ドラゴンシップ麗しのヴィクトリア号の記録 ~美少女船長はギャンブル狂の最強魔法剣士を使役する~

@chibidao1

第1話 紫海

 紫のモヤのかかった空は、力強く輝く星だけが照らすだけの寂しい星空となっている。

 北の果てにある大陸の穴から突如発生した、紫海しかいと呼ばれるこの紫色の霧が、世界を覆い世界の町や国は分断して、十年の時が過ぎようとしていた。

 煌々と輝く一つの光が紫海に覆われた空を高速で進んでいる。光は全長百メートル以上ある大きな白い船で、流線型の船首と船尾は四角く船体の真ん中に大きな翼と、マストには巨大な帆がはられ先端には光輝くプロペラが回っている。

 この船はリオティネシア王国の魔導飛空船グレートアリア号だ。グレートアリア号の船体横にはリオティネシア王国の青い鷲の紋章が描かれている。

 客船であるグレートアリア号の船尾には豪華な部屋が用意されている。部屋は広く白い壁に部屋の奥までふわふわ絨毯が引かれている。出入り口は小さな扉だが、船尾に当たる部分は少しくぼんで柵がついたテラスとなっており、一面がガラス戸になっている。

 部屋の左手には天蓋付きの豪華なベッドが置かれ、向かいには装飾が施されたクローゼットや壺など豪華な家具が並んでいる。

 青い光を放つ松明が部屋の中心に置かれ、部屋をぼんやりと照らしていた。

 ベッドの脇に座っている女性がいる。彼女は薄い紫色の髪に青く丸い瞳を持ち、鼻がすらっと長く口の小さい美しい女性だ。

 腰の長さまである金髪の髪を一つに編み込んで整え、頭に教会の紋章がついた白い帽子に、黒の靴に黒のストッキングを履き、膝までのスカートの白いローブを身にまとっている。

 女性の名前はクローネという。帽子や服装から彼女は旅をしている神官のようだ。


「キャッ!」


 突如、船体が激しく揺れる。目を開けてとっさに前にあったベッドに手をついて体をささえるクローネ。揺れがおさまった。直後に部屋を照らす松明が揺れて光が明暗を繰り返す。

 顔をあげて不安そうに周囲を見渡すクローネだった。


「あれは……」


 窓の外を太く丸い牙が描かれた黒い帆を立てた船が横切っていった。船は向きを変え船尾をグレートアリア号に向け追いかけ始めた。船のスピードは速くどんどんとその姿が大きくなってくる。迫ってくる船を見たクローネは、慌てた立ち上がった。彼女が立ち上がるとほぼ同時に部屋の扉が勢いよく開く。

 クローネが振り向くと部屋の入り口に鉄の鎧に身を包み腰に剣を持った兵士が扉を開け立っていた。


紫水軍むらさきすいぐんです」


 兵士は開けた扉から叫びながらクローネの元へと走ってくる。

 紫水軍とは紫海を漂う海賊集団で、魔物や人間で構成されている。窓の外に見える船は紫水軍のものだった。


「すぐに船底にある脱出艇へ行きましょう」

「わかりました」


 クローネはうなずき部屋を出ていこうとする。しかし、直後に甲高い音が響く。

 兵士とクローネが振り向くと振り向くと窓が割られ、突き出した牙の生えた下顎に、豚のような上に向いた鼻に、ギョロッとした目をした醜い紫色の皮膚のオークが立っていた。オークは鉄の胸当てに革の腰巻きつけ、腰巻きを巻くベルトに手斧を引っ掛け、背中には丸い盾を背負っていた。


「うがああああああああああああああああああ!!!!」


 興奮したような叫び声をあげている。オーク達の後ろには彼ら紫水軍の黒い船が見えた。ベッドの横で座り込んだまま怯えた顔でオークを見つめていた。


「穢れたオークめ……」


 兵士は剣を構えて前でてクローネを庇うように立った。

 紫海の霧は穢れを放つ、その穢れを数分でも浴びたもの者は、理性を失い皮膚が紫となり凶暴化する。それは魔物も例外ではない、目の前に居るオークも、また紫海の瘴気によって凶暴となっていた。


「ここは私が食い止めます。早く甲板へ向かってください」


 前に出た兵士は振り返り、クローネに甲板へ向かうように言うと、剣を構えてオークたちの前へと向かう。クローネは兵士の言葉に、反応して立ち上がって部屋の外へ向かう。


「やめろ!!! やめろ!!!!」

 

 叫び声がして振り向いたクローネに、オークの一匹に両手首を掴まれた兵士の姿が見える。オークが口を開いて、兵士に顔を近づける。紫色の煙のようなものがオークの口から兵士の口へと流れていく。


