第038話 〈配信コメント欄〉

 

「ダンジョン出たら、続きしてほしいな」

「うん。わかった」


〈あまぁぁぁぁぁいぃぃぃ!!〉

〈このシチュ、最高過ぎる〉

〈素晴らしい。実に素晴らしい〉

〈誰かこの様子も配信されてるって教えたげてw〉

〈ハヤテは気付いてるだろ〉

〈後でエレーナが赤面するのを独り占めする気だ〉

〈ズルいぞハヤテぇ!〉


 颯の予想通り、配信のコメント欄は大いに盛り上がっていた。


〈おっ。このままラスボス行くみたいだな〉

〈このふたりなら楽勝だろ〉

〈てか偽ハヤテを10秒討伐とかヤバい〉

〈量産型ハヤテたちでも苦戦してたのに〉

〈このペア最強すぎww〉

〈最高のカップルで、攻略者としても最強〉

〈もう結婚しろよ〉

〈そうなったらご祝儀に株買わなきゃ〉

〈また東雲グループの株価が上がるな〉

〈ワイは今のうちに買い増ししとく〉


 颯と玲奈がダンジョン攻略配信で相性の良さを見せつける度、東雲グループの株価がどんどん上がっていった。


 かつて日本四大財閥と呼ばれていたそれも、今では東雲財閥一強となりつつある。


〈そーいやここのトロフィーって西園寺さいおんじ 日紗斗ひさとだよな? 確かあいつ、エレーナにFWOの攻略配信コラボ持ち掛けて断られてたはず〉


 そんなことを覚えている視聴者がいた。


〈え、マジ?〉

〈俺もそれ見た〉

〈パーティーにも誘ってたな〉

〈エレーナは断ってたけど〉

〈日紗斗は結構しつこかったぞ〉

〈もしかして、玲奈に気がある?〉

〈その可能性はあるな〉

〈それって、マズくね?〉

〈エレーナが助けちゃダメだろ〉

〈だよな〉

〈よし、ハヤテ。今すぐ帰れ〉

〈玲奈を守るんだ〉

〈日紗斗は助けなくて良いよ〉

〈そのうち女性攻略者が助けるから〉

〈君らは今すぐに帰りなさい〉

〈かっえーれ! かっえーれ!〉

〈届け! 俺たちの想い!!〉


 そんな視聴者たちの書き込みも、ダンジョン攻略中の颯には見えない。


〈やべぇ。ボス戦始まっちゃった〉

〈勝たないで欲しい、でも負けないで〉

〈ハヤテがエレーナ守れないの見たくない〉

〈絶対勝て! でも勝つとヤバいかも〉

〈なんて複雑な心境……〉


 勝つとヤバいことになるかもしれないと、多くの視聴者たちが危惧していた。そんな不安をよそに、颯と玲奈の最強ペアはウンディーネの体力をゴリゴリ削っていく。


 女神が操作することで、その時のウンディーネの防御力なども数倍に上昇していた。加えて3つの大技を使ってきた。


 そんな女神専用チート設定が無くなった今、ノーマル状態のウンディーネでは颯たち相手に3分も耐えることが出来なかった。



 ウンディーネのコアが割れる音が響く。


 それと同時に、配信コメント欄では絶望の声が多く書き込まれた。


〈うわ、やっちまった〉

〈マジかー〉

〈まぁ、仕方ないけどな〉

〈頼む日紗斗。目を覚ますな〉

〈そのまま放置しよーぜ〉

〈まだ間に合う。今すぐ逃げろ〉

〈日紗斗可哀そうww〉

〈玲奈に言い寄らなかったら助けてやるよ〉

〈もし言い寄ったら?〉

〈処す〉

〈処す〉

〈〇す〉

〈処す〉


 物騒な書き込みが増えてきた頃、西園寺 日紗斗が空中に現れた。


【泉のダンジョン、踏破おめでとうございます。踏破記念のトロフィーとして、西園寺 日紗斗をお受け取りください】


 ゆっくり日紗斗が降りてくる。

 その様子を颯と玲奈はただ眺めていた。


〈受け止めないの草〉

〈エレーナの時と違うやんw〉

〈wwwwwww〉

〈いや、それでいいwww〉

〈大正解で草生えるわ〉


「はっ! う、動ける!!」


 日紗斗が立ち上がり、身体の様子を確認し始めた。


「あの、大丈夫ですか?」


「ん? あっ、君たちか。俺を助け出してくれたのは──って、玲奈? なんでここに? まさか、君が僕を?」


 心配して声をかけた颯を無視して、日紗斗は玲奈に話しかけた。


「違う。ほとんどハヤテのおかげ」


「いやいや、何を言ってるんだ。やっぱり僕のことが気になって、こうして助けに来てくれたんだろ? ありがとう!」


「だから私じゃないって」


 日紗斗の目には颯の姿が映っていない。


〈こいつ、うぜーな〉

〈エレーナに触れるな!〉

〈その手を離せ!!〉

〈ハヤテもなんか言え!〉


「やはり僕と君は引き合う運命にある。僕がトロフィーにさせられたのも意味があったんだ! さぁ、僕と一緒になろう。そして西園寺と東雲をひとつにして、日本を僕らの手中に納めようじゃないか!!」


