お買い物

 憧れの浩ちゃんと買い物に行く、言ってみればデートなわけで気分は盛り上がってもいいはずだが、むしろ行きたくないとすら思ってしまう。

 さすがにスカートで外出する勇気はまだなく、かといって男の格好のまま女の子の服を買いに行くのにも抵抗があり、悩んだ末デニムにパーカーとユニセックスな感じにした。


 約束の10時通りの浩ちゃんが迎えにきた。

「スカートじゃないんだ。」

 裕太の服装を一目見て、浩ちゃんが残念そうな表情を浮かべている。

「どっちみち、あと2週間したら高校入学してスカートで学校行くことになるんだから、早めに慣れておいた方がいいんじゃない?」

「男子がスカートって2年生からでしょ。1年のうちは、スラックスにしようと思ってたけど。」

「2年はスカート指定だけど、1年生のうちからスカートにしても問題はないよ。裕ちゃん、女の子になりたかったんでしょ。遠慮することはないよ。」

「ごめん、まだ心の準備が・・・」

「仕方ないね。まぁ、それはそれで面白いか。」

 浩ちゃんは独り言のように言った。なにが面白いのかわからないが、ひとまずスカートで買い物に行かなくてよくなったことに、胸をなでおろした。


 ショッピングモールにつくと、浩ちゃんは迷うことなくモール内を進んでいく。

「浩ちゃん、どこに行くの?」

「あそこだよ。」

 浩ちゃんの指差す方向には下着売り場があった。

「下着って、俺の?」

「裕ちゃん、女の子になるんだから、『私』っていいなよ。裕ちゃん、持ってないでしょ。」

「そうだけど、別に胸はないのに必要なの?」

「内面の問題よ。女の子は作られるんだから、見られないところでも気を抜かない。」

 浩ちゃんはたしなめる様に言って、再び歩き始めた。


 下着売り場に入っていく浩ちゃんの後ろを追った。女性の下着売り場に入り周りの色とりどりな下着に囲まれると、気持ちが落ち着かない。

「だから、スカート履いてくればよかったでしょ。」

 恥ずかしがっている裕太の姿を見て、浩ちゃんはいたずらっぽく言って微笑んだ。

 たしかに、スカート履いて女の子になっていれば、下着売り場でも堂々とできたはずと思ったが、もう後の祭りだ。

「すみません、この子のブラのサイズ計ってもらっていいですか?」

 お店のスタッフがメジャーをもって、裕太に近づいてくる。どうせバレるならと、自分から男であることを伝えた。

「大丈夫ですよ。この時期、白石高校の学生さん多いですから。」

 お店のスタッフの方は、とくに驚いた様子もなく淡々とサイズを測定してくれた。サイズもわかったところで、下着選びに入った。

 中学の頃は女子の下着を見たいと思ったいたけど、自分が身に着けるための下着と思うと性的な興奮はなく、むしろみじめな思いすらある。


 落ち込んでばかりはいられないので、下着を選び始める。色とりどりで、何色にするか迷ってしまうが、無難そうな白の下着を手に取った。

「裕ちゃん、知らないと思うけど、白って意外と透けるんだよ。」

「じゃ、何色がいいの?」

「ベージュが無難だけど、やっぱりかわいいのがいいよね。ピンクでもこのくすんだピンクだと透けにくいからおすすめだよ。でも、しばらくはブレザーも着るから、あまり透けるのは気にしなくていいから好きなの選んでもいいかもよ。」

 結局、ピンクと水色とベージュの3色を購入した。


 お昼ご飯をモール内のフードコートで済ませた後、浩ちゃんは「次に行こう。」といって、モールからでて駅の方へと歩いて行った。

「次はどこに行くの?」

「美容室。2時から予約しておいたから、女の子らしくなるようにカットしてもらおう。伸ばすにしても毛先整えてもらってた方がいいよ。」

 年が明けて以来、散髪に行く余裕がないぐらい受験勉強に忙しかったのと、白石高校に入ったら髪を伸ばさないといけなくなるので、3か月で結構伸びていた。


 駅前のビルの2階にある美容室に入り、予約の名前を伝えると席へと案内された。

「今日はどうされますか?」

「白石高校に入るので、女の子に見えるようにお願いします。」

 裕太は自分の意志で女の子になりたいと思われたくないので、高校の決まりということにしておいた。

「わかりました。慣れてますので、任せてください。」

 美容師さんはカットしながら、毎年この時期になると白石高校の男子生徒がやってきていることを話してくれた。

 慣れているというだけのことはあって、迷いなくカットをつづけ少しずつ裕太の髪が女の子っぽくなってきた。


 カットが終わり鏡で見てみると、ショートカットの女の子がいた。

「裕ちゃん、かわいい。」

 カットが終わった裕太をみて、浩ちゃんが褒めてくれた。面長だった顔がカットで丸い感じの印象に変わり、女の子らしく見える。

 女の子に見えるようになって嬉しくなる半面、カットしてしまった以上もう後戻りができないことに気づき、裕太は少し複雑な気持ちになった。

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