第030話

 

「ところで師匠。先ほど戦っていたのが俺を狙ってきた集団とのことですが、その目的は聞き出しましたか?」


 戦闘を終えた後、すぐにこっちに向かってきていたので普通なら敵から情報を聞き出す時間などないと思う。でも師匠この人は別。読心術が使えるから、戦闘しながらでも敵の情報を奪うことができる。


 俺が聞いたら一瞬ニヤッとしたから、情報を持っているのは間違いない。


「敵の目的か? もちろん知っておるぞ。だがそれを教えるには条件がある」


 出たよ。この人、昔から何かにつけて無理難題吹っ掛けてくるんだよな……。


 いちいち師匠のお願い聞くのも面倒だから、


「いいじゃないですか。教えてくださいよ。俺、昨日と今日でダンジョン3つもクリアして疲れてるんです」


 よし、読心術オン!


「お前はその程度で疲労などせぬだろ」


 一瞬でも意識させることができれば成功だ。


 こんな時期なので、おそらくダンジョン繋がりだろうと考え、その単語を口に出した。それが当たりだったようで、何人もの人が女神に連れ去られるイメージが頭に流れ込んできた。


 これが伊賀流読心術。


 読心術って言ってるんだけど、実は心の声を聞くわけじゃない。他人の脳内イメージを盗み見る技なんだ。共感覚に近いかな。


 それで俺は師匠が海外の特殊部隊員たちから盗んだイメージを更に盗んだ。


 状況からしてその人たちを救出させるため、俺を迎えに来たとかだろう。


「玲奈と付き合い始めたばっかりなのに、海外飛び回るのは嫌だなぁ」


「ハヤテ、何いってるの?」


「ん? ……はっ! お、お前、まさか儂に読心術を使いおったな!!?」


「いやいやいや、待ってください。ありえません! 伊賀忍者の頭領に読心術が効くわけないじゃないですか!!」


 玲奈の護衛をしている望月さんにそう言われるが、俺からすると師匠は比較的考えてることが分かりやすい。俺と精神年齢が近いからかな? 200年くらい生きてる師匠の精神年齢が俺と同じくらいって方がヤバいんじゃないかと思う。


 でもそんな人だから親しみやすく、今でも仲良くしてもらっている。


「まぁまぁ。とりあえず俺がやらなきゃいけないことは分かったんで、後は東雲さんや玲奈と相談して決めますね」


 困っている人がいるなら助けに行かなきゃ。それが俺の知名度を上げることに繋がるし、お金も稼げるかもしれない。


 東雲グループの調査により、世界中でトロフィーにさせられた人の傾向は分かっていた。アイドルの様に多くの人から愛されてる人が攫われたわけじゃない。玲奈もかなりの人気者だったが、動画配信サイトの視聴者登録者数は60万人程度。彼女よりもっと人気のある配信者はいくらでもいるんだ。


 それでも玲奈が日本関東エリアのトロフィーに選ばれた。


 つまり本人の人気だけじゃなく、その人物を何としても守りたいと考える存在が、どれだけの力を有しているかもトロフィー選出の基準になっているみたいなんだ。


 その分かりやすい例が、アメリカ合衆国大統領の娘さん。彼女はハリウッド映画とかでも活躍する女優で、人気者かつ親が権力者。女神がターゲットにしようとするのも納得できる。


 とはいえ、俺が全部のトロフィーにさせられた人を助けに行くのはしんどいなぁ。


 だいたい5千万人に1人の割合で各国のダンジョンに人が連れ去られているらしい。今この世界の人口って90億人近いから、およそ180人も助けなきゃいけない。


 180人かぁ……。


 マジで全員は無理だぞ。



「困っておるな。そんな颯に朗報だ」


 しまった。今度は俺が師匠に心を読まれた。


 俺が師匠の考えていることを読みやすいように、師匠も俺の考えが良く分かってしまうらしい。


「伊賀忍の頭になれというのは一旦保留にしよう。まず儂の推薦を受けて上忍になれ。さすれば数百人の中忍や下忍を指揮できる。お前が指導すれば、そやつらが第3等級ダンジョンをクリアするのは容易いだろう」


「なるほど。俺が180人助けるために世界を駆け回るより、ずっと早そうですね」


「儂の提案に乗るのであれば、肩書は特別上忍ということにしてやる。護衛のノルマなどはない。もし可能なら、東雲から受け取れる金の一部を里に回してくれると助かるがな」


 忍って、ほんとに資金難なんだな。


 まぁそれは置いといて、中忍クラスを数百人も動員して良いなら何とかなる気がする。とりあえず、どんな武器を使ってもらうのが良いかなー?



 ……あっ、そうか!


 ここで俺はあることを思いついた。


 俺が大好きなアレを、数百人に普及するチャンスだってことに気付いてしまった。


 ほんとなら他人の武器を指定するのは、あまり好きじゃない。だけど最短でトロフィーにさせられた人を救いに行くなら、俺の動きを完全にトレースしてもらうのが一番手っ取り早い。伊賀の中忍ならできちゃうと思う。そこそこレベルのダンジョン攻略者を数百人も量産できるんだ。


 アメリカ大統領の娘さんとか、特に注目されてそうな人は俺が助けに行って知名度を上げさせてもらうとして、残りは全部お任せしよう。



「なんかハヤテ、楽しそうだね」


「そう見える?」


「ニヤニヤしてた。さては中忍さんたちに四刀流使わせようとしてるんでしょ」


「えっ」


 玲奈さん、もしかしてあなたも読心術使えちゃうんですか?


「ハヤテが四刀流関連で何かしようとしてる時、口角が少しだけ上がってるの。やっぱり自分じゃ気付いてなかったんだね」


 ……まじ?


 近代式忍術を会得した俺が、意図せず表情を誰かに読まれるなんてある?


 いや、でも玲奈が言うならそうなんだろうな。


 今後は気を付けよう。



「師匠。これから玲奈や彼女のお父さんと相談しますが、俺としては師匠の提案を受けようと思います」


「そうか、わかった。では儂は世界中に散っておる中忍たちに声をかけておく。指導方法は前にやっていたオンラインので良いな?」


「はい。師匠が俺にしてくれた方法でやります」


 アレはかなりきついけど、中忍ならたぶん耐えるでしょう。



 ハヤテ式四刀流の超短期修得コース、初開催だ!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る