第7話 乱暴な計画

 休憩の間、僕は思いついた幾つかの案を考えては結果を予測するということを、頭の中で繰り返していた。

 そして、最後にたどり着いた案は少し……いやっ、かなり乱暴だった。

 また、その案を実現するためには、味方をしてくれる人たちの情報を知る必要もあった。


 「シャル、味方をしてくれる人たちを把握したいから、皇族派閥とユナハ領について知りたいんだけど?」


 「はい。まず、皇族派閥ですが、ユナハ領とその貴族、カーディア王家に仕えてた貴族が中心で、代表はユナハ伯爵自治領領主、エンシオ・フォン・ユナハ伯爵です。私の叔父になります。ユナハ領には爵位を取り上げられた元貴族たちの多くが移り住んでおり、その者たちも支援してくれています」


 「なるほど。皇族派閥の多くはユナハ領にいると考えていいんだね。一つ疑問が増えたのだけど、シャルの叔父さんなら公爵だよね? レイリアさんがカーディア帝国の説明ををしてくれた時は『ユナハ公爵自治領』だったよね?」


 「ええ、帝都にはユナハ領からの代行や出向しゅっこうの方々が数人来ているくらいです。それと、ユナハ領のことですが、カーディア帝国の階級制度や奴隷制度などの政策方針に従わなかったことで、皇帝の意向を無視したと伯爵に下げられました。ですから、今ではユナハ伯爵自治領と改名され、六五パーセントの重税を強いられています。ですが、領内は以前と変わらぬ体制を守り続けています」


 「ろ、六五パーセントォォォ!!!」


 あまりにもふざけた税率に叫んでしまった!

 そんな僕を、皆は気まずそうな顔で見つめる。

 ゲームでは、そんな税率を設定したなら領地経営が成り立たない。それどころか、いつ暴動イベントが起きてもおかしくない。

 逆に、ユナハ領主の経営手腕の優秀さに驚かされてしまう。

 僕の税金の知識なんて、ゲーム上での架空のものでしかないけれど、それでも、税率が高すぎれば、お金を使わなくなり、経済が低下してしまうことくらいは分かる。

 僕のすべきことは決まった!


 「これから話す事は、解決策と呼べる代物ではないですが、聞いてくれますか?」


 「「「「「はい!!!」」」」」


 彼女たちの勢いに圧倒されそうだ……。

 僕は話す。その乱暴な計画を……。


 「まず、儀式に関してはミリヤさんの提案通りに、神鏡が儀式中に割れたことにより、儀式が中断されたため、ユナハ領の神鏡を使って儀式をやり直すことを議会で報告し、鏡が割れた理由を追及された時は、老朽化で儀式の際に発する魔力に耐えられなかったことにします」


 彼女たちはフムフムと頷く。


 「そして、婚約に関しては、儀式後の結果を踏まえてから発表することにします。これで、議会に参加する貴族たちと宰相たちも納得するでしょう。これは表向きですけど、皆さん、ここまではいいですか?」


 彼女たちは黙ったまま頷いた。


 「ここからが本質です。議会前に皇族派閥や味方の方たちをユナハ領へと移します。不審がられた時には、ユナハ領に皇族が来て儀式を行うのに、重税を課せられているユナハ領では人手も資金も不足するので、そのための支援に行くのだとでも言えばとがめられないでしょう。そして、議会閉会後には帝都に残るシャルたちの関係者がいないことを確認し、残っていた者には、僕たちがユナハ領へ向かう時に従者として着いて来てもらいます。ということで、皆で仲良く、帝都から逃げ出しちゃいましょう!」


 「「「「「!!!!!」」」」」


 「フーカ様、そんなことが出来ると、本気で思っているのですか?」


 「そうです。もし、逃げ出せたとしても連れ戻されるに決まっています!」


 レイリアさんとケイトさんから、続けざまに反論が来た。

 僕は二人を手で制して、話しを続ける。


 「僕たちがユナハ領の首都に到着したら、ユナハ伯爵自治領を独立させ、『ユナハ国』建国を宣言します。まあ、到着直後は無理でしょうから、準備のための時間を稼ぐ必要があります。それに、詳細な計画立案、協力者と周辺諸国への水面下での根回し、独立後の防衛のための軍備、帝都から移る人たちの仮住かりずまいの準備とか、やることが多いのに時間はありません。かなり大変だと思いますが、今の状況を打開するには、この案くらいしかないと思います」