「うがああああああああああああああああああ!!!」


 部屋に兵士の声が響く。彼を拘束していたオークは手をはなす。兵士はひざをつき、苦しそうに大きく口と目を開き、首を手で押さえている。みるみるうちに兵士の皮膚は紫色になっていく。これは紫海の瘴気を吸い込んだ人間に起こる変化だ。


「なんで…… 部屋には浄火が……」

「うがあああ!」


 兵士はクローネに向かって手を伸ばした。ハッという顔をして、慌てて前を向いたクローネは、部屋を出ようと駆け出した。

 だが……


「キャッ!」


 素早く動いた兵士は、クローネの腰の裾をつかみ、強引に引っ張る。後ろに向かってひっぱられ倒れそうになるクローネ、彼女は背後に数歩移動した。


「いやああ!!!」


 兵士はクローネを引きずっていき、自分の方へ引き寄せると、左肩をつかみベッドに引きずり倒す。ベッドの上に倒した、クローネの上に馬乗りにる兵士、彼女の帽子は外れて地面に落ち服の裾が乱れる。

 兵士はクローネの両手首を右手につかむ。兵士に掴まれたクローネの手が人間とは思えないほどの力でつかまれ骨がきしむ。穢れた魔物や人間は理性を失い暴力的になり加減げできなくなる。

 馬乗りになった兵士は大きく目を見開き、よだれをたれしながら興奮したようすでクローネを舐めるように見下ろしている。

 よだれがクローネの顔に垂れ頬をつたう。


「お願い…… やめて」

「フーフー!」


 クローネの懇願むなしく兵士は息を荒くしていく。


「うがあああ!!!」

「いっ!?」


 声を荒らげた兵士はクローネの胸を鷲掴みにし、痛みで彼女が声をあげた。


「やめて! やめなさい! やめて!!!」


 クローネが激しい叫び声をあげて両手を抜こうする。


「うがう!」

「キャッ!」

 

 兵士がクローネの頬を叩く。顔が激しくゆれてクローネに激痛が走り口に血の味がする。唇の脇から血を流し、大人しくなったクローネ、兵士に殴られた彼女は抵抗を諦めた。兵士は力が抜けた彼女の手首から右手をはなした。

 両手で彼女の服をつかむと力を込めて一気に引き裂いた。ビリビリと音がしてクローネの服が引き裂かれる。クローネのきれいな白い肌のたわわな胸が兵士の前にあらわになる。

 兵士が興奮したように腰を動かす。オーク達はその様子を見てニヤニヤと笑っていた。

 クローネは黙ったまま呆然と天井を見つめる。彼女の目から一筋の涙がこぼれベッドのシーツを濡らす。兵士は左手でクローネの胸におき、左手を彼女の太ももから舌にはわすように動かした。


「ガアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」


 激しい魔物鳴き声が響き。兵士とオークが怯えた顔で周囲を見渡す。

 クローネも鳴き声に反応し視線を動かす。涙に滲んだ視界にオークの背後にある、割れた窓の向こうに黒い船が映った。

 直後に白い光線が空へと向かって伸びていく。オーク達が乗っていた船を光が貫く。激しい音がして一瞬で船が凍りついた。浮力を失った凍りついた船は、グレートアリア号から離れ紫海の中へと落ちていった。

 直後に割れたガラス戸の向こうに、ゆっくりと浮かび上がっていく灰色のドラゴンが見えた。

 ドラゴンは長い首に丸みを帯びた体に、尻尾と四本の脚と背中にコウモリのような翼が生やしている。首から尻尾まで二百メートル以上はありそうな巨大なドラゴンだ。両脚の先には小手のような防具と、体には胸当てをつけていた。

 向きを変えたドラゴンはグレートアリアの背後から追いかけるようにして飛ぶ。ドラゴンはスピードをあげ勢いよく迫ってくる。

 ドラゴンは瞳孔の開いた、トカゲのような茶色の瞳で、クローネ達がいる部屋を見つめている。

 口を開けたドラゴンはグレートアリアの船尾へと迫ってくる。兵士とオークは呆然とドラゴンが近づくのを見つめていた。 


「ガアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」


 ドラゴンの鳴き声が響き、窓に映る光景が紫海から燃え上がるような赤で牙が並ぶドラゴンの口に変わった。

 直後に船が激しくゆれて、部屋が薄暗くなる。オークは揺れで倒れそうになり、クローネに馬乗りになった兵士は必死に彼女の上で踏ん張っている。船尾のテラスにドラゴンが噛みついたようだ。衝撃と恐怖でクローネは気を失ってしまった。

