初投稿

 帰宅後。家のパソコンを借りて編集作業を始めた俺。だが、編集ソフトのインストールや使い方を覚えるのに手いっぱいで、ようやく編集作業に取り掛かるも、最初の三十秒を作るだけでかなりの時間を要している。


「結構手間だな……」


 マウスをカチカチ操作しながらぼやいていると、琉夏からラインの着信があった。メッセージを見て、俺はうっと唸る。『ちょっとー、撮った動画を見返してるけどさぁ。所どころでやらしい目をわたしに向けてない?』というメッセージ。心当たりがありすぎる。俺の煩悩が、ばっちりカメラに収められていたようだ。


 俺が謝罪を送信すると、『一斗くんの変な視線はカットしてね。視聴者にキモがられたくないし』というお怒りの指摘があり、俺は再び謝罪を送った。はぁ、カットするシーンが多そうだな。


 そんなことを考え、編集に四苦八苦しながら作業を進めていく。

 そして、悪戦苦闘すること五日後。


 高校からの帰宅途中に琉夏の自宅に寄った俺は、琉夏が校正した動画を二人で最終チェックする。


「うん、初心者にしては上出来じゃない?」

「そうだな、がんばった甲斐があった」

「お疲れさま。編集大変だったでしょ? 校正にも時間がかかったくらいだし」

「一分のシーンを作るだけで一時間かかった。慣れてくればペースは上がるだろうけど、こんなに大変とはな……」


 そういう手間があったからこそ、初めての動画投稿を前にワクワクするものだ。


「よし、投稿するよ」


 チェックが完了し、琉夏の手で投稿が完了した。

 はぁ、長かった。しんどかった。口元が緩む俺。


 ふと、琉夏が聞いてきた。


「一週間でどれくらい再生されると思う?」

「ん? 一万くらいか?」


 相場がよくわからないので適当に答える。サイトのトップページに載っている動画が、だいたい何万とか、何十万とかが多いから、そこから直感的に推測した。

 だが、琉夏はくすっと笑う。


「二十再生くらいじゃない?」

「え? 少なすぎだろ」

「そうかな? どうだろう?」


 冗談っぽく、あいまいに笑う琉夏。本気で言っているのか、冗談で言っているのか、このときの俺は判断ができなかった。


 そして投稿してから一週間が経ち。



 カウントされていた再生数は、『27』だった。

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