第23話 昇格しました
再びミーと2人の生活が戻ったリンド。日々のルーティーンをこなして杖を作ると今まで作りためていたのと一緒にカバンに入れてミーを肩に乗せて森から街に繰り出した。
「リンド、自分の口座に今までいくらお金があるか確認したことあるの?」
街道を歩きながらリンドの肩に乗っているミーが話しかけてくる。
「そういや確かめたことないな。預けっぱなしだよ」
冒険者は稼いだ金をギルドに預けることができる。ギルドカードが通帳代わりになって残高がわかる仕組みだ。リンドは最初の頃こそ現金を持っていたが金額が多くなってきた時に今までもっていた現金をギルドに預けることにした。盗難の心配がないから宿に泊まった時でも安心だ。それとギルドがある街ではカードで直ぐに引き出せるのということで利便性も良い。国内を移動して活動をする冒険者は皆ギルドに自分の口座を作ってそこにお金を預けているのが普通だ。
リンドは魔石買取の代金や杖の代金をいつもギルドに預けてそのまま森に戻っていたので一体自分の預金残高がいくらあるのか知らなかった。街に来たら魔石を買い取ってもらい杖を売ってお金をもらう。そうして必要なものを買ったあとは帰りにギルドに寄って余ったお金を口座に入れてから森に帰るという決まったパターンの繰り返しで残高を調べたことはなかった。
ミディーノの街に入るといつもの様にまずはその場でランクB討伐のクエストを受けて直ぐに持ってきたランクBの魔石を渡そうとした時にいつもカウンターに座っている受付嬢のマリーが
「ちょうどよかったです。ギルドマスターがリンドさんと話しをしたいとおっしゃっていました。今ギルドの執務室にいますので少々おまちください」
カウンターに置いた魔石を一旦奥の床の上に置いたマリーはそのままギルドの奥に消えていった。
「ギルマスが用事って一体なんだろう」
カウンターの前に1人で立ってつぶやいている様に見えるが実は肩に乗っているミーに話かけていた。周囲に人がいるのでミーは答えずに体をリンドの首筋に押し付けているだけだが
(ランクアップの話しね。あれだけ魔石を持ち込んでたらこうなるわよ)
「お待たせしました、こちらにどうぞ」
マリーに続いてギルドの奥に移動してマリーが開けた扉から中に入るとそこはギルドマスターの執務室だった。机とその前に簡単な応接セットが置いてある。
がっしりとした体躯の男が座っていた机から立ち上がると部屋の扉近くに立っているリンドに近づいて
「初めまして。ここのギルドマスターをしているウエストだ、よろしく」
「こちらこそ。この街所属のランクBの冒険者のリンド。ジョブは賢者です」
そうしてソファに向かい合って座るとジュースを持ってきたマリーもそのままギルマスの隣に腰掛ける。黒猫のミーはリンドのお腹の上でゴロゴロと…これはいつものことだ。
「君とは一度話ししたかったんだよ」
「はぁ」
「ギルドは常に冒険者の動向をチェックしている。それはランクSであろうがランクFであろうが変わらない。リンドはこの街で冒険者になって活動をしていて賢者のジョブを選択、そして街の中じゃなく外に住んで最低限のクエストを受けてソロでランクBまで上がっている。そうだな?」
ギルマスの言う通りなのでそうですと肯定する。
「いや、別にリンドを責めてる訳じゃないからもっとリラックスしてくれ。要はここにいるマリーから聞いたんだがリンドは今まで納めた魔石とポイントで十分にランクAに昇格できる条件は満たしているのに本人がランクBのままで良くてランクAに昇格するクエストを受けたくないらしいとね」
リンドはマリーを見てそれから視線をギルマスに戻すと
「その通りですね。特に冒険者のランクには拘ってないので今のランクで十分に満足してますから」
「こだわりがないのならランクAでもいいんじゃないのかな?リンドにはその資格が十分にあるんだが」
そこでリンドはランクBのままでいい理由を説明していく。ランクBなら半年に一度ギルドのクエストをこなせばよい。ランクAになるとそれが1年に1度にある。そうなると普段森に住んでいてそこから出ない自分は出るのが億劫になってその結果1年以上間が空いてしまって冒険者の権利を剥奪されるかもしれないと心配している。半年に1度という条件が自分にとって一番良いのだということ。
そしてこちらが最大の理由だがランクAになった場合にはギルドから指名されるクエストがある。自分はソロでマイペースが性に合っていて誰かと組んでというのが苦手だ。ランクAになって複数人と一緒にクエストを支障なくこなせる自信がないんだと。
リンドがそう言うとうーんと唸り声をあげるギルマス。普通なら昇格させてやると言えば皆喜んで受ける冒険者しか見てこなかった中、リンドの様な考えをする冒険者は初めてなのでどうしたら良いのかと悩み始める。
そしてしばらく顔を部屋の天井に向けていたギルマスがその顔を正面のリンドに向けると、
「わかった。じゃあギルドからリンドには指名クエストは出さない。これはジョブが賢者ということでパーティジョブではないからという理由で通るだろう。ただし1年に1回以上はギルドに顔を出して自分でクエストを選んで受けて貰いたい。こういう条件ならランクAになってくれてもいいんじゃないか?」
「一つ質問ですが、どうしてそこまでして俺のランクを上げる必要があるんでしょうか?」
「それはバランスだよ」
「バランス?」
「そう。リンドがずっとランクBのままなら他の冒険者をAランクに上げにくいからさ。リンドが今まで持ち込んできたランクBの魔石の数は相当なものだ。そしてまだランクBにいるとなると他の奴らはそれ以上の魔石を持ち込まないと昇格させられないんだよ」
「なるほど。俺が今のランクでいることで周りに迷惑をかけているんですね」
「迷惑ではないが、ギルドとしては困ってるのは事実だ」
リンドのお腹の上でゴロゴロしていたミーが体をリンドに押し付けてきた。どうやらギルマスのオファーを受けた方が良いと言っているらしい。リンドはミーの体を撫でながら
「わかりました。指名クエストがない、1年に1度以上顔を出して自分でクエストをこなす。この条件を受けます」
向いに座っていたギルマスのウエストと受付嬢のマリーの表情が明るくなる。
「そうか。じゃあ早速昇格手続きにはいろう。マリー頼む」
「ちょっと待ってください。以前マリーに聞いたら昇格には魔石のポイント以外に指定されたランクAの魔獣の魔石を持ち込むという条件があったと聞いてますが?」
今からランクAにするという言葉に逆に慌てるリンド。
「そっちは大丈夫だ。リンドはすでに森の中で結構なランクAの魔獣を倒しているんだろう?」
そう言ってから
「リンドは気づいてなかっただろうが今まで持ち込んできた魔石の中に結構な数のランクAの魔石が混ざってたんだよ」
それは気が付かなかった。魔石を袋に入れる時に間違って入れたか、ギルドで魔法袋の中から取り出す時に間違っていたかどちらかだろう。最近は持ち込んだ魔石の換金もマリーにお金は口座に振り込んでおいてと言っていくらか全く確かめてなかったなと思いだしているリンド。
「なのでリンド本人が了承したらランクAになる条件はクリアしていたのさ」
そうしてマリーが一旦部屋を出るとすぐに新しいカードを持ってきたそこにはランクA、賢者としっかりと記載されている。
「これでよし。さっきも言ったがリンドにはジョブの特性上指名クエストは出さないから今まで通りの生活をしてくれ。ギルドの顔出しだけは忘れないでくれよ」
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