 彼女たちは眉間に皺を寄せて悩みだす。


 「皆さんでどうするかをよく考えてから決めて下さい。アンさん、ここで休憩にしましょう。」


 「はい、かしこまりました」


 彼女は、そう言うとお茶と軽食の準備をしてくれた。




 皆はシャルを中心にして、お茶や軽食を口にしながら相談を始めた。

 かなり揉めている様にも見えたが、軽食を食べ終わる頃には結論が出たようだ。

 シャルは僕に向かって姿勢を正すと、皆を代表して口を開く。


 「フーカさんの案には賛成です。ですが、私たちだけでは難しいので、あと二人……いえ、三人にも、この計画とあなたの素性を話すことを承諾してください。そのうちの二人は直ぐに呼べますので会って下さい。そして、叔父様たち主要な者にもあなたの素性を伝え、他の者たちには計画だけを伝えます。その後、全ての者に素性を話すかはフーカさんにゆだねます。最後に、この質問をするのは私たちの我がままでしかないのですが、ここに取り残される国民はどうするおつもりですか?」


 正直、僕もここに取り残される国民に対して気に病まなかった訳ではない。

 だが、今の帝国でのシャルたちの立場は弱すぎる。

 僕の素性を明かしたうえで、シャルたちに味方をすれば、シャルたちがこの国で政権を取り戻すことはできるだろう。

 しかし、政権を取り戻しても議会が腐敗の原因となる貴族たちに掌握されていては何もできない。


 「シャルはこの国の政策や体制について、どう思っているのか聞かせて?」


 「今の政策や体制は、有力貴族たちの都合に合わせて作り替えられていると思います。彼らと、それに従う者たちだけが得をしています。有力貴族の後ろ盾があれば貴族だけでなく商人や士族、平民ですら罪を犯しても、裁かれません。力のある者に力が、富のある者に富が集中する仕組みになっています。これを正すには有力貴族の意識改革か排除が必要だと思います」


 彼女は苦悩の表情を浮かべながら話した。


 「僕は有力貴族の意識改革は手遅れだと考え、排除のみに絞りこんだ結果、体制を壊してやり直した方が、時間をかけるよりも国民への負担が少ないと思う。皇族派閥がなくなれば、派閥同士の均衡が崩れるし、隙もできる。そして、ユナハ国という外敵ができることで、大貴族派閥と元老院派閥はそれぞれが起こした国を優先し、新教貴族派閥はハウゼリア新教国と結託けったくしやすくなる。これで、敵の姿がハッキリと見えてくると思う」


 皆は真剣なまなざしで、黙ったまま僕の話しに耳を傾けている。


 「それで、ここからは心理戦? というかこじつけなんだけど、皇帝になるはずだった皇女殿下が故郷で国を起こし、祖国に残してきた臣民開放のために発起ほっきしたと宣言すれば、残した国民からの信頼を得られ、三大派閥の悪役が出来上がる。これは、僕の憶測だけど、今の国民は悪政の影響で善悪の基準がズレているから、差別、奴隷の存在、権力への固執は当然だと考えてしまうと思う。彼らに意識改革をさせるには、苦痛や苦労を味わってもらうことで、道徳観や倫理観などを自分たちの頭で考え、認識する必要があると思う。といっても、上手くいくかは分からないから建前でしかないけれどね」


