第5話:エクス狩場ー


「という訳で来たぞ」


「来たな」


「来ましたね……ってここどこですか? 黙ってついてきましたけど」


 俺たち三人が店を出てやってきたのは、俺の店がある街――『オリジン』の近くにある草原だ。


 なだらかな空気と地平線まで広がる草花たち。木は伐採されて存在しなく、暖かい雰囲気が漂う。そんな場所に青く半透明なスライムがぽよんぽよん、と跳ねている。


 遠くの方には装備を纏った人たちが、魔物と戦闘しているのも見える。


「街の近くにある有名な魔物の狩場『エクス狩場―』だ」


「……誰ですかそのネーミングをつけたのは」


「私は分かりやすくて好きだがな」


「まあ……分かりやすいと言われればそれまでですけど」


 インパクトのある名前の方が覚えられやすいって言うしな。俺の店の名前も凄い名前に変更してもいいかもしれない。


「そうだふゆりん。『ステータスオープン!』って言ってみて」


「なんですか、さっきから藪から棒に」


「いいから言ってみーや」


「わ、分かりましたよ……ステータスオープン‼ ……うわっ!?」


 驚いて尻もちをつくふゆりん。手を自分の顔の前でブンブン振り回している。


 しかしこっちからしたらなにも景色は変わっていない。彼女が急に驚いて尻もちをついただけに見えた。


 それもそのはず。これは言った本人にしか見えない。


「これは……なんですか……?」


「ステータスだ」


 今、彼女の前にはスクリーンのようなものが表示されているだろう。それは本人に関する色んなことが書かれていて、自分自身を知れるようにできている、ステータスというものだ。


 項目としては名前に年齢、性別などの個人情報。


 HP、筋力、知力、敏捷力、技量、幸運などの可視化できない能力が、数値化されて書かている。


ニホンのファンタジー作品だと、よくステータスという同じ概念があるらしいのだが、ふゆりんはそういうのに詳しくないから、新鮮な反応をしてくれた。


「自分だけじゃなくて他を見てみ」


「はい……わっ!?」


 ステータスオープンと言った状態で他の人や魔物を見ると、そいつの頭上に、ステータスが表示されるようになっている。


「凄い……けど……HPと名前しか表示されていないです」


「それは正常。他人のステータスが全部見れたらプライバシーもなにもないだろ?」


「確かに……」


 俺も「ステータスオープン」と言うと、目の前にステータスの画面が表示された。


 

 名前:ガンナー=ルバスタ レベル:34 種族:人間 

 年齢:18 性別:男

 HP:1563/1563

 筋力:30 知力:39 敏捷力:28 技量:20 幸運:25



 一般的な男性の数値と大差ない。特別高い訳でもなく、低い訳でもない。


 レベルは魔物を倒したり、なにか物を作ったりすると勝手に上昇し、レベルが上がると能力値が上昇する。要するにレベルをあげればあげる程、人間として強くなるということだ。


 俺がふゆりんを見ると、



 名前:友成冬凛 

 HP:390/390



 と彼女の頭上にステータスが表示されている。ふゆりんに説明したように、ステータスオープンの状態で他人を見ると、名前とHPだけが表示されるようなっている。

 

 これは人間だけでなく、魔物でも同じだ。ちなみに他人に見られる為、名前は変更できるようになっている。


「閉じたいときは『ステータスクローズ』と言えば消える。『ステータスフルオープン』と言えば、周りにも自分の完全なステータスが表示できる。試しに言ってみ」


「分かりました。ステータスフルオープン」



 名前:友成冬凛 レベル:3 種族:人間

 年齢:16 性別:女

 HP:390/390

 筋力:15 知力:35 敏捷力:20 技量:27 幸運:15

 所持チート:クラッカーチート×3 ローションチート×2 



 チートを持っている場合は、チートも備考としてステータスに表示される。


 まあ、転移したばかりだしそんくらいの数値だよな。


 たまーに生まれつきとかでリアルチート持ってたり、特別なステータスだったりする転移者も居るんだが……。


「あっ、そうだ。ルナティ」


「ん? どうした?」


 ステータスのこと考えていて思い出したよ。せっかくだしふゆりんに現実ってやつを見てもらおうじゃないか。


「ステータスを開示してくれ」


「ふむ、分かった。ステータスフルオープン」



 名前:ルナティ=アベルサーチ レベル:6221 種族:人間

 年齢:18 性別:女

 HP:63201/63201

 筋力:12098 知力:28 敏捷力:8675 技量:1800 幸運:26



「――まてまてまてまて‼ はっ!? 化け物すぎるでしょ‼ 数値おかしいって‼」


「ふゆりんってリアクションいいよな」


 期待通りの反応ありがとう。遊びがいがあるよ。


「数値の差がやばいんですけど!? ……というかところどころ数値ちゃんと低いし‼ 知力わたしより低いし‼ チートの影響ですか!?」


「違う。努力だ」


「えぇ……」


 チート……? 


