第7話

「ガッシャーン」

 派手な音を立てて、自転車が倒れる。それと同時に、乗っていた優馬くんがコンクリートに投げ出されるが、なんとか着地したようだ。

「おい、大丈夫かよ」

 と浜田さんが心配しているような言葉をかけるが、彼女はお腹を抱えていて、今にも笑い出しそうだった。

 さっきからそんな状況が続いている。それを僕と五百木さんは遠くから眺めていた。

 ここはカラオケ店の外にある駐輪場だ。歌い終わった僕らは、外に出ると、なぜか優馬くんが自転車に乗れないという話題になっていて、それを検証しようと浜田さんが何度も優馬くんを自転車に乗せているのである。

 僕はそんな光景を眺めつつも、肩を落とし、申し訳ないような悔しいような気持ちで満たされていた。

「落込まなくていいよ」

 五百木さんが励ましてくれる。結局、まともに歌えなかった僕を見かねた五百木さんが途中から入ってくれて、曲を終えることができたのだった。

「久保くん、気を遣いすぎだよ」

 また五百木さんは遠くを眺めていた。そして、続ける。

「あの二人は優しいから、もっと素直になっていんだよ」

 それはまるで、自分に言い聞かせているようだ。

 僕は頷くと、スマホを確認する。時刻は五時を回っていた。今から向かえば、最後の映画に間に合うだろう。しかし、今日は諦めた方がいいかもしれない。どうせ明日は休日だ。公開初日にいけないのは残念だけど、仕方がない。

 そう思っていたとき、五百木さんがふと告げる。

「久保くん、今から映画見に行かない?」

 僕は耳を疑って、思わず、彼女の横顔を凝視してしまう。

「久保くん、本当は今日『光とは……』観に行きたかったでしょ」

 五百木さんがこちらを振り向いて、目があった。僕はすぐに視線を逸らし、頷く。

「ごめんね。あの二人も悪気があった訳じゃないと思うし、それに私が二人に教えてあげるべきだったね。でも気づくの遅れちゃった。今、久保くんがスマホ確認してたから、そういえば今日公開日だったと思って」

 彼女は心底申し訳なさそうな顔で、ペコリと頭を下げる。

「大丈夫。楽しかったから」

 僕は精一杯そう言う。すると、五百木さんが浜田さんと優馬くんの方へ歩いて行き、何やら話して戻ってきた。

「よし、二人に話しつけてきたから、映画館へ行こう!」

 そう言って、彼女は笑った。

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