〈は?〉

〈なんなんこいつ〉

〈ヤバいキレそう〉

〈そんなこと考えてたのか〉

〈玲奈を利用する気だ〉

〈それしか考えてないだろ〉

〈こんな奴にエレーナはやらん!〉

〈ぜってー渡すなよ、ハヤテ〉


「あの、そろそろここを出ましょう。貴方の御両親からの依頼で、俺たちはここまで来ました。救出は完了したので帰りますよ」


「ん? なんだお前。まだいたのか。僕は玲奈と話をしているんだ。部外者はさっさと出ていけ」


「いえ、そう言うわけには」


「お前、僕が誰だが分かってないようだな。西園寺財閥の次期総裁、西園寺 日紗斗だぞ。僕に口答えするんじゃない」


〈逆におめーはハヤテ知らねーのか〉

〈何回かPVPしてるだろ〉

〈毎回ハヤテがボコしてた〉

〈でも何故か判定で日紗斗の勝ちに〉

〈は? なにそれ?〉

〈ハヤテが負けた?〉

〈ありえねーだろ〉

〈システム乗っ取ってるって噂だった〉

〈西園寺はFWO運営に出資してたから〉

〈真っ黒じゃねーか!〉

〈チートだチート!!〉


 自身が炎上していることなど日紗斗が分かるはずもない。


「玲奈との会話の邪魔だ。さっさと消えろ」


〈お前が消えろ!!〉

〈お前が消えろぉぉぉ!〉

〈ハヤテとエレーナの前から消えて〉

〈ふたりの邪魔すんなよ〉

〈西園寺系列の株を捨て値で売りました〉

〈俺もそーしよっと〉

〈日紗斗、絶許〉

〈俺たちを敵に回したな〉

〈ひひひ。後悔させてやんぜぇ〉


 颯の味方になるのは、配信を見ている視聴者たちだけではなかった。


「撤回しなさい。ハヤテは乗り気じゃなかったのに、あんたを助けてくれたの」


「な、なんで……。なんで玲奈は、こんな奴の味方をするんだ!?」


「なんでって。それは、私の。か、彼氏だもん!」


〈ふぉぉぉぉおおおおお!?〉

〈ハッキリ宣言しよった〉

〈いいぞぉエレェェェナァァァ〉

〈我々は君たちふたりの味方だ〉

〈何があっても見守ってるぜぇ!〉

〈末永くお幸せにぃぃぃ〉


「う、嘘だ! そんなの僕は認めない!」


 日紗斗が激しく取り乱す。


〈お前の許可なんて求めてねーよ!〉

〈全世界が認めてんだ!!〉

〈そーだそーだ!〉

〈東雲財閥総裁も公認だぞ〉

〈おめーの出る幕じゃねーんだよ〉

〈かっえーれ! かっえーれ!〉


 明らかにアウェイ。

 しかしそれが伝わらないのが問題だった。


「わかった。ハヤテとか言ったな? 僕と勝負しろ。どうせここまで来れたのだって、玲奈のおかげなんだろ。そんな奴、玲奈に相応しくない!」


〈は?〉

〈自殺志願者かな?〉

〈やってみろ。後悔するからw〉

〈まぁ、それで諦めつくっしょ〉

〈ハヤテさーん。殺っちゃって〉

〈ヤっちゃってほしいけどさww〉

〈その漢字はダメだろww〉


「PVPしろって、ことですか?」


「そう言ってる。バカなのか?」


「まぁ、いいですけど。貴方武器ないですよね?」


「お前のを寄越せ。そのくらい分かるだろ」


 高圧的な日紗斗の態度に、颯はイライラしながらも双剣を手渡した。


「あぁ。それからお前は武器は使うな」


「は、はい?」


「当然だろ。僕は西園寺財閥の次期総裁。この日本を導く存在なんだ。そんな僕に刃物を向けて良いわけないじゃないか」


 この理不尽な言い分にコメント欄は大炎上する。


〈うざぁぁっぁぁあいい〉

〈日本を導く存在なんだ キリッ〉

〈やめろやめろやめろ〉

〈ハヤテ、今すぐそいつをブチ〇せ!〉

〈もう殺っちゃっていいよ〉

〈俺ら日本国民がそれを許可する〉

〈いや、でもこれ警察も見てる〉

〈そ、そうだな。殺しはまずい〉

〈じゃあ半殺しだ!〉