 ルナティが……?


 ふゆりんはなにを言って……あっ!


「そうか、言い忘れてたわ。ルナティは現地人だからチート持てないからな」


「うーん……?  え……?」


 そりゃそうだろう。名前からして現地人以外あり得ないだろ。


「で、でもっ! 出会った時実演していたじゃないですか‼ ルナティが壁を破壊して、チートがあればこんなこともできるって‼」


「そりゃ高いチートならあんなこともできる。けどルナティがチートを持っているとは一言も言ってねぇぞ」 


「……」


 おいおい、まさかずっとルナティを転移者だと勘違いしていたのか? 疑いたくなる気持ちも分からなくないが。


 なんだふゆりん、その目は。


 ……もしかして俺のこと。ゴミだと勘違いしてる? 


 やめろ、そんな目で見るんじゃない。今やお前も俺の傘下なんだからな。ゴミの部下なんだからな。


「はぁ……終わったことだしいいや……じゃあどうやってそんなに強いんですか?」


「同じことを言うが努力だ。私は生まれつき体質が恵まれていたのもあるだろうが、大部分はひたすら努力したことにある」


「えー……す、凄いけど……それならチート買う意味あります?」


「勘違いすんなよ。ルナティが特別なだけで、普通の人はこんな化け物じゃないから」


 ほんとルナティはやばすぎる。


 現地人でこんなに高ステータスな人間、他に一人も見たことがない。


 リアルスペックチートってやつだな。


「……本当ですか?」


「ほんとーほんとー」「本当だな」


 そんな疑う目で見てこないでよー。


 疑われるようなことしてるのは認めるけど、今回は嘘ついてないってー。


「……わ、分かりました。信じますよっ」


「やっぱチョロインだな」


「誰がチョロインですか!?」


 おめぇじゃ‼


 少し押すだけで簡単に受け入れてんじゃねか。適応能力高すぎだろ。無人島でも生きていけるぞ。


「丁度いいし、ルナティがどのくらい強いのか見てもらおうか」


「見せればいいのか?」


「ああ。目に見える範囲で大丈夫」


 ルナティが剣を抜き、数歩前に踏み出す。俺はふゆりんを手招きした。


「一体なにが起きるんですか?」


「見れば分かる。あと危ないかもしれないから離れないようにな」


「はい……」


 ふゆりんと共に距離を取ってルナティを見つめる。



「……あれ?」

 


 一瞬だった。


 時間にして一秒に満たない間、しかし大きな変化が一つあった。


 ルナティが剣を振った状態で停止し、視界内に映っていたスライムたちが全滅したのだ。


「ど、どういう……なにが起きたんですか……?」


 剣を収め振り向くルナティ。凛々しい顔と圧倒的な力で剣を操る一連の姿は、もはや夢のように現実離れしていた。


「ルナティはこんくらい強い」


「ふぇぇ? さ、最強じゃないですか……強過ぎ……」


「……怖いか? ルナティが」


「……え?」


 大体の人、特に戦闘に関わってこなかった人はルナティの強さを見ると畏怖する。


 強過ぎるが故に、受け入れられないのだ。


「すまないな、ふゆりん。私はこういう人間なんだ」


 ふゆりんは少し考えたのち首を横に振る。そして笑顔で言った。


「驚きはしましたけど、怖くはありませんよ」


「……流石ふゆりんだな。なんでも受け入れてくれる。ホワイトホールというあだ名をつけてやろう」


「それを言うならブラックホールでしょ。どっちにしろ全然嬉しくないですけどね」


 あだ名ブラックホールだと、めっちゃ大食いの人だと勘違いされそう(俺調べ)。


 でもよかった。ルナティの剣を間近で体感したのなら、少なからず恐怖心を抱くはず。それでも表に出さず、今まで通り接してくれるのは素直に嬉しかった。


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