第11話:一縷の望み


 ガンナーから皆様に悲しいお知らせがあります。


 なんと……昨日の夕食と今朝に朝食を抜きました。


「はあぁ……ひもじい……お腹空いたー……」


 お腹が空いて力が出ないー……。


 俺は店の中、いつもよりぐったりとカウンターの上で寝そべっていた。


「みっともないですってガンナー。二食食べてないだけじゃないですか……」


 ふゆりんが声を掛けてきた。台詞だけは強気だが、声色や表情は優れてない。素直にお腹空いたと言えばいいのに。


「あの野郎……手持ちがないなら最初からそう言えって……」


 借金二号。


 奴の素寒貧がじゃなかったら、今頃俺たちは飯にありつけていた。


 あの後何回も金を持っていないのか確認したのだが、本当に一切持っていなかった。どういう神経してチート買ったんだよ。


 どうにかして金を持ってこいと脅し帰したが、頼りなさそうだし正直期待できない。


 どうするっかねぇ……。


「……そういや、ルナティはどこ行った」


「外で剣の素振りしてますよ。しかもいつもより激しくやってます」


「どういう思考回路してんだよアイツは……。空腹という概念が存在しないのか?」


「安心してください。わたしたちには存在しているので」


「不公平な世界だ……」


 お腹が減り過ぎてこのままじゃ悟りを開いてしまいそうだ。


 とにもかくにもアクションを起こさねば俺たち死んじまうよぉ……。


「ふゆりーん。どうすればいいー? このままじゃ俺たち餓死しちゃうよー」


「そんな簡単に人間は餓死しないので安心してください」


「仮にそうだとしても安心で空腹は満たされない‼」


「はいはい考えてますって……はぁ、あんまりしなくないなー……」


「なにその反応。もしかして既に作戦考えついているのか?」


「ええ……まあ……」


「さっすがふゆりーん‼ じゃあなんでそんなに嫌な顔してるんだ?」


 深すぎる溜息を吐いて、ふゆりんは椅子に座った。


「チートって、こっちの世界の人からしたら馴染み深くないんですよね?」


「うん。転移者と関係がなければない程そうだろうな。チートを見たことない人も多い」


「なら、見世物にできるのでは?」


「チートを、か……」


 成程な。それは盲点だった。


「わたしのっ、このクラッカーだったりローションチートって、使いようによっては見世物として成立すると思うんです。転移者ではなく現地人向けに、街の中でチートを披露してお金を頂く。やる価値はあると思いますっ」


「言いたいことは分かった。それで、どうしてふゆりんはそんなに嫌な顔をしていたんだ?」


 苦悶の表情をして言うのを躊躇するふゆりん。そうはいかないと、俺は疑問を抱く純粋な少年の眼差しを送り続けた。


「こっ、この作戦っ‼ わたしが見世物になる以外の選択肢がないのっ‼」


 あっ、ふーん……。


「――よしっ‼ 採用ですっ‼」


「ほらこうなるー‼」


 そりゃそうでしょー。


 そんな面白そうな提案されて、拒否する方がおかしいもん。


「見世物である必要はあるのか?」


 そう言って入ってきたのはルナティ。訓練用としての普段着より薄手で動きやすい

ものを着ていて、手には木刀を持っていた。


「あっ、ルナティ。素振りは終わったのか?」


「ああ。いい汗をかいてきた。このままガンナーに抱きついてしまいたいくらいに」


「前後関係皆無じゃねぇか。ただ欲望を言っただけだろ」


 怖えぇよ。そのうち言葉にしないで行動に表してきそうで怖えぇよ。


「それで、見世物である必要性という話はどういうことですか? わたしが見世物にならなくてもいいってことですか!?」


「食いつきがいいのだな。ふゆりんは素直な子供のようだ」


「だから俺にはめられて借金背負ったんだな」


「グハッ‼」


 声をあげて、倒れ込むふゆりん。打ち上げられた魚のように、口から泡を吹いてピクピク震えている。


「容赦がないな」


「ふゆりんは不憫でドMだからこんくらいが丁度いいんだよ」


「人に勝手に属性を付け足さないで下さいっ‼」


 大声を出しながらすぐに立ち上がった。お前反応が忙し過ぎだろ。


「話を戻しましょう……。ルナティ、疑問に答えてもらえますか? 見世物である必要はあるのかって話です」


「構わない。ガンナー、今日はなんの日だ?」


「ん? なんの日?」


 なんの日って、祝日のことか?


