第9話 モデル


 お母さんは役者業のことを聞いても何でも答えてくれるから、最近は色々と聞いている。


「お母さんってさ、いつから女優をやってるの?」

「私?私は……8年前かな?」


 随分前だな。

8年前って言ったら僕がまだ小学生の時か。


「レッスンはどんな感じだった?」

「楽しかったわよ?と言うか今でもしてるし」

「そうなの?」


 もうお仕事をたくさんもらってるのに?

この間お母さんが出演していたドラマを見てみたけど、とても演技も上手だった。


「そりゃそうよ。レッスンをしてないとだんだん演技力も落ちてくるしね」


 へぇ、そうなんだ。

てっきりもうレッスンはしてないと思ってたな。


「そうだ!今度一緒のレッスンに行ってみようよ!」

「えぇ……」

「嫌なの……?」


 嫌ってわけじゃないけど……。


「なに〜?私にみられるのが恥ずかしいの〜?」

「そ、そう言うわけじゃ……」


 はい、そうです。

図星です。全くのその通りでございます。


「……わかった。今度ね」

「やったー!」


 喜ぶお母さんを見ながらご飯を食べ続ける。

この生活にもだんだんと慣れてきて、普通に楽しめている。

実の親のことを考える時もときどきあるけど、もう悲しい気持ちにもならない。


 そういえば、茅野さんは簡単な仕事はできるって言ってたけど、どんな仕事なんだろう。


「お母さんの最初のお仕事ってなんだったの?」

「最初?最初は雑誌のモデルさんだったかな」


 モデルさんか。

自分のポーズをいくつも持っているってよく聞く。

そういう練習もしておいた方が良いんだろうなぁ。


「ごちそうさまでした!」

「いっぱい食べたね。おかわりは大丈夫?」

「うん。お腹いっぱいだよ」


 どうしてこんなに上手に作れるのだろうか。

今度教えてもらおうかな。

料理なんてしたこと無いし。


 幸福感を噛み締めて、お母さんが作ってくれた自分の部屋に戻る。

自分のベッドあって、勉強机もある。

好きな本も買ったりするだろうからと本棚まで買ってもらった。

えっちぃ本は隠れて買ってね!なんていじられたが。


 もう夜遅いから今日は宿題をしてから寝よう。


 高校の授業にも余裕でついていけている。

元の家にいた時は勉強なんてできる感じじゃあなかったから、学校に残って宿題をして、分からないところは先生に教えてもらって基礎を固めていた。

だから、勉強はまぁまぁ得意な方だと思う。


 思ったよりも早く宿題が終わったから、この間買った本を読んでから寝よう。




    *    *    *




「こんにちは〜」

「おう。早速始めるか」


 今日でレッスンが始まってから一週間たつ。

レッスンの種類は音読や演技の動き、カメラの意識の仕方など様々でとてもおもしろい。


「急だが今日は響に初仕事を取ってきたぞ。モデルの仕事だ」

「おぉ……。初仕事……。よっしゃ!!」


 人生初仕事!

お母さんの初仕事と同じモデルの仕事。


「一応やるかどうかは聞かないといけないからな。やるか?」

「もちろんやります!」

「ははは!そうか!元気があってよろしい」


 そう言って茅野さんが僕と一緒に来ていた河合さんに目を向けると、河合さんが社長に報告してきます。と言ってレッスン室から出て行った。


 あれ?普通って仕事の話はマネージャーさんから知らされるんじゃないの?


「今回は河合に頼んで俺が仕事の件を言ったが、次からは河合に言ってもらうからな」

「はい」


 なるほど、そう言うことか。


「今日のレッスンはモデルのポーズの練習をするぞ。まずは自分の思う様なモデルっぽいポーズをやってくれ」


 実はポーズの練習は家でお母さんから習っている。

モデルの仕事はいつかするだろうから、早めに練習しておこうと思ってお母さんに頼んで教えてもらっていたのだ。


「……なんでできてんだ?」

「家でお母さんに一週間習ったので」

「いや……それでもこれは。七瀬に習ったらこうなるのか……?そんなバカな……」


 次々とポーズをしていく僕を見て、茅野さんはブツブツと何か呟いている。

お母さんには上手って褒められたんだけど、やっぱり一週間じゃ何も変わらないよね。


「あ、あぁ。そこまでで良いぞ。荒削りだが大体できているな。今日からは少しずつ磨いていくぞ」

「はい!」


 もう。お母さんも茅野さんもお世辞が上手いんだから。

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