親友はこっくりさん

持木康久

プロローグ (7月12日 雨)

 夕焼けの真っ赤な光が教室に大きな影を落とす。

 つい先ほどまで降っていたはずの雨はいつのまにか上がり、窓に光る雨粒だけがこの朱く美しい世界が以前からこの世に存在していたことを証明しているようである。

 先ほどまで子供たちの笑い声が聞こえていたはずの廊下も、今は別世界かのように朱と静寂に包まれている。

 少年は誰もいない教室へ視線を戻す。

 静寂の中、教室に鳴り響く時計の秒針の音だけが時の流れを感じさせる。

 少年は机の上に置かれた古い紙と硬貨へ視線を落とした。

 彼はそれをしばらくぼんやりと見つめると、汚れた硬貨を紙に描かれた朱色の鳥居の上へ滑らせ何かをつぶやく。

 硬貨は夕焼けに朱く染められた紙の上をゆっくりと動き、そして、止まる。

 少年は小さく息を吸い、消え入りそうな小さな声でつぶやく。


 「こっくりさん、こっくりさん、僕にもみんなみたいに友達はできますか」


 夕焼けに染められた雨粒が一つ、静かに落ちた。

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