第7話 大好きって言ったのに! にゃー!!!

 昼下が、まだお客さんで溢れかえっている有名ハンバーガーチェーン店。

「すみませんでした! 本当にごめんなさいです、委員長!!!」


「だから、別に怒ってないよ、ゆず……手塚君。助けてもらったんだから、本当に怒ってない、マジで怒ってない。私に気づかなかったことも、彼女扱いしたことも、美鈴大好き、って言ってくれたことも……全然怒ってないよ、私。そもそも、私の勘違いなんだし、色々」


「すみませんでした! 本当にすみませんでした!!! 彼女とか言ってごめんなさい!!!」

 そんな人の多いお店の端っこで、俺は委員長―綾瀬美鈴に対して、深々と頭を下げていた。


 本当にごめんなさい、本当に気づいてなかったんです!

 普段見てる委員長とは全然違くて、セクシーでキレイで可愛くて、年上お姉さんの魅力むんむんだったというか……と、とにかくすみません! 本当に色々ごめんなさい!!! 本当に委員長だってわかんなかったんです!!!


「だから謝らなくて良いって、助けてもらったんだし……そもそも私と柚希全然関わりないから、大好きとか恋人とか、ましてや結婚とか思われてるわけないのに、一人で勘違いして突っ走った私が悪いって言うか。だから別に勘違い……で、でも名前呼ばれて、付き合ってるとか大好きとか言われたら勘違いするって言うか、今もセクシーとかキレイとか、嬉しくてドキドキ……ああ、もう! とにかく謝らないで、なんか空しくなるから! 空しくなるから謝るな!!!」

 俺の謝罪をポテトをガシガシ齧りながら聞いていた委員長が、ブツブツもごもご口の中で何かを呟いた後、怒りに狂ったような真っ赤な顔で、俺の方にポテトの先端を向ける。


 ……そりゃ、怒りますよね、あんなことされたら……委員長って知らなくて、美鈴って名前呼びながら大好きって連呼して、お姫様だっこして……ああヤバイヤバイ!!! めっちゃ恥ずかしいし、やっぱり俺とんでもないことしてる! 

「ホントごめんなさい、ごめんなさい……ごめんなさい!!!」


「だから謝らないでよ、もう……あ、あと、さっき好きとか大好きとか言ったの、あれは流されてただけだから! その吊り橋効果的なやつで、その……と、とにかく、流されてただけだから! その、流されて、言っちゃっただけだから! だから忘れて、さっきの! 全部忘れて、手塚君……あ、でも、もし柚希がホントに好きって言うなら、私はその、これからも……」


「わ、わかってる! 忘れる忘れる! 忘れるよ、俺の勘違いのせいだし! 忘れます、ごめんなさい!!!」


「……うー!!! だから謝らないで良いって、もう! ゆずk……手塚君のバカ、意気地なし!!!」

 ……そんな事言われても、謝る以外の事思いつかないもん!

 だって完全に俺が悪いし、調子乗って色々言ったのが原因なんだし、それに……本当に、ごめんなさい以外思いつきません!


