第22話 七瀬姉妹とご褒美

「ゆずお兄ちゃん好きですの! 祐希、ゆずお兄ちゃんの事大好きですの!!!」

 放課後、七瀬ちゃん家。

 俺の持ってきたプレゼントを見て、パッと顔を輝かせた七瀬ちゃんの妹の祐希ちゃんが、俺の胸にギューッと飛び込んでくる。


 ハハハ、相変わらず可愛いなぁ、祐希ちゃんは!

「ふふっ、そんなに嬉しかった? そんなにこのオオサンショウウオのぬいぐるみのプレゼント嬉しかったの、祐希ちゃん?」


「はい、プレゼントはもちろん嬉しいです! でもそれ以上に、ゆずお兄ちゃんがプレゼントをくれたことが、祐希は嬉しいです! ゆずお兄ちゃんが、祐希のためにプレゼントを買ってくれる……それが嬉しいですの!!!」

 何だか感動した様に顔を真っ赤に震わせる祐希ちゃんが、その喜びを身体で全力で表現するように、俺のお腹に頭をぐりぐりする。


 ふふふっ、流石七瀬ちゃんの妹、本当に凄く可愛いな。

 産まれたときから知ってるから、おっさんクサいけどこんなに大きく成長してくれて嬉しいな、なんて……んふふふっ。

「そんなに喜んでくれるならお兄ちゃんも嬉しいよ、祐希ちゃん! でもこれは、祐希ちゃんがちゃんと習い事頑張ったご褒美だからね! 祐希ちゃんが頑張ったから、買ってきてあげたんだよ。だから遠慮せずに、ちゃんと受け取ってね」


「はい、受け取ります! ゆずお兄ちゃんからのプレゼントですもの、遠慮せずに受け取ります! あとですね、お兄ちゃん、その……えっと……も、もうちょっとぎゅーってしてていいですか? あと、なでなでもしてもらっていいですか? 祐希、習い事頑張ったので、お兄ちゃんに褒めてもらいたいのです……良いですか、お兄ちゃん?」


「ふふっ、良いよ、もちろん! 祐希ちゃんいつも頑張ってるからね、ご要望があれば何でもしますよ! 祐希ちゃんがお望みなら、何でも……じゃあ、よしよし、よく頑張ったね、祐希ちゃん。七瀬ちゃんから結果聞いたよ、準優勝だったんだよね? 本当に凄いよ、祐希ちゃん! よく頑張りました!!!」

 耳と顔を赤くしながら、ちょっと恥ずかしそうに年相応のお願いをしてくる祐希ちゃんの頭をなでなでする。


 頭を撫でられた祐希ちゃんは、猫みたいにくるくるお腹の上で動きながら、

「ん~、お兄ちゃん! 頑張りましたの、祐希頑張りました! えへへ、祐希すっごく頑張りました……えへへ、だからもう少しこうしますね! 祐希頑張ったので、大好きなゆずお兄ちゃんともっともっとこうしますね……んにゃ~♪」


「俺で良ければ。良いよ、祐希ちゃん」


「んにゃ~、お兄ちゃ~ん! ゆずお兄ちゃん、大好きですの~!」

 そんな嬉しいことを言ってくれながら、お腹の上でころころ甘える祐希ちゃんを。

 習い事とか色々頑張ってる可愛い妹みたいな祐希ちゃんを、俺は……

「ちょ、ちょっと! ゆ、祐希! 祐希やめなさい、ストップ! ゆ、ゆず君から離れなさい、祐希!!!」


『!?』

 祐希ちゃんをもっと甘やかしてあげよう、なんて思っていると隣からあわあわ焦ったぐるぐる七瀬ちゃんの大きな声が聞こえる。その声には焦り以上に様々な感情が……あれ? どうしたの七瀬ちゃん?


「そうですよ、どうしたのですか、お姉ちゃん? 今祐希はゆずお兄ちゃんにご褒美貰ってるのです、邪魔しないでください」


「じゃ、邪魔って……そ、その祐希の方が邪魔になってるよ! ほ、ほらゆず君も迷惑がってるし! ね、ねえゆず君? ねえ!」


「え、別に迷惑じゃないよ? 祐希ちゃん可愛いし、そんな事思ったことないよ?」


「ゆずお兄ちゃん……! やっぱり大好きですの~!!!」


「ふふっ、祐希ちゃん。愛いやつ愛いやつ~」

 祐希ちゃんはずっと妹みたいに思ってるし、めっちゃ可愛いし。

 だから邪魔とか迷惑とか思ったことないよ、むしろなんか嬉しい! 酔いどれ姉ちゃんと違って、全く不快感ないし!


