第9話 イイ事、してあげる
「イイ事、いっぱいしてあげるよ……柚希にならイイ事、美鈴がいーっぱいしてあげる。柚希だけの美鈴にしてくれるなら、美鈴を柚希専用にしてくれるなら……私、いーっぱい、柚希にイイ事してあげる」
「!?」
まだ客がそれなりにいるハンバーガーチェーン店の中。
いつもとは全然印象の違う、キレイなお姉さんの委員長―美鈴が、グイっと身体を乗り出しながら、俺の耳元に囁いたその言葉は、頭の中で炭酸のように爽快に弾ける。
「え、い、イイ事……イイ事って!?」
「ふふっ、それはもちろんイイ事だよ……だって、私柚希に助けてもらったんだもん。柚希が美鈴の事、色々助けてくれたから……だから、イイ事。美鈴の事、見てくれるなら。柚希が美鈴の事、ちゃんと見てくれて、美鈴が柚希専門になれるなら……ね?」
「ふぇぇ!?」
耳元から熱い息とともに、蕩けるような甘い声がすーっと頭の中に入ってくる。
幸せで、ふわふわするわたあめみたいな不思議な感覚が、身体中を一気に駆け巡って、心臓がドクドクと鼓動を早め、一気に全身に熱を帯びていくのを感じる。
「ちょ、美鈴……その、えっと、俺まだ……」
「ふふっ、大丈夫。私、柚希ならいいよ。柚希だけの美鈴になれるなら、私それでいい、柚希だけが見てくれるなら、私はそれで満足……えへへ、満足だよ、柚希が私の事……そ、それに、柚希の事、絶対満足させてあげるから」
耳元で甘く、妖艶に囁いていた美鈴が、スッと頭を下げ、俺の事を見つめる。
「え、そ、そう言う……んっ!?」
そしてそのまま、口を塞がれる。
「あむっ、んっ、んむっ、んっ、あんっ……んっ」
「んっ!? んんっ!? あんっ、んっ……んんっ……」
「んんっ、あむっ、あんっ……ぷはっ……ハァハァ……んふふふっ」
「んんっ、あんっ……んっ、んんっ……ハァ、ハァ、ハァ……んっ、ハァ」
「ハァハァ……ふふっ、美味しい……えへへ、柚希、ドキドキしてくれてる……ね、ねえ、柚希、こんなんじゃ満足できないでしょ? だ、だからさ、ここ、この後私と……イイ事、しよ? もっともっと、イイ事して、それで……美鈴を柚希専用に、してくれますか?」
そう言って妖しく笑う美鈴に。
ギリギリまで俺の口を塞いでたポテトの先端を。ペロッと真っ赤な舌で舐め堕として、「美味しい」と囁く美鈴に。
「……ひゃ、ひゃい……お、お願いします! もっと、お願い、しまふ」
口の中に美鈴の咥えていたポテトを感じる俺は、お預けをくらった唇を求めるように、そう呟くことしかできなかった。
☆
「ここ、私の家……安心して、今日はお父さんもお姉ちゃんも、夜まで帰ってこないから。だから大丈夫……えへへ、柚希と二人きりだよ? 二人きりで、イイ事、しよ?」
かなり大きな家の前で立ち止まった美鈴が、少し背伸びした俺の耳元にそう囁く。
その豊満で、柔らかい身体を押し付けながら。
「う、うん……そ、そっか」
……そこからの事は、正直あんまり覚えてない。
確かハンバーガー屋を出て、そのまま電車で俺の家がある駅まで降りて、しばらく歩いて……ああ、結構覚えてたわ。
でも、美鈴と何を話したかとかは、全然覚えてない。
ドキドキと激しくなる胸の鼓動と反対に、ふわふわ甘くなっていく頭が、俺に詳しいことを理解させるのを放棄していた。
気付いたら電車乗ってて、気付いたら降りてて、それで……とにかく、全然覚えてない。本当に気づいたら、この大きなお家にいた。
豪邸って言うのがふさわしい、白と紫を基調にした、大きくておしゃれなお家の前に……す、すごい家! やばっ……やばっ!
