第5話 オーディション?


 目の前にあるビルはみたこよがないくらい大きい。

何階建てなんだろう。緊張しながらビルに入る。


 七瀬さんとは玄関ホールで待ち合わせになっているけど、中を見渡しても見つからない。


 受付さんに聞いてみよう。


「あの、すみません」

「はい、どうされましたか?」

「七瀬光さんと待ち合わせをしているんですけど」

「七瀬光様ですね。少々お待ちください」


 一つ一つの言葉遣いや仕草が丁寧だ。さすがだな。


「ただいま来られるそうです。あちらでお待ちください」

「ありがとうございます」


 しばらく待っていると、七瀬さんがエレベーターから降りてきた。


「ごめんごめん!待たせたね。それじゃあ行こうか」

「はい!」


 エレベーターが上がって行くと同時に僕の緊張のボルテージも上がっていく。


「失礼します!」


 七瀬さんがドアを開けてくれる。

僕はその後に続いて入る。


 部屋の中には3人の女の人がいた。


「光、ありがとう」


 真ん中に座っている人は厳格な雰囲気を纏っている。

おそらく社長さん。左右の二人は秘書的な感じの人だろうか。


「は、はじめまして!」

「はじめまして、七瀬響くんね。私はこの芸能事務所を経営している五十嵐木葉いがらしこのはよ。よろしく」

「よろしくおねがいします!」


 やっぱり社長さんなんだ。

さっきから緊張で心臓がバクバク言ってる。


 人生でこんなに緊張したことなんてないよ。

まだ17年しか生きてないけど。


「ちょっと!木葉ちゃんったら硬くなりすぎ!響くんが余計緊張しちゃってるじゃん」

「七瀬さん!?」


 そんな言葉遣い社長さんにしちゃって良いの!?


「いや、だって緊張するから。面接なんて初対面の人と強制的に話さないといけない最悪なイベントなんだから……」

「社長が面接で緊張してどうするのよ」


 良いんだ……。て言うか、五十嵐さんコミュ障なんだ……。

芸能事務所の社長さんなのに。


「二人も自分の仕事に戻って大丈夫ですよ」

「「はい!ありがとうございます!」」

「まったく、自分の仕事に社員を巻き込まないで下さいって何度言ったと思ってるんですか」


 そう言いながら影井さんが部屋に入ってくる。

いつも通りのスーツ姿だ。


 さっきの二人はただ社長命令に従っていただけの社員さんだったのか。

社長さんは七瀬さんと影井さんに正座をさせられている。


「じゃあ、実質もう事務所に所属しているようなものだから事務所を紹介するわね」


 本当に挨拶をしただけで終わってしまった。


 事務所は大きなビルの中にあるだけあって、カフェやジムもあった。


 驚いたのはレッスン室の多さだ。

使う役者さんが多いのだろう。


 七瀬さんが母親になってからしかテレビを見たことがない僕でも、知っている役者さんもいた。


 いつかあんな有名な人とも一緒にお仕事ができたら良いな。




    *    *    *




「「ただいま!!」」


 家には七瀬さんと一緒に帰って来た。

毎週火曜日と金曜日、そして日曜日にレッスンに行くことになった。


 レッスンは楽しみだけど演技なんてしたことがないから心配だ。

リビングに入っていきながら、僕はずっと気になっていたことを聞いてみる。


「社長さんっていつもあんな感じの扱いなの?」

「違うよ。あれ?言ってなかったっけ。私とノラと木葉ちゃんは幼馴染なのよ」


 初耳だ。


 でも七瀬さんだけ若く見えすぎるような気がする。


「七瀬さんって何歳なんですか?」


 そう聞いてみると七瀬さんは振り向いて


「永遠の二十歳よ」


 と笑いながら言った。

義母とは言え、高校生の母親が二十歳って。。。

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