7.戯作者はつらいよ②

「コーヒー二杯で七八〇円になります」


 レジを打つお姉ちゃんの視線が痛い。

 そりゃあそうだろう、と高橋は店を出ると煙草に火をつけた。

 ニコチン、タールともに最小限の軽いものを愛用している。

 煙草なんてものはね、ポーズですよ。格好つけるために吸うんです。

 まぁ、その割には喫煙者は肩身が狭い世の中になりましたよねぇ。煙草一箱かうのにも、自販機は専用の登録カードがなければ買えないし、コンビニに行ってもわざとレジの裏に隠すようにしておかれている。あれね、行きつけの店なら大体何番かで欲しい種類がわかるけど、店によって違うんだよね。初めての店でさ、あれないかな? あれはどこにあるんだろう? ほら、あれだよ、あれ何番かなーって、背伸びしてレジの向こうをのぞき込んでいるのはまさしく挙動不審者のそれでさ、俺ってば何回も変な目で見られたぜ。なぁ、二宮よ――お前はどうやって煙草を調達しているというのか。ネット通販か、そうですか……。


 さて、と高橋は向き直ると話を切り替える。

 そもそもこの業界に入るまで、俺は本なんてろくに読んだことはなかった。そもそも活字が嫌いだった。学校の教科書も読まなかったのは言うまでもない。活字だけじゃない、文字そのものを追うのが苦痛だった。ましてや手書きのなんて書いてあるんだかわかりゃしない、そんなものなどまっぴらごめんだった。


 本を読むなんてのはね、それこそインテリというか特定階級の人々のやることですよ、と思う。まぁ高橋はそもそもその「インテリ」の意味するところすら怪しかったのだけれども。そんな男でもなんとか会話に使えてしまう言葉……ああ、日本語って素晴らしい。


 思えば漫画もろくろく読まなかったなぁ、なんて高橋は思い返している。

 いま流行っているの、なんだっけ?

 『壊滅の刃』とか『感激の巨人』とか、そういうの。後者はこの間連載が最終回を迎えたとかっていうんでニュースにもなっていたな。漫画ごときでニュースですか。


 で、ネット全盛の今でしょ。

 すーぐに掲載された雑誌のページをウェブにUPしちゃうのがいるんだ。

 そういうのは取り締まりも厳しくなっているとは言うけれど、法っていうのは必ずどこかしらに抜け穴があるようで、巧みにすり抜けてきやがる……。俺たちの作ったビデオも、きっとネットのどこかには違法アップロードされているんじゃないか……ほら、あるだろ、「アハハ動画」とか、そういうの。


「いやぁ、検索してみたけど、一件もないよ、アンタのビデオ……」


 なんかそれはそれで屈辱だな。誰も注目してないってことだろ。

 あと、今の時代にVHSっていうのがもう時代遅れなのかもしれない。

 時代はDVD、ブルーレイディスクですよ。それだけの解像度に見合った映像を撮らにゃならん。そして筋だ。今日日のクリエイターは大変ですなあ。

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