「ふふっ、照れちゃって可愛い、それに嬉しい……えへへ、柚希が、私に、そう言う……こほん! とにかく、お家入ろ。いつまでも外に居たら怪しまれるからね」
「う、うん、そうだね! お、お邪魔しまーす……わお」
美鈴に導かれるままに入った家の中も、それはもうオシャレで広くて。
真っ白でピカピカな床に、なんか大きなシャンデリア的なやつ。
同じく真っ白な壁には高そうな絵が飾られていて……え、すごい! なんかその……一般家庭に住んでる俺とは、まったく住む世界が違う、そんな雰囲気の家。
美鈴、いつもこんなところで……ていうか、お嬢様だったんだ、知らなかった。
こんなお嬢様だったんだ、美鈴、凄いな……ホント、凄いな、美鈴。
「ふふっ、キョロキョロしちゃって……ん? どうしたの、柚希、その、私の事、急にそんなに……え、な、何、柚希? ど、どうしたの、柚希!?」
「凄いな、美鈴……え、あ、いや、そのね。美鈴の家、すごくお金持ちな感じだなー、って思ってさ。美鈴って、お嬢様だったんだな、って!」
「……そ、そんなんじゃない! 私、別にお嬢様とかそんなんじゃないし! 私はそんなんじゃない!!! 柚希には、そう言うの言って欲しくない!!!」
「……え、あ、ご、ごめん」
……あれ? なんか思ってた反応と違ったな。
てっきり「そう、私はお嬢様。でも、お嬢様にもイケないヒミツがあるのよ」みたいなこと言うのかと……あ、ヤバ。また興奮して、ドキドキふわふわしてきた。
美鈴の家が豪邸過ぎてそっちに気を取られていたけど、俺は今から美鈴とイイ事……今から美鈴の家で、イイ事、するんだよな?
頭がうまく回ってなくて、全然冷静に物事を考えられないけど……そう言う事、何だよな? 俺に美鈴がしてくれるイイ事って。
「私はお嬢様じゃない……ないからね、柚希! 覚えておいてね……イイ事する時、そう言う事思い出したら、嫌だから」
「う、うん……わ、わかった」
……イイ事、ってそう言う事だよな?
俺に見てもらうとか、お礼とか、俺専用の美鈴とか、その……キス寸前まで焦らしたポッキーゲームならぬポテトゲームとか。
イイ事って、そう言う事だよな? 家に親いないって、二人きりって言われたし。
そう言う事、今から美鈴と……美鈴とそう言う事、するってことだよな?
「うん、そうして……それじゃあ準備するから、柚希は私の部屋で待ってて。美鈴、って書いてある部屋が、2階にあるから。私は色々……柚希のために、準備することあるから。準備すること事……えへへ、柚希だけのものになるための、準備あるから。柚希専用に、なるために」
「……は、はい! わ、わかりました!」
……俺専用になる準備、って何だろう?
俺を部屋に待たせて、準備すること……それってシャワー浴びたり、他に……そ、そう言う準備の事かな?
美鈴が俺のためにシャワー浴びて、キレイになった身体で俺を……俺の事を、俺専用の、美鈴が……んっ、んんっ!
「ふふっ、何その顔……そう言う柚希も結構好……んんっ! とにかく、部屋で待ってて、柚希……イイ事、楽しみにしててね」
「う、うん! じゃ、じゃあ!」
と、とにかく美鈴と一緒に居たら色々考えちゃう、妄想か未来か……わかんないけど、色々考えてしまう。
だから、まずは、その……言われたとおりに、美鈴の部屋に向かおう。そこでゆっくり、冷静に……なれるかな、美鈴の部屋で?