 「フーカ様、凄いです! 私は騎士なので、そんな考えは思いもつきませんでした!」


 レイリアさんは目をキラキラさせて僕を見つめるが、全然、褒められてる気がしない。むしろ、心をえぐられた感じだ。

 そして、彼女たちはクスクスと笑いながら個々に頷いている。

 僕の意見は認めてもらえたようだ。


 「国民に関しては分かりました。私も異論はありません。それで、三人の協力者についてはどうしますか?」


 シャルはレイリアさんを困り顔で見つめてから、申し訳なさそうに話しかけてきた。


 「うん、素性は話して構わないし、二人とも会うよ」


 「ありがとうございます。では、そろそろお昼ですし、昼食にしましょう。その間に二人を呼びに行かせますね。アン、お願い!」


 「はい、かしこまりました」


 僕は、室内がカーテンで薄暗かったこともあり、今が昼であることに気付いていなかった。

 そのことに気付いてしまうと、日本でも数日が過ぎているのだろうか? 家族は心配しているのだろうかとナーバスなことを考えてしまう。




 しばらくして、数人のメイドさんが部屋に入ってくると、部屋にある大き目のテーブルに人数分の料理が運ばれてくる。

 パンとスープにサラダとローストビーフが並べられ、ワインと水のピッチャーが置かれた。


 僕も皆と食事をするためにベッドから出る。

 身体は動かせるようになっていたが、まだ、力が入りにくい。

 僕が少しよろけると、アンさんがすかさず僕の身体を支えて、テーブル席まで付き添ってくれた。


 「アンさん、ありがとう」


 「無理だと思ったら、直ぐにお呼びください」


 「うん、そうする」


 彼女は僕に微笑んでから、離れて行った。


 僕は、ナプキンを膝にかけようとしたところで、とんでもないことに気付いてしまった。

 ピンク色の薄く透けた生地に、ところどころに可愛いフリルが付けられたネグリジェを着せられている。

 貴族の服ってフリルが付いてるイメージがあるけど、これは違うよね……?

 彼女たちは僕を見ても何も気にせず、席に着いていく。


 「コホン。あのー、僕は、何故、こんな服を着せられているのかな?」


 「フーカさんが、昏睡状態ったったので看病しやすい服装に着替えさせていただきました。とても似合ってますよ!」


 シャルは当たり前のように答える。


 「シャル、僕、男なんだけど……これ、女性の寝間着だよね?」


 自分の姿を見直すと、ネグリジェにボクサーパンツという奇妙? 変態? な恰好かっこうが恥ずかしくてたまらない。


 「えぇぇぇ!!! ……あれ?」


 レイリアさんだけが叫ぶが、周りがシレッとしていることに戸惑っている。


 「男性の寝間着を用意してもらえますか?」


 「ダメです!」


 僕が男物を頼むと、レイリアさんが断る。


 「えっ? レイリアさん……?」


 「とっても可愛いじゃないですか! 似合っているのだから男性なはずがありません。私はフーカ様が男性などとは認めません!」


 「いや、いや、いや! 僕は男です。証拠を……見せるわけにはいかないけど、男なんです。」


 「私だけが気付いていなかったのが、……悔しいんです!」


 そんな理由で認めてもらえないって……。


 「皆さんは気付いていたんですよね? どうしてこんな仕打ちを?」


 「私はフーカさんと長く会話をしていましたので、途中から仕草などから気付きました」


 シャルが答える。


 「先ほどフーカ様の身体を支えるまで、気付きませんでした。ですが、フーカ様の重心がおへその辺りでしたので男性と気付きました。女性でしたら重心はお尻にきますので」


 そして、アンさんが続いて答えた。

 アンさんの重心で男女を区別した能力に驚かされてしまう。


 「私は医師ですし、フーカ様の診断をしたのですから知っています。フーカ様の容姿をみて、女性にしておいた方が面白いと思っただけです」


 犯人は、おまえかぁぁぁ!!!

 僕はケイトさんを睨みつけるが、彼女は素知らぬ顔で話しを流そうとしている。

 彼女に文句を言おうと少し前屈みになったところで、ミリヤさんが話し始めてしまい、僕は言葉を飲み込んだ。


 「私は口付けをされた時に、フーカ様の記憶が流れ込んできたので気付いて……知っていましたと言ったほうが正しいですね」


 「「「「「!!!!!」」」」」


 僕たちは愕然とするしかなかった。


 「ミリヤ、フーカさんの素性も知っていたのですか?」


 「はい、おぼろげな感じですが理解は出来ました。でも、黙っていたほうがおもしろ……コホン、黙っていたのはフーカ様と姫様たちの信頼関係が構築されるべきだと思ったからです。」


 「そ、そうですか……」


 彼女たちは、ミリヤさんを何とも言えぬ目で見ている。

 僕は信頼するべき相手を間違っていないよね……。とても不安になる……。


 「とにかく、男性の服を用意してもらえますか?」


 「フーカ様、そのままでお願いします!」


 レイリアさんが、おかしなお願いをしてくる。


 「はっ?」


 「次に来る二人が気付くかを試したいのです! お願いします!」


 「それって、僕が恥ずかしいだけだよね!?」


 「フーカ様に危害が及ぶときに助けてあげられるのは私だけですよね! 私のお願いを聞いておくと得だと思うのですが?」


 「ず、ずるい!」


 レイリアさんに押し切られそうだ……。


 「フーカ様のサイズに合う服を見つけるのは、時間がかかると思いますよ」


 ケイトさんが援護射撃をしてきた。

 この人は面白そうだからに決まっている。


 「分かりました。サイズの服が見つかったらすぐに着替えるからね! アンさん、なるべく早く探してもらえますか?」


 「はい、かしこまりました」


 シャルとミリヤさんは僕たちのやり取りを楽しんでいるようだった。


 そして、僕は彼女たちと共に、食事を楽しんだ。



 ◇◇◇◇◇



 扉がノックされると、黒色の軍服に身を包んだ背の高い、黒髪をショートにしたイケメンと、白と青の二色を使った貴族服に、茶髪のショートで少し男前な面立ちの美女が部屋へと入ってきた。


 シャルが二人の所へ向かうと、彼らは彼女に片膝をつき挨拶をしていた。

 そして、三人だけで話し始める。

 時折ときおり二人の視線を感じたので、シャルが今までの経緯と事情を説明していることが分かった。

 僕は三人の話しが終わるのを、レイリアさんたちと会話をしながら待つ。

 会話といっても、レイリアさんの「彼らは気付けるでしょうか?」といったものだった。


 シャルと話し終えた二人が僕に向かってくる。

 真剣な面持ちなのでこちらまで緊張してしまう。

 二人は、そばに来ると片膝をつき、女性から挨拶を始めた。


 「イーリス・フォン・ラートと申します。ユナハ伯爵自治領領主代行を任されてております。フーカ様にお会いでき、光栄にございます」


 「シリウス・フォン・シュバルゼと申します。近衛騎士団団長をしております。よろしくお願いいたします」


 シリウスさんは僕をあまり見ないようにしているのが分かる。

 よく考えれば、女性がネグリジェ姿で男性の前に出るわけがない。

 彼の紳士的な態度に、申し訳ないと後悔の念に駆られた。

 視界の端に、レイリアさんが満面の笑みで小さくガッツポーズを取るのが見えた。

 他の面々も少し口角が上がっているのが分かる。

 さらに、彼に対して申し訳なく思う。


 二人も空いているテーブル席に着いた。

 アンさんが僕に女物の羽織る物をかけたあと、皆にお茶を出す。

 少し間をおいてから、イーリスさんが話しを切り出してきた。


 「フーカ様、ユナハ国の建国までの流れについて異論はありません。こちらでも、ユナハ伯爵に使者を送り、急ぎ準備にかかります。ただ、いくつか明確にしておきたい事があります。よろしいでしょうか?」


 「僕に答えられることでよければ、聞いてください」


 「では、国名をユナハ国にするとのことでしたが、王国または聖王国と名付けないのは何故でしょうか? 周辺諸国から下に見られる可能性は考えておられますか?」


 「国民のための国に王国や聖王国をつける必要はないと思うし、名前で優劣を決める国を重視する必要もないでしょう」


 「なるほど。もう一つ、この質問は漠然としていてずるいと思いますが、ユナハ国をどうしていくおつもりですか?」


 難しい質問だ。確かに、理念も理想もなく建国すると言われても困るだろう。


 「経済国にして他国から攻めにくい立場を作り、専守防衛をかかげ、自国から無暗に戦争を起こさないように抑制し、軍の存在も攻めることではなく守ることに重点を置き、できれば、国のためでなく国民のための軍隊になるのが理想です」


