第2話 初めての一人暮らし


 引越しを手伝ってくれたみんなにお礼を言って別れ、俺は新しい城を手に入れた。


 荷物はそんなに多くはないから、今日中にダンボールの山を片付けよう。


 高校の時から清掃会社で働いているから、掃除や片付けはキライじゃない。


 むしろ得意だし、好きな方だ。


 後は、料理さえ出来れば、一人前の家政夫になれるのに。


 ……料理がまるで出来なかった。


 何度か挑戦したが、失敗ばかり。

 食材が勿体ないのと、二つ下の妹の料理が美味すぎて、任せっきりにしていたのもあるが、どうしても上手く作れなかった。


 妹は「私がずっと作ってあげるから、お兄は掃除だけすればいいんだよ」って。


 その時は、一人暮らしの予定もなかったので、そのつもりだったんだけど……。


 今回の引越しは妹が大反対して、引越し当日も「私もお兄と一緒に住むっ!」と泣きながら言って母さんを困らせていた。


 「休みの日は、ご飯作りに行くからねっ」


 目を潤ませながら、最後にそう言った。



 ……そういや、この部屋1Kの割にキッチンがやたら広いな。


料理の出来ない俺には、勿体ないグリル付き三口コンロ、レンジフードもちゃんとしてるし。


 妹が見たら、目をキラキラさせそうだ。



 ーー



 部屋の荷物も片付いて、ベッド、ソファーの位置も決まり、これでひとまずくつろげるかな?


 気がついたらもう、九時前だった。


 その時


 ピンポーン



 誰だ? こんな時間に……。

 インターホンのモニターを見ると、


「私っ、隣の白河っ! ちょっと開けてっ」


 ……。


 もしかして、片付けの音がうるさくて怒鳴り込んで来た?

 

 ……これは、ご近所トラブルかっ?


 「はいっ、今開けますっ!」

 先手必勝だっ!


 「ゴメンなさいっ、うるさかったですよねっ? もう片付きましたので、これからは静かにしますっ!」


 腰を九十度に折り曲げて謝罪した。



 「えーっ、何ソレ? 全然うるさくなかったよ。……あーっ、もしかして私の事、『クレーム女』って思ってるんでしょー?」


 「……いいえっ、そんな事ないですっ!」


 彼女は、ちょっと拗ねた顔をして、


 「違うの、……ただね、今日悪かったなぁーって、せっかく隣同士で知り合ったのに険悪な感じだとヤダなーって」


 頭をポリポリと掻きながら、


 「……だから、片付けとか忙しくて、ご飯どうしてるかなーって思って私、料理得意だから、コレ作ってきたの」


 彼女はそう言ってエコバッグからビニール袋を取り出し、俺に差し出した。


 袋を開くと、おにぎりとおかずの入ったタッパーが入っていた。


 「えっ、こんなに……いいんですか? そんなっ、初対面なのに悪いですよ」


 

 「……もしかして他人が握ったおにぎり、食べられないヒト?」


 「違いますっ、ただ、申し訳ないなって」


 「なぁーんだ、気にしないでっ、おかず多く作り過ぎただけだからっ! じゃーねっ、おやすみっ!」


 嵐の様に部屋に帰って行った。



 ……いい人。だよね?

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