 ガラスの割れる音がした。ドラゴンの舌の先端が残っていたガラス戸を貫いて伸びていた。竜の太く長い舌の先に男が一人しゃがんでいた。舌でガラスが割れるのがわかって顔を下に向けしゃがんでいたようだ。

 揺れがおさまると、男はゆっくりと立ち上がった。オークと兵士は何が起きたのかわからず男を呆然と見つめている。


「邪魔するぜっと」


 軽い感じで挨拶をし男が、ドラゴンの舌から飛び降り部屋へと入ってきた。男は鼻が高く黒い瞳の目がやや鋭い、顎の下には黒い無精髭を生やしていた。肩くらいまである黒髪を後頭部で結び、おでこの脇からまとまって一本になった、結ばれてない髪が頬まで垂れていた。

 身長は一メートル八十五センチ以上あり高く、細身で黒のブーツに黒のズボンに銀色の胸当て、その下に黒の襟のついたベストを来てベストの下には、白の長袖シャツを着て、手には黒の革の手袋をしていた。

 背中に柄が長い細長い刀身が一メートル弱の剣と、剣と同じ長さの柄が黒く、先端が銀色の装飾された杖をさし、腰には青い光を放つランタンをベルトに引っ掛けている。

 この男の名前はロック、二十歳の青年だがその風貌と言動からよく中年に間違えられる。ロックは首を捻りながら、面倒くさそうに前に出た。彼の視界に女に馬乗りになっている兵士が見えた。


「なんだぁ。取り込み中だったのか。悪いな。でも、早く逃げた方が……」


 馬乗りにされているクローネの顔を見て彼は笑った。そして視線を彼の横に立つオークに向けた。ロックから一メートルほど離れた場所に立つ、オークは何が起きたのかわらかず口を半開きにしてロックを見つめていた。


「うひょう。上玉だな。リアルな豚に真珠ってやつだ…… なっ!」


 ニヤリと笑い右手を開いて、右腕を体の前に持っていく。直後に彼の背中の剣が自動で抜けて右手に握られた。

 ロックは体を横に向けて軽く膝を曲げ、体勢を低くし右手に持った剣の剣先を奥に向けた。そのまま一気に腕をオークに向けて伸ばす。突き出された剣がオークの口を貫く。声もだせずにオークの一匹は口を貫かれた。

 血が剣をつたってポタポタと垂れて絨毯を染める。


「うがああああああああああああああああああ!」


 視線を左に向けるとベッドから兵士が飛び下りて、剣を拾ってロックに斬りかかろうとしていた。両手で剣を持った兵士は上から剣を振り下ろす。


「おっと……」


 左手を兵士に向けた。ロックの背中から杖が彼の左手の前に飛んできた。ロックの左手の前数センチのところに浮かんだ杖をロックがつかむ。甲高い音がしてロックの杖の手前で兵士の剣が折れた。薄いオレンジの光の壁が兵士の剣とロックの杖の間に出来ていた。

 両手で剣を振り下ろした姿勢で、兵士は悔しそうな顔をする。


「不思議か? ただの魔法障壁だ。まっ、お前らが一万人いても傷一つつけられないくらいの強度があるけどな」

「うがああああ」

「ほっ!」

「……」


 ロックが杖を下ろして床をつく。床から白い冷気が兵士の足元に走っていく。兵士のつま先に冷気が触れると一瞬で兵士は凍りついた。


「大人しくしてりゃあ。女を犯すくらい見逃してやったのに。もったないことしたな」


 真っ白な霜が下りた兵士の顔に笑顔を近づけてささやくロックだった。


「さて……」


 剣と杖から手をはなすロック、杖と剣は勝手に彼の背中へと戻っていった。


「おーい。終わったぜ? 起きられるか?」

 

 クローネの頬を叩いて起こそうとするロック。だがクローネは目を覚まさず静かに目をつむっている。


「しょうがねえ…… 他のやつらを……」

「(ダメよ。もう浄火じょうかが……)」


 ロックの脳内に誰かが直接話しかけて来た。声は落ち着いた優しい女性のような声だった。直後に部屋の中心に置いてあった松明の灯りが消えた。ロックはそれを見て小さくうなずいた。

 ベッドに寝ているクローネの前にたったロック。クローネは胸をあらわにされ、まくられた裾の太ももの間に、薄いピンクの下着が覗いていた。


「俺はこのままの方が良いんだが…… 裸で連れて帰るとあいつうるせえからな。ほいっと」


 ロックは右手を前にだして軽く揃えた指先を曲げる。彼女の寝ているベッドのシーツが動いてクローネを優しく包む。

 シーツに包まれたクローネを抱きかかえ、ロックはドラゴンの舌に乗った。舌はロックを乗せたまま口の中へと戻っていった。

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