第29話 京都でのイベント(前編)
イベント当日の早朝に長間川は新幹線で京都へと向かった。
社長はというとイベントに出展する代表者同士の会食のようなものがあり、
昨日のうちに京都へ行ってしまっていた。
京都へ着いたら、まず宿泊するホテルに向かい荷物を預けに行き、
そこで朝食を摂ってからタクシーでイベント会場へと向かった。
「あ~、どうします?お客さん?」
目的地のイベント会場まであと100メートルほどの地点でタクシー運転手の男性が
突然そう言ってきた。
「えっ、何がですか?」
「渋滞に混ざっちゃったみたいなんですよ、
普段はこんなに混むことないんだけどな~」
「わかりました。では、ココで降ります。」
「いや~、すいませんねぇー」
「いえいえ、もう歩いてすぐそこですし。」
会計を済ませて長間川はタクシーを降りた。
タクシーの前には自動車の列ができており、信号機が青色なのに全く動く様子は
なかった。
長間川は歩いて会場の方へ向かうと、この渋滞を作っていた元凶が
このイベントだということが分かった。何台もの車が駐車場入り口付近で
警備員などに誘導されながら一台ずつゆっくりと駐車場へと入っていった。
今までのイベントでもこんなに賑わったことなんてないのに..何でだ?
不思議に思いながら会場施設に近づいて行くと既に正面入り口の前には長蛇の列が
成されていた。そしてそこでも警備員がいて列を乱さぬよう取り締まってはいた。
長間川はあまり目立たぬよう関係者入場口からソロソロと入り受付の人から
ICカードを受け取り自分の会社の展示場へと向かった。
◇◇◇
展示会場は先日下見に来た時よりもスタッフが多く配属されていた。
長間川も自分の会社の展示場の前に来ると一人の関西弁男性に声をかけられた。
「あっ、長間川さんですか?」
「はい。えーと..イベントスタッフの方ですか?」
「あ、いえ。株式会社ケノン大阪支社所長の本田と申すものです。」
「これは大変失礼いたしました。私、本社の社長室秘書の長間川望と申します。」
二人は互いに名刺交換をした。
「いやぁ~、噂通り長間川さんはホンマべっぴんはんですね~」
「あ、ありがとうございます。」
何だろう..こんなに直球に容姿を褒めてもらえるなんていつぶりだろう..
長間川は少し顔を赤らめた。
「今日は僕以外にも四人ほど応援が来てますんでこのブースは僕らに任せてください。それと..平子社長はまだ来てはらないんですか?」
「多分、もうすぐ来られると思います。」
「そうですか。それにしても今回は来場客多いですよね、見ました?」
「確かに凄い人数でしたね。駐車場も500台は駐車できるって聞いたんですけど、
それもあと少しで埋まりそうでした。」
「なんで今回のイベントにこんなに人が押し寄せてるか分かりますか?」
本田は長間川に尋ねた。
「そうですね..前回のイベントでは見られなかった現象なので、
『今回初参戦の新企業に焦点が当てられている』もしくは前回のイベントから3年も経過しているのでその間に『我々の事業に興味を持つ人たちが増えた』
とかですか?」
「流石は本社社長室の秘書ですね~、分析がピカイチだ。
でも、正解はそんな複雑なことじゃないんですよ。」
「本田さんにはわかるんですか?」
「まぁ、来場客の動きを見てたらよぉ~く分かりますよ。」
..どう言うことだろ?
時計が午前9時を回ると出展会場入り口が急に騒がしくなり始めた。
奥からはメガホン越しに『押さないで!ゆっくり歩いてください!』と
警備員が警告している声が聞こえた。しばらくすると大量の来場者の
6割が一斉に同じ方向へ向かって走り始めた。
その先にあったのは株式会社ケノンの展示ブースだった。
「うわ..すごい人だかり..」
「わかりましたか長間川さん?
大量の来客の目的はあの会社さんが販売してるグッズらしいんですよ。」
はーん..そういうことねぇ..
「僕もここ最近までは知らなかったんですけど部下から教えてもらいまして、
あそこの会社いま流行りのVtuberっていうやつの会社なんですよ。
そんでそこのVtuberのグッズを売って利益を得ようって腹らしいんですよ。」
な、なんか言い方に棘があるなぁ
「長間川さんは知ってはりましたか?Vtuberってやつ」
「はい..一応」
「まぁ、僕もボロクソ言いましたけど実はあそこの会社のVtuberの配信を普段から見てるんですよ。あっ、これ秘密ですよ!」
「そ、そうなんですか..私も見てみようかなぁ..」
「是非みてください!僕のお勧めは亜熊辺亜ちゃんって子なんですけどあれは女性でも親しみやすいですよかなり!あのやんちゃさが個人的には好きですねぇ~」
「へ、へぇ~」
凄いなこの人..私だったらそんな話絶対に人前で出来ない..
でも..確かにベアさんは女性でも親しみやすい性格ではある。
「そうだ長間川さん!良かったらあそこの会社のブース行ってみたらどうですか?」
「え、でも..」
「ここは大丈夫ですって!敵情視察だと思えばいいんですよ!」
まぁ..『えいみんぐ!』のリベンジもできるかもだし行ってみようかな。
本田に背中を押され長間川はスプレイムの展示ブースへと向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます