第4話 追放すると言ったな。あれは冗談だ


「おまえを追放すると言ったな。あれは冗談だ。これからも一緒に冒険しよう!」



 オレはユウキの手を握ってそう言った。キラリと歯も光らせてみた。

 ユウキは一瞬呆気にとられたあと、長いため息をついた。



「なぁんだ冗談だったのか。驚かせないでよ」


「すまんすまん。ユウキの気持ちを確かめたくてな」


「えっ!? ボクの気持ち……?」



 ユウキは何故か頬を紅潮させている。

 オレは気にせず頷いて、冒険者の証であるギルド会員バッチを取り出した。



「知っての通り、オレの冒険者ランクはゴールド。そしておまえは最低ランクのブロンズだ」


「うん……」


「ギルドの規定で、受けられるクエスト難易度はメンバーの平均ランクまでとされている。ここまではいいか?」


「ボクだけがブロンズで、他のメンバーは二階級上のゴールド。だからシルバーランクのクエストまでしか受けられないんだよね」


「そうだ。そのことを不服に思ってるメンバーがいてな。ユウキを追放しろと圧をかけてきたんだ」


「それが理由? ボクが無能だから追放するんじゃないの?」


「とんでもない! おまえには立派な才能があるじゃないか!」



 オレたちを全滅させるほどの力が! とは言えなかった。言ったところで信じないだろう。

 前世(便宜上そういうことにしておく)で闇落ちしたユウキと戦い、謎のユニークスキルによって全滅させられたなんて話は。



「オレは知ってるぞ、ユウキ。普段は隠してるみたいだけど、おまえ本当は……」


「そっか……。知ってたんだね、ボクの秘密」


「本当にどうして気がつかなかったんだろう。ずっとそばにいたのにな」



 オレはわざとらしく首を横に振る。自慢の黒髪がサラリと揺れた。



「もしも素直に追放を受け入れたなら、オレたちの絆はしょせんその程度だったというわけだ。この先に待ち受ける難関クエストに挑むのは不可能だっただろう」



 オレはユウキの手を握り直して、正面から顔を見つめた。



「だけどおまえは必死に食い下がってくれた。ユウキの真剣な気持ち。この胸にしっかりと受け止めたぜ」


「ロイス……」


「ランクなんて関係ない。もうおまえの手を離さない。オレたちはずっメン(ずっとパーティーメンバー)だ★」



 オレはまたキラリと歯を光らせてみた。

 メイメイにイケメンだともてはやされたのもあり、顔には自信があった。



「ありがとう!」



 ユウキはオレの手を握り返して、キラキラと目を輝かせる。



「ボク、その言葉をずっと待ってた気がする。これからもみんなのため……ううん、ロイスのために頑張るよ!」


「ああ! オレもユウキを頼りにしてるぞ」


「えへへ。頼りにされちゃうよ~」



 オレの言葉に、ユウキは喉を撫でられた子猫みたいな笑みを浮かべる。

 なぜだかユウキが可愛く見える。相手は男の子だって言うのに……!



(これで死亡フラグは回避できた……のか?)



 パーティーが全滅した原因はユウキを追放したからだ。

 どうして時間が巻き戻ったかわからないが、これで死の運命を回避したことになるだろう。



「今後については明日また相談しよう。今日はオレの奢りだ。ジャンジャン飯を食え」


「わ~い、ありがとう♪ あ、すいませ~ん。鶏の唐揚げ追加で~」


「オレはエールをもう一杯。キンキンに冷えたやつね」



 ユウキは意気揚々と手を上げて、ウエイトレスに料理を注文していた。

 今日はやけに喉が渇く。オレはエールを追加する。



(ふっ。しかし、オレも罪な男だ……)



 オレは豚バラ定食を食べながら、心の中で前髪をかき上げる。

 相手が男だろうが関係ない。オレに頼られて喜ばないヤツはいなかった。


 驚異的な速さでゴールドランクに昇格したイケメンの聖騎士。

 ついた二つ名は『不落のロイス』だ。

 実家が裕福で財布も潤っているともなれば、言い寄ってくる女はごまんといた。


 オレが目指すのは男なら誰でも憧れる、世界一の冒険者だ。

 そのためには冒険者として名をはせ、地位と名声を得るのが近道だった。


 けれど、パーティーにユウキがいたせいで英雄への道は閉ざされた。

 そうだ。ユウキさえいなければ……。



(って、いかんいかん)



 オレは首を横に振る。

 ここでまたユウキを追い出したら再び地獄を見る。

 もう溶岩オチはイヤだ。もちろん仲間に斬られて死ぬのもごめんだ。


 せっかく拾った第二の人生だ。

 誓約通り、これからは仲間のために命を尽くそう。それこそがパラディンの本懐だ。



「鳥からきた~!」



 オレが豚バラ定食を食べ終える頃、ユウキのテーブルに鶏の唐揚げが運ばれてきた。

 オレはウエイトレスからエールを受け取り、軽く口をつける。



(一応、ステータスを確認しておくか……)



 蘇った影響で何かしらステータスに変化が起きているかもしれない。

 ステータスを見てみると――――




 ――――――――――――――――


【ロイス・コレート】


 ●冒険者ランク:ゴールド

 ●クラス:デュラハン(Lv1) ファイター(Lv30)

 ●ユニークスキル:【死因回避】


 ――――――――――――――――



「ぶーーーーーーーーっ!!」



 エールを吹き出した。

 騎士の本懐を果たす前にパラディンを辞めていた。




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