 そんな俺たちを見て、七瀬ちゃんは身体をわなわな震わせながら、

「あばばばばば……うぅ、祐希! 祐希ダメ! ゆず君から離れなさい、今日は私がゆず君にご褒美上げる日なの! 今日は七瀬ちゃんポイント獲得記念に、私がゆず君にご褒美上げる日なの! 祐希は関係ないの、今日は! ねぇ、ゆず君!」


「そうなのですか、お兄ちゃん? ゆずお兄ちゃんは、お姉ちゃんからご褒美貰うために来たのですか? 祐希は関係ないのですか?」


「いや、そんな事ないよ祐希ちゃん。今日は祐希ちゃんにプレゼント私に着たんだよ、祐希ちゃんへのご褒美の日だよ、今日は。七瀬ちゃんポイントのご褒美も、祐希ちゃんも一緒に楽しもうね」

 ていうか正直七瀬ちゃんポイント溜まったの忘れてた、土曜日美鈴といろんなことありすぎて完全に忘れてた。

 どっちか言うと、そっちの方がおまけだよ、祐希ちゃん。だからそんな心配そうな目で見なくて大丈夫だよ。今日は祐希ちゃんの日だからね。


「はわわ、ゆずお兄ちゃん……! ゆずお兄ちゃん!!! 祐希も楽しみたいです、祐希もお兄ちゃんとお姉ちゃんと一緒に楽しみたいです!!!」


「うん、楽しもうね。七瀬ちゃんと祐希ちゃんと一緒に、俺も楽しむからさ……多分、うちの姉ちゃんも」


「繭お姉さまも! 祐希嬉しいですわ、お姉さまも来るなんて……嬉しいのでお兄ちゃんにもっとぎゅーってします! お兄ちゃんへのぎゅー、で祐希の嬉しさを表現します!!!」

 そう言って祐希ちゃんはさらに俺に抱き着く力を強めてくる。


 も~、本当に可愛いなぁ祐希ちゃんは! それなら俺ももっと祐希ちゃんの事……

「あわ、あわわ……ちょ、ちょっとダメダメ! ダメぇ!!! ゆず君も祐希もダメ、ダメダメ! そんなに抱き着いたらダメ、ここ玄関だし! 玄関だし、ゆず君は、その……ダメ! 絶対ダメだから!!! ダメダメ!!!」

 また俺の行動を遮るように、七瀬ちゃんの大声が飛び、今度は実力行使で俺と祐希ちゃんの間に入って、強い力で二人を切り裂く。


「も~、何しますのお姉ちゃん! 今祐希はゆずお兄ちゃんに甘えてたのですけど! ご褒美貰ってたのですけど!」


「う~、ダメ!!! ダメだから!!! 今日は私がゆず君にご褒美あげる番なの、ゆず君のご褒美の時間なの! そ、それにゆず君とそんなにぎゅー、ってするなんて……ダ、ダメ! 絶対ダメ、祐希はゆず君から離れなさい! ほら、お部屋行って宿題でもしてなさい!!!」


