第9話

 久しぶりの家族四人での食卓は和やかだった。家に戻ってくる数日前にも外で会食したから特別豪華な夕食にはしなかった。互いの世帯のこれまでの食卓と同じだ。


「智樹、どれがお姉ちゃんの作ったものかわかる?」


「オムレツでしょ」


「正解」


「昔から好きだったもんな。母ちゃんもたまに作るけど、チーズを中に入れないし」


 しかもケチャップでハートマークが自分の分に描かれている。父よ母の分には波線状にかけられてる。


(姉ちゃんの作る母の味ってことか)


 自分のことを子どものように思っているのかもしれない。


(今度、萌え萌えキュンってやってもらおう)


 小遣いを叩いてメイドコスプレの衣装を買ってこようと思った。姉にはとても似合うだろう。胸元の少し開いた、ミニスカートとセットで白いハイソックスも履いてもらうんだ。


『こんなの、 家族に見せるような衣装じゃないでしょう!』


 姉が少し恥ずかしがって、最初は抵抗するだろうけれども、根気強くお願いすれば、きっと折れてくれるだろう。


 そのためには、両親が留守になる日を探さなくてはいけない。


「どうしたんだニヤニヤして」


「えー、何が?」


 父親が尋ねてきたくらいだから、智樹は気持ち悪い笑い方をしていたのかもしれない。


 まるで家庭内メイド喫茶である。そんなことしている姉弟がどれだけいるのだろうか? 恋人同士ならあり得るだろうか?


 後で検索してみたが、 結果はコスプレ通販の案内がほとんどだった。そういったコスチュームを購入している人は多いようだ。 最近は、ハロウィンやクリスマスなど往来でコスプレをして練り歩くような機会も増えた。


 また、男が彼女に着てほしい コスチュームベスト10なんて 記事もあったから、 2人だけの空間でコスプレを楽しんでいるカップルは多いらしい。上位の衣装は、まずセーラー服。中学校を卒業して高校生になったばかりの智樹にはぴんとこないが、大人のコスチュームプレイでは定番と言うことか。 ちなみに、中学校時代の智樹は詰襟の学生服、智佐は セーラー服ともブレザーとも違うプレーというか、飾り気の無い制服を着用していた。 丸首の上着に襟は無く、ブラウスの襟を見せるというタイプだ。有名私立中学でもないのに、わざわざオリジナルの制服をデザインするものなのだなぁと思ったことを覚えている。 後から知ったが、 オリジナルデザインと称される制服にもその元となるデザインが いくつかパターンがあって、その基本デザインの選択してアレンジを加えているだけに過ぎないようだ。


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