 そんな俺の姿を見ながら、委員長はもぞもぞ呆れた声で、

「やめてって、もう……そんな事言われたら完全にフラれたみたいじゃん、バカみたいじゃん、私が……と、とにかくもう終わり! 謝る時間は終了!」


「……うん、そうしよう! そうしましょう……じゃ、じゃあ、ちょっと俺から委員長に質問していい? 色々聞きたい事あるんだけど良いかな、委員長?」


「私は、柚希の事、本気で……え、聞きたい事? 何、手塚君?」


「うん、聞きたい事。まずね……その、本当に、委員長? 俺たちのクラスの委員長ですか?」


「……え? 何回聞くの、それ。何度も言うけど、本人だって。綾瀬美鈴、手塚君が言う所の委員長であり、彼女さん。手塚君の大好きな、綾瀬美鈴だよ」


「彼女の話はもうやめてください、それはもう……その、何度も聞くのは、気になるから。普段と全然、印象違うから。何度言われてもまだ信じられない部分が多くて」

 普段の委員長は、厚着で、マスクで、ぼさっとした三つ編み眼鏡で。

 だぼっとした服装に薄い目で……正直誰がどう見ても、地味な女の子。

 低い声も相まって、少し近寄り難い雰囲気のある、そんな女の子。


「印象違う、信じられない……確かにそれはそうだけど。柚希もそのおかげで私の事可愛いって、大好きって……うにゃー! うにゃうにゃ!!!」

 でも今目の前に座る綾瀬美鈴は、普段の委員長とは全然違う。


 長めのサラサラストレートの黒髪に、ぱっちりと開いた大きくてくりくりした目。

 スーッと鼻筋の通った、キレイでアイドル顔負けの整った顔立ちは、うちの姉ちゃんとも引けを取らないくらいにキレイで、見つめているだけでドキドキしてしまう。

 真っ赤で柔らかそうなその唇は、いつもマスクで隠れていることもあって、よりセクシーで、美しく見えて。


「柚希は大好き、もう、私……でもあれ、演技、私ってわかってない……でもでも、大好きって、美鈴大好きって……うにゃー!!!」

 服装も普段の厚着とは考えられないくらいに、薄着で露出の多い服装。


 今はジャケットで隠れてしまってはいるものの、肩出しへそ出しで、キレイなお腹とたわわな双丘を存分にアピールするトップスに、美脚を引き立てるショートパンツ。

 身長高めで、出るとこは出て引っ込むとこは引っ込んだ、そんな理想的なモデル体型をさらに高めているように見えて。


 抜群のプロポーションをわかって、それ活かしたハイテンションな服装……あの委員長がこんなにスタイル抜群で超絶美人、って言うのも正直まだ納得できてない。

 普段の厚着と眼鏡とマスクのせいで、このスタイル抜群の美人お姉さんが、委員長だってことを、脳が全然認識しない。


「でも、私の事、すごい知ってて、それで、柚希、大好き、大好き……にゃーん! 私は柚希の事、そんな……にゃーん!」

 あと、声も全然違う。

 いつもは低くて小さく、すごく冷たい印象を持ってしまう声。


 でも、今日の声はすごく高くて朗らかな声。

 聞いてるだけで元気になるような、ハッピーで楽しくなるような、そんな声で……ていうか、にゃんにゃん言う委員長とか俺知らない!


 俺の知ってる委員長は二人で片付けしてるときに犬派か猫派か聞いたら「興味ない、強いて言うならうさぎ」って冷たい声で答える委員長なんだ、こんな明るい委員長俺知らない! 

 あといつも冷静で、こんな風に取り乱してる姿も見たことない。


「にゃー……柚希は、私の、大好き……にゃー!」


「……やっぱり、納得いかないな」

 結論、委員長とは正反対。

 今はそれなりに納得してるけど、このお姉さんと委員長が同一人物なんて、やっぱり信じられないな。


「……うにゃ、柚希、柚希……にゃー! 納得いかなくても、納得して! 私は美鈴、私が綾瀬美鈴なの! 私が、柚k……手塚君が彼女って言った、綾瀬美鈴! 手塚君の大好きな、綾瀬美鈴は私!!!」


「もうやめて、それ。マジで嘘だから、その場しのぎで言っただけだから! それは忘れてください、もういじらないでください……まぁ、お姉さんが委員長本人だ、ってことは納得するけど」

 まだ色々納得できてないけど、ここでいつまでも躓いていてもしょうがないので、いったん納得することにする。

 他にも聞きたい事いっぱいあるし、これはまだ序章だし。


「ぷー……もっと反応しろし、大好きって言ってるんだから、もっと……ぷー! ぷーぷーぷー!!!」


「委員長、大丈夫? 次の質問していいかな?」


「ぷー、うー……質問? 良いよ! なんでもしなよ、手塚君!!!」


「お、おう……なんか怖いけど、まあいいや……じゃ、次の質問。なんであんな格好で出歩いてたの?」


「ぷ? ぷぷ?」

 ぷく―っとほっぺを膨らませて怒った様子の委員長に、若干ビクビクしながら、気になっていた2つ目の質問を委員長にぶつける。

 それを聞いた委員長は、キョトンと目を丸くして、カービィみたいになって俺の方を見つめてくる。


「ごめん、情報少なかったね。その、何だろう……委員長っていつも厚着で眼鏡じゃん、学校では。なのに、今日は裸眼で、服装も薄着で、その……結構露出多めというか。そう言う服装してたから、ちょっと気になって」

 委員長の私服とか知らないから、これが素なのかもしれないけど。

 普段はこんな感じで、街を闊歩してるのかもしれないけど。


 でも、さっきの質問にも通ずるけど、いつもと印象が違いすぎるんだよね、今日の委員長。野暮ったくて地味な学校とは全然違う、美人でスタイルのいい明るくキレイなお姉さんの今の姿。

 別人レベルで違うから、すごく気になる―委員長のこのお姉さんの姿、結構気になる。どっちが素なのかとか、すごい気になる。


「ふふっ、そっか……めっちゃ褒めてくれるじゃん、私の事……えへへ、柚希、私の事、キレイとか美人とか、これもう大好き……えへへ、えへへへ……あ、でもさっきみたいにお世辞……浮かれちゃダメ、ダメ。そもそも勘違い、柚希は私の事……でもぉ……えへへ~」


「……委員長?」

 そう聞いたんだけど、当の委員長はくねくね照れたように身体を動かし、だらしない笑顔を振りまいたかと思えば、次には真剣な表情に戻って、まただらしない笑顔になって。

 えっと、大丈夫ですか、委員長? 


「でも、勘違いだから。そもそも私が柚希の事……え、柚希? えっと、えとー……うん、大丈夫! それでなんだっけ?」


「ホント大丈夫? その、なんであんな格好で出歩いてたのか、って事。あと、学校と今、どっちが本物かも聞きたい。どっちが本当の、委員長かって事」


「あ、それね……う~ん、そうだね……えへへ……こほん!」

 そう言って、ポテトを咥えた委員長が、表情をコロコロさせながら首を捻る。


 しばらく待っていると、委員長はもう一本ポテトを咥えて、

「どっちが素、って言うのはよくわかんないけど。でもあの服装してた理由なら言えるよ……私を見てほしかったら。もっと私の事、いっぱい見て欲しかったから」


「見て欲しかった?」


「うん。私の事、見て欲しかったの。本当の私を、ありのまま隠さない、純粋に好きをしてる私を……そう言う風に言えば、こっちの私の方が本性なのかもね」

 ニヤリと笑いながらそう言った委員長のセクシーな唇にポテトが吸い込まれていく。



 ★★★

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