第8話 冒険者を泊める

「あっ、あの杖」


 部屋の中をぐるっと見ていた精霊士のショーンが壁にかかっているリンドが使っている杖を見つけて声をだすと全員がその杖に視線を向ける。


「あんたとその僧侶も持ってるよな、この杖」


「これだろう?ミディーノにある武器屋で買ったんだけどさ、この杖凄いんだよ。見た目は何の変哲もなさそうだけどさ、使いやすいんだよ。硬いし魔力の威力も増加するし、今ミディーノには在庫がなくて大変なことになってるらしいよ」


 精霊士のショーンの言葉に続けて僧侶のジェシカがリンドを見て、


「この杖って、もしかしたらリンドさんが作ってるの?」


 リンドはジェシカを見ると頷いて、


「そう。俺が作った杖だよ」


「「ええっ!!」」


 びっくりするメンバー。


「ここで採れる木材から杖を作ってミディーノのトムの武器屋に卸している」


「あの杖、ここで作ってたんだ」


「作れば作れるだけ売れると思うけど?」


 精霊士のショーンと狩人のクリスティが言うが、


「武器屋のトムとは時間がある時に作ってできたら持ち込むという話しになってる。こっちは職人じゃないからさ。それに多く作っても持って行ける数に限界があるんだよ。まぁしょっ中街に行きたいとも思わないしね」


「なるほど。杖を担いで森から出て街まで行かなきゃならないってことか」


 コリーの言葉にうなずくリンド。


「魔法袋を買えばいいじゃない」


 クリスティがあっさりというが、


「あれって高いだろう? そう簡単に手が出る値段じゃないし滅多に売り物がないって話だよ。それにさっきも言ったけど俺は職人じゃない。暇な時に作ってるだけさ」


 魔法袋とは中の空間が魔法によって広くなっていて見た目以上に沢山の物を入れることができる袋だ。サイズは大と小の2種類で小だとだいたい3立方メートル、大になると10立方メートル入ると言われている。ただ、袋の中は外と同じ様に時間が流れていて、氷は溶けるし食料は長く入れておくと腐ってくる。


 そして生き物を入れることはできない。価格は魔法袋の小ですら金貨200枚以上、大になると700枚以上と言われているが、まず滅多に出物がない。


 そして魔法袋以外にこの世界にはアイテムボックスというものが存在する。アイテムボックスについては地上に存在する強大なモンスターを倒した時にたまにドロップするレアアイテムでその価格は付けられない程だ。当然それを持っている人も非常に少ない。こちらは生き物が入れられないのは同じだか中は時間が止まっていて食料も腐らないと言われている。


「じゃあしばらくは杖は期待できないのね」


 ジェシカが言うと、どうしたんだ?とリンドが聞く。ジェシカは自分の杖を見せて


「かなり使い込んできてて手を握るところがほらっ、少し木が目に沿って裂けてきてるのよ」


「なるほど。そう言えばそっちの精霊士の杖も結構使い込んでくれてるな」


 リンドがジェシカの杖を見てからショーンの杖を見ると同じ様に握るところが相当痛んで来ているのがわかる。


「トムの武器屋は俺達の行きつけの武器屋でね。この杖が入った時にすぐに連絡をくれてすごい杖が手に入ったって言うから店に行ったらさ、もうこれしかないって感じで、即売ってもらったんだよ。それ以来この杖ばかりをずっと使ってる」


「普通の杖でも寿命は大抵1年程だからこれが特に寿命が短いってわけじゃないんだけど一度この杖を持つともう他の杖を持つ気がなくなっちゃって」


 ショーンとジェシカが口にするのを聞いていたリンド。


「そこまで言ってもらえたら作った方としては嬉しいな。ちょっと待ってて」


 そう言うと家の裏の倉庫から新しい杖を2本持ってきて、


「この杖をあげるよ」


 そう言うと真新しい杖を2本、ショーンとジェシカに渡す。


「ええっ? いいの?」


「トムの武器屋で1本金貨25枚するんだぜ?」


 なるほど、金貨5枚を手数料として上乗せしてるのか。まぁトムがいくらで売ろうが構わないけどな。


 二人はリンドから貰った新しい杖を手に取ってご満悦な様子。


「俺が作ってくれた杖をそこまで使ってくれて褒めてくれている。しかもそれがランクAの冒険者達だ。そういう人に使ってもらえるなら全然問題ないな」


「この杖って値ははるけど後衛ジョブの中では必須アイテムと言われてるくらいに人気があるの」


 ジェシカが杖からリンドに視線を移して本当にもらっていいのという表情で見てくる。


「まぁここだけの話、俺が作っているこの杖は原価はほとんど0だからさ。気にしないでくれよ。ああ、それと2本あげたのは武器屋のトムには内緒な」


 リンドがそう言ったタイミングで今まで居間の高い場所に座っていた黒猫のミーがそこから飛び降りるとリンドの肩にのって身体を擦り寄せてきた。どうやらリンドの対応にミーも満足している様だ。


 今までメンバーのやりとりを黙って聞いていたキースが口を開いて、


「リンド、済まないな。今彼らが言ってた様にこの杖に変えてから二人の魔法の威力がかなり増大しているのは事実だ。それによって俺たちの討伐も相当楽になっている」


「そりゃよかったじゃないの」


「そんな杖を2本もタダで貰って何もお返しをしないのは俺の気がすまない」


 そう言うとキースはポケットから袋を取り出して、


「これを使ってくれ。魔法袋の小だけどな」


 今度はリンドがびっくりする番だ。


「いやいや、これと俺の杖2本とじゃ全然釣り合わない」


 リンドの言葉にキースは、


「実は俺達メンバーは全員魔法袋の大を持っている。だから小の方は余ってたんだよ。余り物で申し訳ないが受け取ってくれ」


「そうそう。俺達はもう使うことがないからさ、持っていて使わないなら使う必要のある人に使ってもらった方がずっといいよ」


 戦士のコリーもキースの言葉に続けていう。リンドは頭を下げて、


「ありがとう。助かるよ」


 その後しばらくリンドの家で休憩をとっていたパーティメンバー


「そろそろ行くよ」


 というリーダーのキースの言葉に立ちあがると、


「夜はどうするんだ?」


「この森のどこかで野営しようかと考えている」


「よかったらここに戻ってきて夜を過ごすといいよ。一応結界を張っているからここなら安心だよ、ただ部屋はないので雑魚寝になるけど、それでもいいなら」


 リンドの言葉にメンバーはお互いに顔を見合わせてからリーダーのキースが


「リンドが良いって言ってくれるのならそうさせてもらうとありがたい。こちらには女性もいるからね。夜露がしのげて安全な場所なら是非そうさせてもらいたい」


「じゃあ待ってるよ」


 そう言って彼らは森の奥に進んでいった。彼らの姿が見えなくなると肩に乗っていたミーが


「リンドって本当に優しいよね」


「彼らは悪い人じゃないって言ってたのはミーだぜ。実際話しをしても皆いい人だった」


「そうね」

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