最強設定の大剣少女Vtuber、異世界で信者の山を積み上げて頂点に立つ

第1話 BAN

　某カーレースゲームにて、コントローラーを握り締め画面に向かって喉が焼き切れんばかりに全力で絶叫する。

「どらぁあああああ！！！　いちいっ、イチイッ、一位ぃじゃぁああ！！！　っしゃぁああああ！！！！！！！」

　絶叫を売りにしているVtuberである私は、心中たいして荒れ狂っていないけれど高校の応援団ばりに喉から爆弾をぶっ放す。

　防音室なのでどれだけ叫んでも問題なし。

　みんな喜んでくれるからね。

　ほら今だって────

　：どらぁあああああ！！！　きたぁああああああ！！！！！！

　：赤スパほらほらほら

　：鼓膜破れたので諭吉あげます

　：ライザたんかわわわわ！

　コメ欄盛り上がってるし。

　みんなには本当感謝しかないよ。

　リップサービスで言ってる子も中にはいると思うけど、これはガチ。

　しがない２１歳OLだった田中絵梨奈が、登録者２０万人の破壊神ライザ・チャンとして活動を続けてられるのも支えがあってこそ。

　スパチャと広告収益しか見てねえじゃんってアンチは言うけれど……やっぱり目に見える応援はモチベぶち上げてくれるから欠かせないよ！　もっとガンガン投げてほしいって思うのは強欲かな。

「んじゃ、今日の配信はここまで！　明日は大型コラボあるから、できれば私のとこから見てくれると嬉しいなぁ……！」

　そろそろてっぺん越えしそうだし終わることにする。

　明日は同期の身代カネリちゃんとのコラボだし、気合い入れなきゃ。

　と言ってもメイクとかする必要はないんだけどね。

「はぁ〜、今日も御神体かわいすぎぃ〜」

　我が分身──というか、もはや本体まである『ライザ・チャン』はくっっっそ可愛い！

　雪のような白い髪に強い意志を感じさせる赤と青のクリっクリなオッドアイ。

　めちゃくちゃスタイルよくてぇ、白くて柔らかそうな肌はまるでマシュマロみたいっ。

　設定なんてマジつよつよで、配信中一度も抜かれてないクソでか大剣で世界を終わらせちゃう。

　強くて可愛くて綺麗でマジかっこいい私の理想像。

「明日もがんばろ♪」

　抜け殻みたいに過ごしてきた私が今生きてられるのはライザとしての活動あってこそ。

　いずれはトップVtuberもぶち抜いて、ライザという最強Vtuberを世界中に知らしめてやる！

「ふわぁ……いったんシャワー浴びてこよ、って、あ……うん？」

　いっけね。

　配信切り忘れてんじゃん。

　コメント速度はっや。

　同接も過去最高じゃん。

　どっかの配信者もやらかしてたっけ？

　個人情報とか流出しちゃってたらネタ動画にしよっ。

　うーむ、

「あー、ごめんよ〜。シャワー配信はまたいつかね〜」

　で、やらかし発言があったとしたらこの辺かな。

　期待させちゃったという意味で。

　うおー、コメントまた早くなっちゃった。

　男女比９：１だっけ……？　私の配信。

　ま、実写動画なんて恐れ多くてできないし、やらないかもだし……みんなが忘れるまで寝かしときますか。

　……それにしてもおかしいな。

　コメントを見る限り、シャワー以外のところに関心ごとがあるみたい。

　なになに？

　アリスちゃん、すごいロケーションだね……技術革新凄すぎ……異世界か……って何の話？

「……もちろん異世界だよ。変なこと言うねぇ〜」

　アリスの設定は異世界最強の剣士だし、一応配信のセットも異世界風。

　何を今更って感じだけど、反応を見る限りそういうことを言いたいんじゃないっぽい。

　：最後まで残った人へのドッキリ的なあれだろ

　：技術革新すっご

　：異世界転生ドッキリね、予算かけてんな

　：ライザたんかわわわわ！

　ちょいちょい語彙力失ってる人いるけど……わかった、とりあえず後ろ向いてみよう。

　みんなには私には見えてないものが見えてるっぽいからね。

　そんなわけで振り返ってみたら、全身緑色の醜悪な人型化け物がおりました。

「グギャギャ！」

「どぅわぁああああああ！！！！？？？？」

　ごっごごごごぶりんゴブリンリンみたいなのいるんだけど！？！？

　なんか棍棒振り回して襲い掛かってきたので、思わず払い退けるようにして腕を振るったら……跡形もなく汚い花火となってその化け物は吹っ飛んでしまいました。

「え？」

　何これ？

　ゴブリン的な化け物のインパクト強すぎて気付くの遅れたけど、てかここ何処？　草原じゃん。

　意味わかんねー。

　流石に夢……だよね。

　そうに違いないと、頬をつねりつつ配信画面に向き直る。

　コメントは──あれ、なんで？　止まってる？？

　この真っ黒な画面の中央にデカデカと鎮座する文字。

　あ〜まいったな。

「BANされてんじゃん」