第37話 甘えん坊のセクハラ美少女
どこから持ち出したのかごついカメラを構えた透花が、メイド姿の俺の写真を撮り始める。
「うっひゃーーーティアちゃん素敵ぃぃぃ。こっちに目線頂戴、そうそれ最高! じゃあ次はここに座って、そう上目遣いで! あああ、いい、いいわ。その本当は嫌なのに逆らえない屈辱的な涙目……さすがティアちゃん、才能あるわぁ!」
「才能も何もこれ演技じゃないからね。心底嫌がってるだけだからね!」
でも何だろう、この感じ。
透花にべた褒めされるのは恥ずかしいけど、でも同時に、胸がドキドキする高揚感もあるような……。
「あああ、ティアちゃん天使! 素敵! 溶けちゃいそう! あーそのポーズいいよ。そ、笑って……今度は少し拗ねたみたいに……うあああああ尊い、しんどい~~~~~」
「あ、あまり褒められると照れるから……」
は、恥ずかし過ぎる。
でも、俺の写真撮影なんかで透花がこんなに喜んでくれなんて……ちょっと、いや、凄く嬉しいかも。
シャッター音を聞くたびに、なんだか頭がふわふわしてくる。
熱に浮かされているような変な気分……少し怖い。
でも、透花のためなら何でもしてあげたいという気持ちが溢れてくるのを抑えられない。
「じゃ、ちょっと胸元のボタンを外してみようか?」
「うん……」
「あーすごい、すごい可愛い! スカートをちょっとたくし上げてみてくれる?」
「こ……こう?」
「可愛い! 世界一可愛い! それじゃ、そのまま前屈みに――――」
「えっと……こうかな?」
……。
…………。
………………。
写真撮影が始まっておよそ三十分後。
あられもない姿のまま、奥の部屋に連れ込まれそうになった時、俺はやっと正気を取り戻したのだった。
「うう、もうお嫁にいけない……」
「えへへ、ティアちゃんったら、そんなに拗ねないでよ~」
「拗ねてないから。ただ自分という存在が恥ずかしいだけだから。恥かし過ぎて死ねる」
多大な精神的ダメージを負いながら、写真撮影を終えた俺と透花(二人ともメイド服のまま)は、席に戻り、本来の目的であるランチタイムへと突入していた。
「すごーい、可愛いよコレ。それにすごく美味しそうだよ」
次々と運ばれて来るファンシーな料理たちに目を輝かせる透花。
テーブルにはうさぎのハンバーグプレートにメイド喫茶王道のオムライス、それとハートのチョコが散らされたカフェモカなどが、所狭しと並んでいた。
「ほーら、いつまでも拗ねてないで一緒に食べよ♪ あんまり冷たくされると、お姉ちゃん泣いちゃうぞ☆」
可愛いらしく笑って誤魔化そうとする透花……ってか、まだ姉妹設定続いてるのかよ!?
「それに写真撮影、ティアちゃんだって結構ノリノリだったじゃない」
「うぐ……それは……さっきのアレは自分が自分じゃなかったというか……」
「じゃあ、わたしに写真撮られるの、嫌だった?」
「そ、そういうわけじゃないけど……」
その顔と、その言い方はズルい。
「じゃ、お詫びに今度はティアちゃんがわたしの写真撮る? 大好きな妹のためだったら、お姉ちゃん
「なんで一肌二肌みたいに言ってんの!?」
「
「ぐ……」
撮りたい。撮りたいに決まっている。
学校で着替える時は、恥ずかしくて申し訳なくて、まともに見れたことなんてない(透花はガン見してくるけど)。
でも、今は透花から写真撮影の許可が下りている。
――撮っていいってことは、見ていいのと同義だよね?
とはいえ、俺のような
でもこういうのって、断るのも逆に失礼だっって聞いたりもするし……。
「……ぐぬぅぅ、どうすれば、私は一体どうすればいいんだぁぁぁあッぁぁ」
「あー、ティアちゃんごめんごめん。意地悪しちゃって。冗談、冗談だから……ね」
ついに頭を抱えて悶絶し始めた俺に、透花が慌てて助け舟を出す。
「え……冗談……だったの……?」
「そんなガッカリするなら、冗談じゃなくてもいいけど?」
「いえ……冗談でいいです……」
想像しただけで悶絶モノなのに、実際に写真撮影なんかした日にゃ脳細胞がショートして廃人になってしまうに違いない。
「じゃあ、代わりにこういうお詫びはどう? はい、あーん」
「え……あーんって!?」
うそ、透花が俺に食べさせてくれるってこと?
ドキドキしながら顔を上げると──
──そこにはひな鳥のように口を大きく開けてあーんしている透花がいた。
「って、私が食べさせるんかい!」
「えー嫌なの? 私の口に何でも好きなものを捻じ込んで、頬張らせられるんだぞ?」
「何でわざわざ卑猥な言い方するの!? ご飯だから、ただのご飯だからね!」
「あはは、でも食べさせて欲しいのは本当だよ~。ねぇティアちゃーん。大好きなお姉ちゃんにご飯食べさせて~」
何よ。何なのよ。この甘えん坊の透花さんは。くそ、あーもう可愛いな。可愛すぎる。
可愛すぎて膝が震えてきたぜ。
「あーん」
そんな俺の反応を楽しむように、口を開けて俺を誘う透花。
「う、ううう、あーーーー分かったよ! やってやらぁ! い、行くぞ、透花!」
うさぎさんハンバーグの一角をフォークで切り取り、震える手で透花の口元へと運ぶ。
――パク。
「ん、美味しい。ありがと、ティアちゃん。大好きだよ」
そう言って、ぺろりと唇を舐める透花。
その一言に、その仕草に、一気に顔が熱くなる。
やっぱり透花はズルい。
散々からかって、セクハラして、甘えて、最後に大好きってのはズルすぎるだろ。
口元を手で押さえたまま、何も言えなくなってしまう俺。
それを見て幸せそうにニンマリ笑う透花。
そんな俺たちを見守っていた店中の誰もが、何故かスタンディングオベーションで褒め称えてくれるのだった。
…………なんだこれ?
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