第7話 ⭐吐き出す場所⭐

家を出るとキレイに咲いていた桜の花びらは風に吹かれて散ってしまっていた。すっかり景色は緑色になった。

制服のジャケットも着慣れてきた。電車通学も学校の授業も何となくだけど、慣れてきた。


ただ、碧は教室で、まだ周りと馴染む事はできずにいた。休憩時間にたまに声を掛けられる。

「神﨑さんってさぁ、背高いよね?」

「身長何センチあるの?」

(ほらきた、またこの話……)

「……172センチ」

碧は顔には出さないように、ポツリと答えた。

「いーなあー、羨ましい!」

そう声をかけられても、嬉しくはない。


(私はみんなの方が羨ましいんだ。背が低いだけで可愛らしいんだ。)

笑ったり、笑顔になると嫌いな八重歯が出てしまうから、笑わないようにしていた。

その上、体育の授業は苦手なのに、さもスポーツができるかのように見えてしまう。

最悪な時間だ。


(神﨑さんってさぁ……)

(背はデカいのに声は小さいよね……)

(なんかさぁ……)

クラスメイトのこんな会話が、碧の周りでヒソヒソと聞こえてくるようになった。


……あー、小さくなりたい。

……あー、やっぱりか。

碧は昔から日記をつけていた。楽しかった事ではなく、辛かった事や嫌だった事など、苦しみを吐き出す場所として。中学生の時もそうだった。

日記は少しずつ、静かにページを進めていた。

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