 今日は…………あっ、そうか、そういうことか。


 やらせかって思うくらいドンピシャに当てはまっている。


「そういうことだ」


 俺が理解したのに気がつき、頷くルナティ。しかしふゆりんは分かっていない様で。


「……え? どういうこと……?」


「なんだふゆりん、知らないのか?」


「転移して二週間ばかりなんですが……」


 そういえばそうだったな。


 妙に馴染み深さがあるから、もっと長いこと一緒に居る感覚だったわ。


「えー。けど見世物になった方が面白くないか?」


「嫌でーすっ‼ どんな内容か知りませんが、見世物以外があるのなら断固反対しますっ‼」


「と、供述しているが」


「ぶーぶー」


 つまんねぇ選択しやがって。


 俺たちの中でチートを使えるのは転移者であるふゆりんだけだから、本人に拒否さ

れるとどうしようもない。


 妥協してやるか、俺たちは飯と金を手に入れる為にオリジンの中心地へと向かった。


 俺の店はオリジンの外れにある。


 だから自然と人工物の境界線っていう立地で人通りは少ない。そもそもオリジン自体が国の端っこに位置している以上、数あるチート販売店の中で最も立地が悪いと言ってもいいかもしれないな。


 じゃあなんでそんな場所に店を構えているのかって?


 そりゃ家が安かったから。それ以外にこんな場所を選ぶ理由はない。


 まあそんな訳で俺たちはオリジンの中心へと歩いていた。端っこの街とは言っても、不便なく生活できる程度には栄えている街だ。年老いて隠居したくなったらピッタリの街かもしれない。


「あれ? 店みんな閉まってますね。お昼時なのに」


 ふゆりんの言う通り、見える限りの店は全部休業していた。八百屋や魚屋のような食品系から写真屋やバーなどの娯楽系まで全てだ。


 事情を知っている俺とルナティからしたらそりゃそうだよなっていう光景だが、ふゆりんからしたら謎で仕方ないのだろう。


「それで、いい加減どういうことか説明して欲しいんですが」


 だからか、さっきからふゆりんが同じ質問をしてくる。


「まて」


「……なんか犬の気分になりました」


「お座り」


「絶対意識してますよね???」


「ちん●ん」


「誰がするかぁ‼」


「ごめん、ごめんって‼ 謝るからすね蹴らないで―‼」


 すねローキックってめっちゃ痛いんだよ!?


 人の痛みが分からないのかー‼


「ずるいな……私もガンナーのすねを蹴りたい……」


「やめて!? ルナティに蹴られたら多分足吹き飛ぶからっ‼」


「先っちょだけなら……」


「使い方間違ってるし! しかもそれ信用しちゃいけない言葉ナンバーワンだからっ‼」


 あとそれ女が男に向かって言う言葉じゃないからね? 


「すねをさすってないでさっさと動いて下さい。まだ目的地は遠いんでしょう?」


 蹴ってきた張本人が気怠そうに言ってきた。


「いや? もう着いてるぞ? 丁度お前が蹴りを入れてきたくらいには」


「え? ここ、ですか……? 見た感じただの住宅街って感じですが」


 俺たちが今居る場所。道は綺麗に整備されていて、道を挟んで一軒家が連なってい

る。どれも似たような見た目をしていて、誰かが計画的に建築したのだろう。


「そりゃそうだよ。ここ住宅街だもん」


「……? やばい、全然要領を得ません……。なんで住宅街にやって来て、目的地だと言っているんだこの人は……」


「まあ見てろって。すぐに分かるさ」


 えーっと? 


 扉に張り紙が貼られているから、時間を確認して……。この家は違うな……この家も違う……この家は……そもそも参加していないな……。


「ガンナーはなにをしているんですか? まるで不審者ですが」


「ふゆりんもすぐに事情を理解する」


 そーだそーだ。事情が分かるまで口を噤んでおけ。


 ……この家は……ビンゴだな。しかも鍵がついてない。


 目的の家を見つけたので、二人を手招きする。


 そして……家の扉を勢いよくぶち開けた。


「ごめんくださーいっ‼ 一年に一度の『起源祭』に、さいっこうの演出は要りませんかっ!?」

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