「ちょ、お姉ちゃんやめて……あぁ、助けてですのゆずお兄ちゃん!!!」

 ぐるる、と怒ったようにそう言いながら、祐希ちゃんの背中を押しながら、お部屋の方に押し込もうとする七瀬ちゃん。


 祐希ちゃんは、俺に助けを求めてきていて。

「七瀬ちゃん、別に俺は良いよ? 今日は祐希ちゃんにプレゼントあげる祐希ちゃんのご褒美の日だと思ってたし、七瀬ちゃんポイントのやつは別日でも……」


「ダメなの!!! 今日なの! 今日はゆず君のご褒美の日なの!!!」


「あ、はい」

 七瀬ちゃんの気迫に思わず黙ってしまった。

 何というか、その……鬼気迫るというか、ちょっと怖い。今の七瀬ちゃんちょっと怖い……だ、だから俺は黙って七瀬ちゃんのご褒美を楽しみにすることにします!!!


 ~~~


「うわぁ、ゆずお兄ちゃん……ひ、酷いですのお姉ちゃん!!!」


「ダメ! ゆず君は私のを貰いに来たの!!! ゆず君は私の! 祐希はこのぬいぐるみ持ってお部屋に居なさい、今からは私とゆず君の時間だから!!!」


「……妹に嫉妬するなんて、お姉ちゃん醜いのです」


「……な!?」


「祐希がゆずお兄ちゃんとぎゅーってしてて、可愛いとか言われてたから嫉妬したんですか? 醜いですよ、お姉ちゃん。祐希に嫉妬は、醜く過ぎますよ」


「ち、ちが……うー、祐希!!! 出てきちゃダメだからね、絶対!!! ダメダメだよ、祐希!!! 私とゆず君の時間だからね!!!」

 バタン!!!


「……祐希はお兄ちゃんとお姉ちゃんの事、応援してますのに」



 ☆


「祐希お部屋で勉強するって! それじゃあ今から七瀬ちゃんのご褒美タイムだからね、楽しみにすること! 今からが本番だからね、ゆず君! 今からだからね!」


「あ、はい」

 しばらくして祐希ちゃんの部屋から戻ってきた七瀬ちゃんの声に、俺はうんうん頷く。ちょっと今日の七瀬ちゃんは怖い、変な事言うのはやめよう。


「それよりゆず君! ゆず君!」


「ん? 何、七瀬ちゃん?」


「その、えっと……わ、私も頑張ってるんですけど! 私も色々頑張ってるんだけど、毎日ご飯作ったり祐希の面倒見たり……七瀬ちゃんも、色々頑張ってるんだけど!!!」


「う、うん。いつもお疲れ様、七瀬ちゃんはホント頑張ってるよね……で、どうかした? それがどうかした、七瀬ちゃん?」


「うぅ、そうじゃなくて……うぅぅ!!! うぅ! 嬉しいけど、もっと祐希みたいに、私の事も……うぅぅ!!! じゃあ私はゆず君のご褒美作ってくるからね! ゆず君はテレビでも見て待ってて!!!」

 そう言ってドンドン足音を立てながら、キッチンの方へ行く七瀬ちゃん。

 取りあえず、俺は言われたとおりにテレビでも見て待つことにした。



「あ、七瀬ちゃん」


「……! な、何ゆず君! 何でしょうか、ゆず君!!!」


「え、テンション高い。いや、その……俺別にロリコンじゃないから、祐希ちゃんの事そんな風に見てないよ。妹みたいな感じで、祐希ちゃんの事好きなだけだよ、だから心配しないでね」


「……知ってる、そんな事! 知ってるよ、ゆず君!!!」


 ~~~


「ちょんちょん……ちょん」


「ん?」


「ゆずお兄ちゃん、祐希ですの。やっぱりお兄ちゃんにご褒美貰いたくて、やってきましたの……宿題は全部終わりました、祐希の事褒めてください……また、ぎゅーってしたいですの」

 しばらく七瀬ちゃんの包丁の音とか、香ってくるいい匂いを感じていると、とてとてとした足音と、祐希ちゃんの声が聞こえる。


「俺は良いけど、七瀬ちゃんがまた怒っちゃうかもよ?」


「大丈夫ですの、この位置だとお姉ちゃんからは見えませんから……ほわ~、やっぱりゆずお兄ちゃんの事、祐希大好きですの」

 ぎゅー、っと抱き着きながらうりうりまた嬉しいことを言ってくれる祐希ちゃん。

 俺も大好きだよ、祐希ちゃんの事。


「えへへ、ゆずお兄ちゃん……ん~、ゆずお兄ちゃんが、祐希の本当のお兄ちゃんになってくれれば嬉しいです。祐希も大好きですから、ゆずお兄ちゃんが本当のお兄ちゃんになってくれるとハッピーです。お兄ちゃん、祐希の本当のお兄ちゃんになってくれませんか?」


「ふふっ、それは無理だよ。俺は姉ちゃんの弟だし、母さん父さんの子供だからさ」


「ううん、一つだけ方法ありますの……ゆずお兄ちゃんが、お姉ちゃんと結婚すれば解決です。ゆずお兄ちゃんが、お姉ちゃんの旦那様になれば解決ですの!」


「……え?」



 ★★★

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