〈百回くらい半殺せ!!〉


「……分かりました。じゃあ俺は武器を使いません。それから、どこをどう攻撃するかも教えます。それで良いですね?」


「ほぉ。分かってるじゃないか」


「その代わり、もし俺に負けたらもう二度と玲奈に近づかないでください」


 颯が背中からマニピュレータを取り外した。

 その様子を見て日紗斗は笑みを浮かべる。


「良いだろう。逆にお前が負けたら、装備やアイテムなど全て僕がもらう。もちろん、玲奈もだ!」


「玲奈は景品じゃありません」


「うるさい! 僕に口答えするなって言っただろ!!」


〈最高レベルまで強化された双剣 vs 素手?〉

〈え、ヤバくね?〉

〈ちょっと勝ち目が見えないんですが〉

〈だ、大丈夫かな〉

〈なんとか、なるよね?〉


 そんなコメントが書き込まれるが、視聴者たちは誰も颯の心配などしていない。


〈素手と双剣装備の対戦だと…〉

〈ハヤテやりすぎちゃわない?〉

〈武器持ってた方が手加減できたな〉

〈素手だから本気出しそーな予感〉

〈殺すのはNGだぞー〉

〈半殺しにしておきなさい〉

〈まぁ、ハヤテならその辺上手くやるだろ〉

 

「それじゃ行きますね。俺は貴方の『顔面』を『右ストレートでぶっ飛ばします』」


〈ほんとに宣言しやがったww〉

〈右 ス ト レ ー ト で ぶ っ 飛 ば すww〉

〈えげつねぇな〉

〈やっちゃえハヤテ!!〉



 あえて遅いスピードで颯が日紗斗に突撃した。


「ふん。そんな速度でこの僕に──」


 日紗斗が剣を振るう。


 颯はそれを最小の動きで回避し、右の拳を叩き込む。


「ふべらごふっ!!?」


 颯の強烈な右ストレートが顔面に突き刺さり、日紗斗の身体は何度も地面を回転しながらダンジョンの壁際まで吹き飛んでいった。


〈888888888〉

〈8888888888888〉

〈さいっこうでした!!〉

〈んぎもち゛ぃぃぃいい!!〉

〈本当に右ストレートwww〉

〈相手刃物持ってんだぞwwww〉

〈マジでぶっ飛ばしやがったww〉

〈死んでないかな?〉

〈大丈夫だろ〉

〈いざとなったら蘇生薬がある〉

〈あっ、そっか!〉


 颯は玲奈を物扱いされたことに我慢が出来なかった。


 だから最悪は蘇生薬をひとつ使うことになったとしても、一般人として最大の力で日紗斗をぶん殴ることにしたのだ。


 結果、日紗斗は何とか生きていた。

 それを確認した颯が玲奈に話しかける。


「さて、トロフィー回収したし帰ろうか」


「うん! 帰ったら、約束忘れないでね」


「はーい。もちろん覚えてるよ」


 颯が右手で日紗斗の足を掴んで、反対の手は玲奈と繋いだ。


 そうして泉のダンジョン踏破者である彼らは、地面にトロフィーを引き摺りながらボス部屋から出ていった。





───────────────────────


【あとがき】


本作を閲覧頂き、ありがとうございます。

これにて第1章完結です。


そして本作ですが、書籍化&コミカライズが決定しました!!

ワァ───ヽ(*゚∀゚*)ノ───イ


私、木塚麻弥の書籍化2作品目です!

めっちゃ嬉しいっす!!

また情報公開できるようになったら、あとがきや近況ノートなどでご報告します。


現在、頑張って書籍化作業を進めております。

本になりましたら、是非お手に取っていただけますと幸いです。


まずはここまで閲覧していただき、誠にありがとうございました。

引き続き本作をよろしくお願い致します。


でわでわ~。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る