 「なるほど。戦わずとも強い国、素敵ですね。難しい理想ですが、私は気に入りました。フーカ様の助けになれるよう、精進したいと思います」


 シリウスさんが手を挙げる。

 僕が彼に視線を向けると、発言を始めた。


 「フーカ様の理想は私も嫌いではありません。ですが、現実では、武勲のあげられる機会が減ると、軍属はついてこないのでは?」


 「そもそも、武勲をあげるという行為が戦いを招くから、災害や他の害から国民を護ること、救助することこそが功績をあげられる体制に切り替えていきたいと思っています」


 「それでは軍が弱体化してしまいます」


 「仮想敵を想定した演習や同盟国との合同演習に、他国に拉致された国民の救出訓練など、特殊戦にも対応できるような軍になってもらいます。それに、災害時での救助から炊き出し、医療の提供、災害後の後始末もしてもらいますし、他の害の対応までさせられるから、今より厳しい訓練をさせられるのでは? それと、自軍の死傷者率も低くして欲しいです」


 「……それは、軍属の意識改革から始めないといけませんね。出来ると思いますか?」


 「僕のいた国の軍では出来ていますし、そうなってもらわないと僕の目指す、戦わなくても強い軍、他国が戦うのを拒む軍、国民から信頼される軍ができないんですよね」


 「……ははははは。贅沢な軍ですね! 私も精進せねばならないようです」


 シリウスさんも納得してくれたようだ。


 「待ってください! 国が建国されれば、国内を領地ごとに別けることになります。そうなると、フーカ様の理想とする軍は、領軍がかき集められて構成されるこの国の軍の考え方では無理だと思います。もしや、領軍を持たせないおつもりですか? そうなると、領の治安はどうなるのでしょうか?」


 イーリスさんが、驚いたように質問をしてきた。


 領軍? そうだった! 領地ごとに軍を運営するのは『ファルマティスの騎士』で、知っていたのに失念していた。

 特に領の治安維持にも関るから、その存在がないと無法地帯になってしまうので、彼女が心配するのも無理はない。


 「領地は別けますが領軍は必要ありません。その代わりとなる軍とは別の治安維持部隊を考えています。僕のいた国では警察と呼ばれていました。この警察を各領に配置して犯罪の取り締まりや抑止などに努めてもらいます。もちろん、災害時にも対応してもらいます。そして、警察の本部は国が管理することで国全体の治安向上を目指します。それに、軍も各領に駐屯地を造って配置することで、警察での対応だけでは困難と領主や各地域の長が判断した場合と緊急を要する場合に限り、駐屯軍が動ける体制にします。軍は軍の、警察は警察の職務をすることで、今までよりも職務の効率は上がると思います」


 「なるほど。確かに主要目的をわける事で領軍を持つよりも効率は良さそうですね」


 「それに、領主が謀反や寝返りを起こすことも防げますし、隣接する領軍の睨み合いもなくなりそうですね」


 イーリスさんは効率面から納得し、シリウスさんは物騒なことを捕捉した。

 何で、この世界はこんなにも物騒なのだろう……。

 それに、高校生の僕に政策を聞かれても荷が重すぎる。今までに読んだ本からの抜粋で、それらしく述べることしかできない……。

 そもそも、僕がこんな無責任に決めていい事じゃないよね? 大人相手にボロを出さずに通せたのにも驚きだが、二人が納得して協力を快く認めたことも驚きだ。


 「これって、国の理念や軍の方針だと思うけど、僕の考えることなの?」


 僕は部外者の自分が決めることではないと気付き、二人に尋ねてみた。


 「殿下が、この件に関してはフーカ様に一任されているとおっしゃっていましたが、違うのですか?」


 イーリスさんの発言で、シャルを睨みつけると、彼女は顔を逸らし、吹けない口笛を吹いて誤魔化している。


 「シャル!」


 彼女に声を掛けると、舌を出してテヘペロの仕草で、可愛らしく誤魔化してくる。 

 僕は、ファルマティスにもテヘペロがあることに驚く。

 そして、彼女から色々と押し付けられていることに頭を抱えた。


 「計画は僕の発案です。ですが、その後は皆で決めていくものだと思います。僕の知識が役に立つのならいくらでも教えますが、一方的に任されてもファルマティスを知らない僕には荷が重いです」


 「なるほど。それでしたら、私たちも全力でサポートいたしますので、一緒に頑張っていきましょう」


 イーリスさんはニコッと微笑んでくる。

 結局、押し付けられた気がする。

 僕が肩を落として下を向くと、レイリアさんが優しく肩を叩いて慰めてくれた。


 「陛下、大丈夫ですよ。私たちが付いています」


 「ありがとう。……ん?」


 一人称がおかしい!


