起きるんだって覚えちゃってるんだよね」
「毎日繰り返していたらそうなりますよね」
一人暮らしを始める前は、自分で起きるなんて絶対無理だと思っていたのに、いざ起こしてくれる人がいなくなると体が時間を覚えた。
葵は時々寝坊をするので、葵が転職してからは葵の出勤時間に合わせて起きるようにもなってしまった。
無理に寝てもらう必要もないか、とコーヒーでも淹れますと佳澄さんをリビングのテーブルセットに勧めた。
コーヒーとトーストっていうシンプルすぎる朝ご飯を2人分用意して、テーブルまで運ぶ。
「真依さんって、いつも葵にこうやって朝ご飯用意してるの?」
マグカップに入れたコーヒーを一口飲んでから、向かいの佳澄さんから質問が飛んでくる。
表情は平静に戻っているようだし、ただの興味だと受け取ることにする。
「平日は朝は別々ですね。時間がある時は2人で食べますけど、それぞれ出るタイミングも違うので基本はそれぞれでやってます」
「そうなんだ。なんか2人を見ているとほんとに自然で、お互いに心を許しあってるんだなって感じがした」
「嫌悪感はないんですか?」
「女性同士だから?」
佳澄さんの問いに私は頷きだけを返す。
佳澄さんは高校時代に葵と付き合っていたとはいえ、今それを許容できるかどうかは聞いてみないと分からない。
「よくある他人事だったら、許容できるってやつかもね。それに葵の隣に男性がいるよりは安心したかな」
「男性は駄目なんですか?」
葵は過去に男性と付き合ったことがあると聞いているから、男性を相手に選べない人じゃない。佳澄さんがそう言う理由に想像がつかなかった。
「葵は男性にももてるだろうけど、何か男性に葵が受け止めきれるとは思えないんだよね。やりたいことやっちゃうし。それに多分葵は、無意識のうちに男性のプライドを傷つけちゃうタイプじゃない?」
「確かにそうですね」
佳澄さんの言葉は納得できて、反論も出なかった。
「夫婦生活に行き詰まった先で、葵と真依さんに出会って、わたしもこんな関係を築くはずだったのに、どこで間違えたのかなって思っちゃった」
「佳澄さん……」
「ごめんね。見ず知らずのっていうか葵の元カノのわたしのことなんかに巻き込んじゃって」
「それは気にしないでください。有休は余っていて使い切れないくらいですし、今日は葵を残すよりはいいかなって思っただけです」
葵のことは信頼しようと思っているけど、いざ佳澄さんに会ってみて、この美人に葵が揺れないか私は心配になってしまった。
「見かけ倒しなのに、ちゃっかり自分のことを一番に考えてくれるパートナーを捕まえて、葵は幸せ者だね」
葵との関係は親兄弟を除けば誰も知らない。第三者から揶揄されても仕方がないとは思っていたけど、こうして好意的な言葉を投げられるとやっぱり嬉しい。
「何しでかすかわからないから、放っておけないだけですよ」
「昔っからそういうの変わらないな、葵は。懐かしいなってだけだからね。わたしは今は葵のことを何とも思ってないから」
佳澄さんの葵に対しての今の気持ちを聞くのは2度目だった。それでも、どういう心持ちなのかはもう少し探ってみたくて質問を出す。
「今は男性が恋愛対象だから、ですか?」
「一応そうなるのかな。わたしは学生時代に一時期確かに葵と付き合っていたけど、葵とのことを周囲に否定されて、そこまで悩まずに引き下がれたんだよね。
わたしは葵が好きだけど、この気持ちは本当は恋人としての好きじゃなくて、友人としての好きだったんじゃないかって、後々気づいたんだ」
佳澄さんの言葉に私はちょっとだけ安心してしまう。
恋なのか友情なのかって、相手が異性だったら恋で同性だったら友情って分けてしまうけど、相手が同性でも恋することはあり得る。その境目って自分で引かないといけないから、やっぱり違ったもありえてもいいのかもしれない。
「つきあったのって葵からの告白だったんですか?」
「そう。あの頃の葵、すごく格好良かったって知ってる? そんな相手に好きって言われて、ノーなんて返せないでしょう?」
「そんなに格好良かったんですか?」
「実家になら、あの頃の写真残ってるかもしれないのにな。今度帰った時に見つけたら写メして送ろうか?」
「いいんですか?」
お言葉に甘えて私は佳澄さんと連絡先の交換をする。
だって、ショートヘアの葵なんて絶対格好いいに決まってる。
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