☆
「こ、ここが美鈴の部屋……なんかすごい、甘くていい匂い……やばっ、メロっちゃう……これ、色々、やばい……んっ」
2階に上がって、すぐにあった美鈴の部屋で、俺はその雰囲気に蕩けてしまいそうになっていた。
部屋の中は、キレイで、学校での「委員長」を思わせる、几帳面で無機質―そんな印象の真っ白な部屋。ベッドと本棚付き机にテーブル、それに無地のクッションだ質素で簡素な部屋。
でも、その部屋の甘くて、不思議な雰囲気に俺は吞まれていた。
美鈴がイイ事してくれる―そのことが、その浸食を早めていた。
「……ハァ、美鈴が、俺の……んっ」
―今の美鈴はすごく可愛いし、めっちゃタイプだ。
たぷたぷの巨乳に、ムチっとした身体、整ったキレイな顔に妖艶で甘い雰囲気……俺の大好きな、女の人だ。
委員長の美鈴は、あんまりそんなこと思わないけど、でも今の美鈴は……正直、大好きだ。
それに、美鈴は俺専用だって……俺だけの美鈴、って言ってたし。
それってつまり……そう言う事、何だよな? 俺の美鈴、って事なんだよな?
俺があの、巨乳も、ムチムチの身体も、真っ赤でプルっとした唇も……全部全部、俺の好きなようにして、良いってことだよな?
「俺が、美鈴を……美鈴の事……んっ、んんっ……」
……初めては、好きな人と、って気持ちは確かにある。
だけど、今の俺は……今の俺には、そんな相手がいない。
七瀬ちゃんも、朱里も、穂乃果姉ちゃんも……好きだけど、そう言う相手じゃない。
それに俺だって、ヤリたい盛りの高校生、性欲も人並みにある。
だから、その……こんな風に、美鈴に誘われたら、美鈴がシたいって言うなら俺は……シたい。美鈴が良いなら、俺はシたい。美鈴の事、いっぱい愛したい、美鈴といっぱい繋がりたい。
美鈴の柔らかい胸を、むちむちのふともを全身で感じながら、美鈴と繋がりたい。
耳元で甘い声囁かれながら、美鈴の身体を全部感じて、美鈴の事を全力で愛したい。
美鈴の全部を、俺は……
「……柚希、準備できた。入っていい?」
「俺は、美鈴と……あ、はい! いいいいいいですよ! は、入って、美鈴!」
コンコンとドアをノックする音と同時に、美鈴のふわっと甘い声が、ゆらりと食欲を誘ういい匂いが、脳内に響く。
……俺はもう、大丈夫。
美鈴をいっぱい愛する、美鈴の事大好きにする。
「じゃぁ、入るね、柚希……柚希、私入れて。柚希の美鈴、お部屋に入れてください」
「うん、入れる……美鈴にいっぱいいれる!」
「えへへ、嬉しい……それじゃ、失礼します」
ガチャっと扉が開き、美鈴が入ってくる。
「えへへ、柚希……えへへ、そば、行くね」
俺の座っている座布団の前のテーブルに、ことりと何かを置く。
そして、俺に身体をギュッと近づけてくる……その美鈴を俺はまっすぐ見つめて。
「み、美鈴……俺、その……」
「うん、いいよ……私は、柚希専用の美鈴だから……だから美味しく食べてね……美鈴のイイ事、美味しく食べてね、柚希……熱すぎ、柚希の。こんなに熱くて、柚希、どんだけ……んっ!」
「み、美鈴! 美鈴……あぇっ!?」
俺のほっぺにスッと手を伸ばしたエプロン姿の美鈴が、強引に俺の首をテーブルの方に向ける。
美鈴に強引に向けられた視線の先にあったのは……え、え?
「や、焼きそば!?」
「うん、焼きそば……あんなポテトだけじゃ、満足できないでしょ? 美鈴がイイ事……柚希に焼きそば、作ってあげたよ。美味しく食べてね、美鈴の焼きそば」
★★★
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