 「ちょっと、レイリアさん! 陛下って何?」


 「えっ? ユナハ国を建国したら姫様とフーカ様がご成婚して、ミリヤ様を側室に迎えるのですよね? あっ、先走って陛下とお呼びしてしまいました。すみません」


 「いや、そうじゃないんだけど、どう突っ込んでいのか……」


 僕は頭を抱えた。


 パチパチパチ。


 皆がニンマリしながら拍手をしだした。シャルとミリヤさんも顔を真っ赤に染めながら拍手をしている。

 二人もなんで拍手してるの!?


 「ちょっと、お待ちください!」


 焦り気味にイーリスさんが流れを止めてくれた。

 彼女が救いの女神に見える。


 「殿下とフーカ様では女性同士の婚姻ではないですか! それではお世継ぎができません。もし、どうしてもというのなら愛妾あいしょうとして宮廷に迎えて下さい!」


 シリウスさんが同意する。

 僕は、論点のズレた話しが始まったことに頭を抱えた。

 レイリアさんだけはコクコクと頷き、喜んでいた。

 気付けなかった仲間ができて嬉しいのだろう。


 「申し訳ないのですが、僕は男です……」


 「しかし、その……女性にしか見えないのですが……」


 イーリスさんが困惑している。困惑されると僕も切なくなる。


 「面白そうだからこのままでとか、私だけが気付けなかったのが悔しいとか主張する人たちに着替えさせてもらえなかったんです……」


 僕は元凶の二人に目を向ける。イーリスさんたちは察したらしい。


 「レ、イ、リ、ア! ケ、イ、ト! 二人とも少しおイタが過ぎたようですね! シリウス、ここは私に任せますよね?」


 「はい、ご随意に!」


 「ありがとう! 今日はこの後がとぉぉぉっても楽しみだわ! 二人ともあとで私の所に来なさいね! あっ、これ、領主代行権限での命令よ!!!」


 イーリスさんが怖すぎる……。

 シリウスさんは苦笑していたが、アンさんは微笑み、シャルとミリヤさんは素知らぬ顔でお茶を飲んでいる。

 そして、二人は青ざめて、返事すらできないでいる。


 「フーカ様!」


 「はい!!!」


 イーリスさんに唐突に呼ばれ、思わず飛び上がるように返事をしてしまった。


 「フーカ様が男性であれば何も問題はありません。ユナハ国建国後に殿下との婚姻の準備にかかりますね。その後にミリヤとの婚姻の段取りを取りますので、ミリヤの側室入りは少し遅れます。ご理解ください! 本当なら、ボイテルロックに破談宣言したいのですが、計画に支障が出るといけないので我慢します。どうせ、滅ぼされることが決まった一族を相手にすることもありませんからね!」


 レイリアとケイトのせいで、おおごとになってしまった。

 二人のことをさん付けで呼ぶことはやめよう!


 「お言葉ですが、僕は元の世界に戻るつもりなのですが……」


 「大丈夫ですよ! お世継ぎを作っていただければ帰ってもかまいません」


 まだ、一六歳なのに結婚してパパになるの? 血の気が引く感覚をこれほど強く感じたことがあっただろうか?


 「……冗談ですよ! 私の知る伝承では、フーカ様はファルマティスと元の世界を行き来できるはずですから! こちらで既婚者、元の世界で未婚者だと気持ちの切り替えが大変でしょうから、元の世界でも早めに婚姻されることをお勧めします」


 何か重要なことを言われた気がするが、結婚と世継ぎを作る事を決定されてしまったことに頭がいっぱいで、何も考えられない。

 僕が呆けている間に、乱暴な計画の段取りとその詳細が詰められ決定していった。

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