第3話 新たな生活


「おはようございます」

「うん、おはよ」


 七瀬さんが義母になってしばらく経った。

養子になると養親の姓を名乗るのが原則だったので、七瀬響という名前になった。


 この名前が嫌いだったので、七瀬という姓になった時、とても嬉しかった。

それを言った時、七瀬さんは複雑な顔をしていたが。


 僕は今日、新しい高校の手続きが終わって、初めて行く。

つまり、転校生として紹介される日だ。


「お〜。制服似合ってるね」

「ありがとうございます」


 新しい制服はブレザーだった。

中学の制服は学ランで前の高校は私服だったから新鮮だ。


 新しい制服は前の両親が持っていたお金で買うと言ったが、七瀬さんが全部買ってくれた。


「学校まで一人で行ける?」

「七瀬さん、何度も言いますけど僕は小学生じゃないですよ。何か特別なことがない限り高校生は一人で学校まで行けます」

「でも……」


 最近分かったことは、七瀬さんがものすごく異常なほどに世話焼きだと言うことだ。

毎日こんな感じである。


「大丈夫ですから。そろそろ行かないといけない時間なので行きますね」

「そう?行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます!」


 一緒に住み始めて、最初の方は行ってきますやただいまを言うことに慣れなかったが、最近は違和感なく言えるようになってきた。


 学校は徒歩10分程度のところにある。

学校に着くとまず職員室まで一人で行った———


 いや、行きたかったが迷った。

仕方なく通りすがりの男子生徒に道案内を頼んだ。


 とても親切で気さくそうな生徒だった。


「失礼します。今日転学する七瀬響です」


 そういうと職員室の奥の方から「あいよ。ちょっと待て」と返事をして男の先生が歩いてきた。


「おう、来たな。響でいいか?」

「はい、大丈夫です」

「それじゃ、響の担任になる佐野椿さのつばきだ。よろしくな」

「よろしくお願いします」


 よかった。雰囲気の良さそうな先生だ。

先生との挨拶の後、一緒に教室の前まで行った。


「呼んだら入ってきてくれ」

「はい」


 クラスメイトはどんな人だろう。

やっぱり都会だから、タピオカが好きな人が多いのかな。


「入ってきてくれ」


 そんなことを考えていたら、呼ばれたのでドアを開けて教室に入る。

全員に注目されるこの感じ、すごく緊張する。


「七瀬響です。よろしくおねがいします」


 そう言って頭を少し下げる。


 教室は静かなままだ。

もう少し話したほうがよかっただろうか。


 すると先生が助け舟を出してくれた。


「あー、朝学は質問タイムにするか。何か質問ある人」


 本当に良い先生だ。



    *    *    *



「よし、質問は終わりだな。響の席は窓側の一番後ろだ」


 そう言われて座りに行く。隣は空席。


 休み時間になると、たくさんのクラスメイトが周りに集まってきた。

その中には職員室まで案内してくれた男子生徒がいた。


「あ、朝の」

「おう、よろしくな。俺は「長沢巧ながさわたくみくんでしょ?」そうだけど、名前言ったか?」

「さっきの質問時間でみんな覚えたよ」


 前の家族の時はほめられようとして勉強を頑張っていたので、記憶力には自信がある。

僕の少ない特技の一つだ。


「すっげ!」


 周りのクラスメイトはやいのやいのと騒ぎ出す。

透にこの特技を言った時もこんな感じの反応だったな。


 透とは仲が良かったから今でも毎日連絡を取り合っている。



    キーンコーンカーンコーン



「お前ら座れ〜。転校生が来て盛り上がるのは良いが授業はちゃんと受けろよ〜」

「は〜い」



    *    *    *



 放課後


「響!親睦会も含めてカラオケ行こうぜ!」

「うん。ちょっと待ってね」


 巧くんとはすぐに仲良くなれた。

話しやすくて透に少し似ているところがある。


 光さんに新しい友達と遊びに行くことを連絡すると、すぐに『いいよ!楽しんでね!』と返信が帰ってきた。


 仕事中じゃないのかな……。


「そじゃ、行こう!」

「おう!」

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